02_08_01
第一部 完!
いてえ…体がいてえ…
朝の目覚まし音を聞きながら、きしむ身体をもたげるマガネは、そのスイッチを切った。
昨日よりは幾分ましとなったが、体のあちこちが悲鳴を上げて、一つ動作を行うたびに、その身体をひどく痛めつけた。
イエローストーンでのビーストライドレースから、何日か経っているのに、身体の痛みが一向に引かない。
イエローストーン特設レース会場でのハードエンデューロを終えた後、すさまじい疲労とともに、ベットに潜り込んだマガネは、次の一日、ベットから起き上がることが出来ずにいた。
休日だったことが幸いして、その日は、ぐったりとベットから動けず、食事の時に階下のダイニングルームに行くのでさえ一苦労のあり様だった。もたれかかるように手すりにつかまって、這うように一階に降りて来たマガネの姿を見て、母、ユウミは、
「ずいぶん激しい試合だったのねえ?」
と首をかしげて言った。
「ああ、練習試合だったけど、相手は強豪校だったから」
やっとテーブルにたどり着いたマガネが椅子に腰を下ろした瞬間、臀部からの激痛が背筋を走り、激しく顔をしかめた。
「いちちち…」
「なに?怪我でもしていない?大丈夫?」と心配そうに聞くユウミに、マガネは
「それは、大丈夫だと思う」
引きつった笑いを浮かべるマガネ。アメフトのスタメン候補にまで迫るほどには、身体を鍛えている自信があったマガネだったが、まさか、こんなにも筋肉痛にさいなまれるとは思いもよらなかった。合宿後のハードトレーニング後にも勝るとも劣らない激しさに、レースの過酷さを思い知ったマガネだった。
「でも、残念だったね、試合、負けちゃって」
グラスにミルクを注ぎながらユウミ「やっぱり履きなれたスパイクのほうがよかったのかな?」
と、ため息交じりに言うと、マガネは
「それは関係ないよ…単に実力不足。もうちょっと練習頑張んないとね…」
とつぶやくように言った。トーストにバターを塗り、口に頬張るマガネが視線を泳がせると、昨日の部室でのレイチェルの話を思い出した。
「そう、今冬での練習いかんによって、君たちライダーの実力は大いに左右される」
元気よく教壇で切り出したレイチェルは、部室に集まった一同を見回した。痛む身体を引きずって、ようやく登校してきたマガネは、ぐったりと机もたれかかって聞いていた。
登校時に「おはよう!マガネ!」とテムジに肩をポンと叩かれただけで全身が悲鳴を上げた体がきしむようにがくがく震える。「だ!大丈夫?マガネ?」あたふた慌てるテムジに作り笑いを浮かべるマガネだったが、「今日は部室でのミーティングあるから」顔をだしてよ、と言われて、そんなこんなで今日一日は授業にならず、ようやく放課後のビーストライド部の部室でのミーティングにまでこぎつけたのだが、
「よう、アメフトライダー…お前もか」
ロボットダンスのようにぎこちなく歩くマガネが振り向くと、同じく、出来の悪いパントマイムでも踊るように、身体を引きずりながら歩くエンディとカインが現れた。お互い引きつった笑みを浮かべる三人だったが、
「なんだよ、アメフトの筋トレも大した事ねーな」
あっはっはっは!と、腰を曲げてゆっくり歩くエンディが、無理やり大股で歩き出し、マガネを追い抜いていく。
「うるせー!使う筋肉が違うんだよ!」
すり足を早めて追うマガネ。痛む身体をひきづりながらお互い罵り、ゆっくりデットヒートで部室に向かって行く。そんな様子をやれやれといった様子で眺めるカインが、
「なにやってんの?二人とも」
呆れた様子でこぼしながら、筋肉痛で固まっている自信の身体に力を入れて二人を追いかけた。腰をかがめて、上半身の重みで前に進んで行くカインだったが、その横をティナがこともなげにスーッと追い越していった。そのままマガネとエンディの横を通り過ぎて、部室の扉に手をかけると、「おさきに」と涼しい顔で悠々と部室に入っていった。
「なんで、ティナは平気なの?」
驚愕の表情を浮かべるエンディ。マガネは引きつった笑みを浮かべながら、
「そりゃ、お前、ジャングル…」
と言うが早いが、がいーん!と飛んできたヘルメットを顔面に受けて、マガネが大の字に倒れた。
そんなわけで、痛む身体に耐えながらのマガネとエンディとカイン。マガネはアオタンも追加されたが、その他、ティナ、ユアン、テムジも含めて、壇上のレイチェルの話を聞いていた。
「ビーストライドのミドルクラスの大会が全米で開かれる来春までには、効果的で実践的な練習をこなさないとね。そのためには学校のコースだけだと、ちょーっと不十分なのよね!」
北緯の高いエステート学園の冬は厳しく。雪深くなるため、ライドコースでの練習が困難となる。なので、より赤道に近いライドレース場を練習の場として抑えることで、春の大会に向かってコンディションを整えなければならない。
「でも、冬場に走行可能な有名どころは、強豪校が抑えているんでしょ?」
「ヨセミテやチュトロケットル、カールズバットなんかの有名特設レース場って、今からでも入れそう?」
「ユニバースは、グラウンドキャニオン特設会場で冬季練習だってさ」
「うえっ!きったねえ。来春大会の決勝コース候補じゃん!」
ワイワイと思い思いに騒ぐ部員たちをしり目に、ふふんと鼻で笑うレイチェル。
「そう、だから、こっちも本格的なコースでってね」
と電源を落とすと、ユアンがプロジェクターでモニターを映し出した。
「常夏の島、ハワイ、ダイヤモンドヘッド、特別ライドコースで冬季練習を行う予定です」
一面に映し出される南海の島のライドコースエリアマップに、一同が「おおー」と感嘆の声を上げた。
「先生の知り合いが現地のライドレース部で後進の指導を行っていてね、そこの学校の生徒とも競合できそうなのね。それに、もともと赤道近くで変わることのないコンディションと、起伏にとんだ火山帯コースに敷設された、評判の良いライドエリアだから、貴方たちライドスキルも、きっとレベルアップできるわ!」
楽しそうにレイチェル先生が提案してきたのは昨日だ。
トーストを食べながら、マガネは、ママに、冬季のビーストライドの練習のためにハワイに合宿に行く許可を切り出すタイミングを計っていた。
「せっかくレギュラー入りしたのにねえ…、でもいい線いってるんでしょ?」
「んー…、まあまあね」
ママにはまだビーストライド部に転籍したことは言っていない、もしばれたら大ごとだ。
「だからさ、冬季の合宿があってさ、それに参加したいんだ…、いいかな?ママ?」
恐る恐る聞くマガネ。
「ハワイで、なんだけど…」
「ハワイ!また、遠いところでやるのね!」
目を丸くして聞き返すユウミが笑って答えた。
「いいわよ。行ってらっしゃい。ちゃんと、スタメン維持するのよ!」
ウインクして応えるママ、ユウミ。引きつった笑いを浮かべていたマガネは、その姿を見てホッ…胸をなでおろした。
「ちょうど良かった。私も仕事でハワイに行く用事があるから、現地で、マガネのアメフトの練習姿見ちゃおう!」
え!
驚くマガネに背を向けて、キッチンに向かうユウミ。
しまった!まずいぞ!これ、どうしたらいいんだ…
鼻歌交じりで洗い物を行うユウミの後ろ姿を見つめながら、マガネはまんじりと、ビーストライドの合宿であることを隠すためにどうするればいいか思案するのであった。
冬の北米を離れて、常夏の島、ハワイでのビーストライドに向かうマガネたち。
しかし、そこで待ち受けるのは、ダイヤモンドヘッドでの過酷な特訓と、ハワイ諸島での陰謀をめぐるレースを越えたハードエンデューロであった。王朝の存亡にまつわる秘宝、テフィフィの涙を巡って、キラウエアに横たわる地獄の灼熱コースが、マガネ達の前に立ちふさがる。
次回、ビーストライダー・マガネ ~ハワイ・ダイヤモンド・オーバーヘッド編~
マガネは、ママ・ユウミにばれずにビーストライドを続けることはできるか?
*ここまでお付き合いください有難うございました。続きは、また書きたい意欲が高まったら描くかもしれません。最後まで読んでくださった方には本当に感謝です。ではでは、




