表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
22/47

第21話

「あー、満足した」

「そりゃあ、あんだけ俺を着替えさせればな」


 レジで精算をし、戻ってくるとロコはベンチで足をぶらぶらとさせていた。

 結局、俺はロコの選んだ最高の私服コーデ一式いっしきを全て購入した。

 何が最高なのかは謎だが、せっかくロコが俺に似合うと思って選んでくれた服だ。

 買わないのも、休日におっさんの買い物に付き合ってくれたロコに申し訳がない。


「これで剣真けんまはもっとモテモテになるよー」

「楽しみにしてる。でも私服見せる相手、基本的にお前しかいないけどな」

「おや~、気付いちゃいましたか~」


 口に手を当て「ぷぷっ」と笑う。 

 俺にとってこの買い物は、あくまでこれはロコを油断させる為のカモフラージュ。


 本当の目的は、そう、他にある。


「この後どうするの? 他のお店も回ってみる?」


 あまりカモフラージュをダラダラと続けるのは逆効果の可能性もある。

 ならばここは、もう本来の目的地へと突入してもいいかもしれない。


「......だな。実はもう一か所、どうしても行きたいお店があるんだ」

「また洋服屋さん?」

「そいつは行ってみてのお楽しみということで」

勿体もったいぶるねぇ~。いかがわしいお店じゃなきゃいいけど」


 ロコはけたけたと笑ってベンチから立ち上がり、また俺と手を繋ぎ始めた。

 この後サプライズが待っているとは知らずに......のんきな元・柴犬JKめ。

 俺は胸の奥のわくわくの気持ちが顔に現れないよう、本来の目的地までの到着の間、どうにか耐えた。





「......え、剣真......ここって.........」


 ぽかんとした表情を浮かべ、どうしてここに連れて来られたか分からないといった考えだ

ろうか。予想通りの反応だ。


「最近のJKに人気のお店なんだってな。職場の学生アルバイト達に訊いたんだよ」


 正確には副店長が俺の代わりに訊いてくれた、というのが正しい答えだが。


「うん......私も一度は行ってみたいなぁとは思ってたけど......まさか剣真の方からここに連れて来られるなんて思ってもいなかったから......驚いちゃって」


「驚きついでにもう一つ、驚くことを言ってやる。ここでロコの好きな物買っていいぞ。今日は俺のおごりだ」


 そう。今回の俺の本来の目的は、このお店でロコにプレゼントを買ってやること。

 洋服関係をプレゼントする場合は、直接本人をお店に連れていった方が良いと、副店長からのアドバイスで、こうしてロコを連れて来た。サプライズで。


 副店長からの情報通り、かなりの人気店のようだ。

 こうして店の外からでも、店内が若い女の子で混雑しているのが確認できる。

 

「......え~と、剣真、どういうこと?」

「そのままの意味だ。この前の試食販売員の件もそうだけど、ロコには再会してからずっとお世話になりっ放しだったからな。その感謝を込めてってやつだ」


 事情を説明しても、なお混乱した瞳を向けている。


「いや、そんなの悪いし......前にも言ったけど、あれは私が好きでやっていることで、剣真が気にする必要は――」

「じゃあこういうのはどうだ? 俺とロコの再会記念ってことで」

「だったら私も剣真に何か――」

「お前はさっき、俺の服を選んでくれただろう。それで充分だ」

「でも――」


「俺がそうしたいんだ」

 

 ロコの瞳を見据え、俺は嘘偽りの無い、ストレートな気持ちをぶつけた。


 数秒後、ロコの表情にかすかに変化が起きた。


「..........本当にいいの?」

「いいに決まってんだろ。こちとらボーナス貰ってお金には余裕があるんだよ。JKが大人の財布の心配すんな」


 それを聞いて、ゆっくり、いつもの無邪気な笑顔へと変わっていった。

 どうやら俺の気持ちはロコに通じてくれたようで。 


「.........そっか。じゃあ、お言葉に甘えて買ってもらおうかな」

「あ、言っとくが、予算は三万までな」

「リアルな数字だね。普通あそこまで言ったら予算とか言わないでしょー」

「悪かったな。女心の分からない男で」

「ううん......剣真らしくって、私は好きだよ☆」


 めらているのか、けなされているのか、ぼかしがかかっていてよく分からない。

 が、ロコが喜んでくれているだけで、今の俺は大満足だ。


『......あのカップル、凄いね。お店の前でプロポーズみたいなことしてるよ』

『いいなぁ。私もあんな風に熱い恋愛がしてみたい』


 はたからみれば、愛の告白に見えなくもないのかもしれない。

 俺は急激に恥ずかしさの大波おおなみおそわれ、ロコの手を引っ張るようにいそいそと店内へと入っていった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ