56.過去
亀の背中の道路は中心に1本だけそれ以外に道はない。左右の草むらの奥に行き過ぎると地面まで30mはありそうだ。そうは言っても全長で200m程、鉱山としては小さく亀にしては大きい。
尻尾から甲羅に登り50m程歩いたところに大きく甲羅に穿たれた穴がありそこから梯子を使い作業員達は甲羅内部に入って行く。俺達はその穿たれた穴を通り過ぎ、頭の方に向かって歩く。
道は既になく草を踏み固めた獣道になっていた。ホークは更に奥に進んでいく。暫く進む。
すると少し開けたところにでた。そこには草は少なく1軒の小さな家が建っていた。家の後ろの眼下には亀の頭が見え更に向こうには砂丘の山がぐるりと亀を囲んでいた。
家の周りは丁寧な柵が拵えており落ちないような配慮もされている。
ホークはその家の前で俺達を待ち、3人を中に促した。
家の中に入るとカーテンで仕切られた隣の部屋からリンダが現れる。
「いらっしゃい。ザックさんとエリンも来てくれるとはね・・・。」
ザックさんは、苦笑いをしているリンダをちらりと見て「ああ。」と頷き元気なく下を向いた。エリンさんは何も答えずリンダさんを悲しげに見つめている。
「こんなところまで呼びつけて何の用だ?」
俺がまず用件を聞く。
「そうね。まずはここまで来てくれてありがとう。・・来ないのかとも思ったわ。貴方をここまで呼んだ理由は2つあるの。1つは北の壁の監視から逃れて会話するためよ。もう1つは・・・。」
リンダは一旦話を止めてザックさんとエリンを見てから話を続ける。
「そうね。こっちにいいかしら?」
リンダは隣の部屋のカーテンを開いた。そこにはベットに寝かされた女性。
青く長い髪で額に硬く絞った手拭いが乗せられて荒い息を吐いている。
その女性に近づくエリン。
「姉さん?エメラダ姉さんなの?」
ザックさんも目を大きく開け膝を付き、エメラダに近づく。
「本当か・・・・本当にエメラダなのか?」
ザックさんは縋るようにリンダを見上げた。
「そう。彼女はエメラダ・・。私の・・親友よ。」
ザックさんは立ち上がりリンダを見る。エリンさんはエメラダの傍に寄り添い泣いていた。
「詳しく・・話してくれないか?」
リンダはベッドの横に腰かけエメラダを悲しげな瞳で見つめる。
「私は北にある王国の人間なの。・・表にいるホークもよ。まあ・・事情があって私はそこから逃げ出したのよ。私は西の湖で力尽きエメラダに助けられて、この地に辿り着いた。その後はザックさんやエリンの知っている通りよ。エメラダとザックさんに引き取られた私は凄く幸せだったわ。
・・それは本当。・・その幸せもほんの僅かな時間だけだったけれど・・。
暫くして北から私に追手が掛かったのを聞いたわ。私はそれを街に突然やってきたホークに聞かされた。
私はちょっと偉い立場にいてね、ホークは護衛隊の1人だったの。昔はよく私の愚痴を聞いてくれていたわ。そのホークが私に、私を連れ帰るのが目的ではなく、私の殺害が目的だったんだって。先に見つけて良かった。逃げましょうと言ってくれたわ。
でも・・エメラダはその話を聞いていた。エメラダは迷いもせず私とホークの逃走経路を確保して誰にも解らないように西の湖まで送ってくれた。」
リンダはエメラダの額に乗っている手拭いを取り、裏にして体温で温もった部分を表に置いた。
部屋のカーテンが少し開きホークが壁に持たれて立ち、話を継ぐように話し出した。
「リンダと俺は、このエメラダさんに東の壁際まで案内されたんだ。そこの壁の前には今はないが大きな木が立っていて、リンダとエメラダさんは2人で木を登って壁を越えた。
俺は殿を務めた。リンダに名を呼ばれ最後に壁を飛び越えようとした時に・・・。
その・・子がこちらを見ていたんだ。
俺達はエメラダさんに礼を言い、湖で別れ、先程のリンダの話通りこの地に辿り着いた。
だが・・直ぐにここにも北の護衛隊が到着した。鎖で繋がれたエメラダさんを連れてな・・。
リンダはエメラダさんを見捨てることは出来なかった。当時、俺の上官の護衛隊長だったガルバルという男が湖で別れる俺達を見ていたそうだ。俺達は運にも見放された。・・そう思った。
だが、ガルバルはエメラダさんと引き換えにリンダに取引を持ちかけてきた。
街を北門から制圧したガルバル達は既に城主を討っていたんだ。
ガルバルは本国にはガルバル含め、リンダも行方不明ということにすると・・。そしてガルバルの狙いは鉱山だった。俺達の住んでいた北の王国バルディア、更に北には銀色の亀は存在しているんだ。
その躯からは鉄や銀を含む鉱石が絶え間なく発掘され、年月の経過した奥深く腹の付近では銀に瘴気を纏い合金と化したミスリルという幻の鉱石も出ると聞いていた。
銀の亀など倒すことは出来ない。だが躯を探すチームは国に存在を許され、この何千年も生きていた躯に国は懸賞金を掛け、夢を追う人間達を募った。その集まった人間達は総じて冒険者ギルドと名付けられ1つのチームとなっていった。
・・話は少し逸れたが、その南の亀の躯をみつけたガルバルはホムラと名乗り北の王国と貿易をし始めた。街の北に高い壁が出来たのはその頃だ。
ガルバルはリンダに火の魔法で住民全ての抹殺を命じた。鉱山工だけ生きてればいいと思ったからだ。」
・・とうとう出たよ。ミスリル。
ホークは地面に片膝を立てて座りリンダと眠っているエメラダを見た。話を続けようとしていたホークを俺は遮った。俺も思ったことをいう。
「アンタ等は、鉱山の住人達とは上手くやってるみたいだが、鉱山工の鉱夫達も元は西下層や東下層の人間達なんだろ?まあ、恐らく皆殺しはアンタ達で阻止したんだろうな。
・・感情抜きで、もしみんな殺してたらここに鉱山工はもう居ないんじゃないか?アンタらだったら家族皆殺しにされて、よっしゃ頑張るぞってなるのか?・・まあ解るよ。教えてないんだろう?西下層の現状を。だからアンタ達はここを住みやすくしてるんだろう?南だとは言えここは陸の孤島だ。
帰るに帰れない。でも全て皆殺しにすれば噂ぐらいは立つ。ギルドの奴らもいるみたいだからな。
鉱山工に俺達の家族は元気にしてるか?って聞かれたら今の現状でも何とか答えられるだろう。
だが全て殺してたらどうだ?・・ああ元気だって平気な顔して言えるクズばかりなのか?少なくともここの奴らはそうは見えなかったがな・・。
もしそうなったら、そのガルバルっていう馬鹿は自分で掘るつもりだったのかなって思ったんだ。ああ。奴隷の様に使うにしても家族は大事だぞ。人質としてだ。・・・そこんとこどうなんだ?」
皆押し黙り俺をみていた。・・・そうなんだ。彼らは壊れそうな船で対岸に渡り最初の目的を果たし、帰りに同じ船で渡ろうとして死ぬタイプだろう。




