結婚
そして彼は、言っていた通り二年後に予定していた結婚を、半年後に変更してしまった。
お父様も、何を吹き込まれたのかわからないけれど、とても非常に大層協力的なので準備は順調だ。
お父様は最近、まだ結婚前なのに家でも外でも彼のことを「婿殿」と呼んではばからない。前から彼のことをかなり気に入っていたのは知っていたけれど…。
…もしかしてこれ、外堀を埋められているのだろうか。…別に困らないけれど、ちょっと落ちつかない。
そして例の妹とも会った。
私より頭一つ以上背の低い、小さな女の子だった。
確かにこんな声だった気がするし、あの時一緒にいたマリーも「この子だと思います」と力強く頷いてくれた。
その子は、彼の腕にしがみついて「あなたなんかにお兄様をーー」と言いかけて、軽く頭を叩かれ引き剥がされていた。
かなり遠慮のない間柄のようだ。
別に一緒に暮らす訳じゃないし、そのうち仲良くなれるだろう。多分。
◇ ◇ ◇
そんなことがありつつ、遂に彼との結婚の日がやって来た。
いや、気分的には全然「遂に」って感じではないのだけれど。
だって、普通なら二年かけてやることを半年で準備したのだ。むしろ「え!?もう!!?」って感じだ。
でもそのおかげで、不安になる暇なんてなかった。
急ピッチではあったけれど、彼とお父様の共同監修だから多分足りないものとかはない筈だ。万一あっても、後からこっそり揃えればいい。最悪新郎と新婦さえ揃っていればいいだろう。
…こういう考えが出てきちゃうあたり、私って本当お父様の子だと思う。…嫌じゃないんだけど、ちょっと複雑だ。
だってお父様って時々………
うっかり暗くなりかけたのを、頭を振って切り替える。
ダメだ。おめでたい日にこんなこと考えてちゃ。
そう。今日はとてもおめでたい日。
私と彼が結婚する日。
大好きな彼と夫婦になれる日。
そう思ったら、頬がどうしようもなく緩んだ。
室内に置かれた、大きな鏡を見つめる。
そこには、綺麗な純白のドレスに身を包んだ一人の女性がいた。
マリーの超スペシャルメイクと、お父様と彼とマリーが何故か私そっちのけで選んでくれたウエディングドレス。そのおかげで、どこに出しても恥ずかしくない、素敵な花嫁姿の私が。
よし完璧。矢でも鉄砲でも持って来い!
気合いを入れて立ち上がったその時、ドアがノックされ彼が顔を出した。教会へと一緒に向かう為に迎えに来てくれたのだ。
彼は私を見て、眩しそうに目を細めた。
「今日は特別綺麗だ」
そう言ってもらえたことが嬉しくて、自然と微笑みが浮かぶ。
…後からマリーに愚痴って判明したのだけれど、あの話し合いの時、彼は私の顔を貶したのではなかったらしい。
知らずに盛大に惚気ていた私を見るマリーの生温かい目が痛かった。
…それはともかく。
手を伸ばして、差し出された大きな手をきゅっと握った。
これからの人生を、一緒に歩んでいく人の手をしっかりと握った。
彼の手の温もり。笑顔。
彼と、夫婦になれるーー
喜びが全身に、満ちあふれた。




