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【完結】余りもの同士、仲よくしましょう  作者: オリハルコン陸
本編

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13/27

話し合い

今日私は、彼と会っていた。

前回と同じくうちの屋敷の室内で。ドアを開けたまま人払いをして。

私を好きだと言った彼との間に、どんな行き違いがあったのか確認する為に。


少し離れたところに、立ったまま壁にもたれかかって腕を組んだ彼。

鋭い視線で私を見ている。


婚約者の…もう…元婚約者と呼んだ方がいいのだろうか…の女性関係を問いただすなんて気まずいけれど、確認しなければ。これがきっと最後の機会なのだから。お父様が折角この場を用意してくださったのだから。

…たとえどんな結果になったとしても、聞かずに後悔し続けるよりはきっとマシだ。


「で?」


不機嫌そうに短く促されて、躊躇いながらも口を開いた。


「あの…お話を聞いてしまいまして…」


「話?」


彼が訝しげに眉を上げた。


「その…ジェイ……ソン様が女性と…」


うっかりジェイと呼びそうになって、慌てて付け加えた。

彼の眉間に皺が寄った。


「女性…?」


心当たりがないのだろうか。

それとも…ありすぎる?

本当にもう彼のことがわからない。

モヤモヤする…。


「その…一度お屋敷に伺った時に…」


しばらく眉を寄せていた彼が、ああ、と呟いた。


「従姉妹に会ったのか?」


「会ったという訳では…」


いくら会いに行く約束をしていたとはいえ、盗み聞きした形になってしまったので、少し気まずくて視線を落とす。

…でも従姉妹とあんな会話を…?


「その…込み入った話をされていたのをうっかり聞いてしまって…すみません…」


「……………」


そこまで言うと、彼は黙ってしまった。勝手に話を聞かれて怒ったのだろうか?


チラリと見上げると、難しい顔で考え込んでいた。どんな会話だったのか思い出せないのだろうか?

それとも………まさかあんな会話が日常茶飯事な訳ではーー


ここにきてとんでもない一面が発覚したのかと血の気が引いた時、彼が大声を出した。


「ああ!そういうことか!」


何だかとても驚いたような、呆れたような複雑な顔。そしていきなり距離を詰められ肩をつかまれた。


「あれは従姉妹…というか妹だし、それにまだ10歳だ」


大真面目な彼に困惑する。


「妹…みたいな従姉妹…ですか?」


「いや、実の妹だ。子どもができない叔父夫婦に泣きつかれて、親が渋々養子に出した」


「妹…さん?」


しかも10歳…?

そういえば若い声だとは思ったし、姿も見ていないけれど…

そっと彼の顔を窺うと、大きく頷かれた。


「今度紹介する。何だか妙な懐かれ方をしていて、俺と結婚するつもりでいたようなんだ。兄妹で結婚はできないと言ってはあったんだが…。あいつがもっと小さい頃に、子ども相手だからと適当にあしらったのを真に受けたみたいで…」


「指輪…」


彼の顔が苦々しく歪んだ。


「当時、街に出た時にねだられたから露天の指輪を買ってやった。こんなことになるなら、買わなければよかった」


それで…「結婚するつもりはない」。「ガラクタ」…?

確かに筋は通っているけれど…


「折角君がうちに来るのに、ゴネて中々部屋を出て行かないものだから、気が立っていた。妙な会話を聞かせてすまなかった」


…信じて…いいのだろうか?

迷いはあるけれど、


「あれを誤解されていたのか……俺が結婚したいのは君だけだ」


と真っ直ぐな視線で言われてしまっては


「はい」


と頷く以外、彼を大好きな私にはできなくて。


「その…妙な誤解をしてしまったようですみません…」


半信半疑ながらも謝罪すれば


「何、君も俺のことが好きだと知れた。悪いことばかりではない」


とほっとしたように笑われて、その腕の中にすっぽりと優しく包まれた。




彼の腕の中にいるうちに、信じてしまってよい気がしてきた。

だって私が今まで彼から向けられてきたのは、優しい側面ばかりで。今までずっと、彼は私を大切にしてくれていた。


彼の説明は、十分納得のいくものだった。実の妹なら結婚なんてしないし、まだ10歳ともなれば尚更対象外だ。

…特殊な性癖でもない限り。

だから…勘違いをもう一度きちんと謝って…それで……うん…




しばらく目を閉じてそうしていたのだけれど、不意に彼がボソリと呟いた。


「………いっそ逃げ道を塞いでしまおうかと思うんだが」


「え……?」


低い声に驚いて上を向く。

真面目な、射抜くような視線が降ってきた。


「君のお父上が言っていた。君は俺のことが好きなんだろう?こんなことが結婚までに、またあってはたまらない」


彼の手が、私の頬に添えられた。

大きな手が私の顔を包み込む。


「逃げられなくしてしまえば、婚約を解消したいなどと言い出さなくなるだろう?」


強い視線に囚われて動けない。


「逃げ…られ…なく…?」


彼が暗く笑った。


「『そういうこと』をしてしまえば、君は俺と結婚するしかなくなる」


「っ!!!」


言葉の意味を理解して、ブンブンと思いきり首を横に振った。

そんなのダメ。そんなふしだらな真似。

それに万が一結婚しなかった場合、困るのは女の方だけなのだ。

そんな私の不安を察知したのか、彼が笑った。


「大丈夫だ。結婚前に手を出しておいて俺から婚約解消など言い出せば、君の父上は確実に俺を殺しにくるだろう?」


それは…そうかもしれない…

お父様は結構…実はかなり…血の気が多いから。


「俺からも、婚約を解消したりしない。だから…」


彼の腕に力がこもって抱きすくめられた。耳に唇が触れる。


「してしまわないか?君がもう二度と、俺から逃げようなんて思わないように」


そのまま軽く食まれて、膝からカクンと力が抜けた。自分では立っていられずに彼にすがりついてしまう。

彼が耳元で笑った。今まで聞いたことのなかった、色気のある声で。


「これは了承か?」


必死に首を横に振る。

もう、身体に力が入らないけれど。

彼の声に、呼吸に、腕の熱さにゾクゾクするけれど。

でもダメ。

そんなのダメ…。


「…嫌……」


何とか小さな声で呟くと、彼が困ったように眉を寄せた。


「そんな反応をされると、逆に強引にでもしてしまいたくなるんだがな…」


驚いて思わず身を捩ると、ぎゅっと抱きしめられて動けなくなった。

彼はそのまま動かない。

ただじっと、抱きしめられる。

やがて大きく息を吐いて、彼が身体を離した。


「君がそう言うなら、結婚するまで待とう」


その言葉にほっとしたけれど、


「だが…」


と続けられて緊張する。

何を言われーー


「結婚は前倒しするぞ。二年も待てない」


「え……」


ポカンと見上げると唇を塞がれた。


「それとキスもする。これだけ譲歩しているのだからいいだろう?」


そして、いいと言う間も嫌とも言う間も与えられないまま、もう一度キスされた。


「君の唇は柔らかいな」


そしてもう一度。

顔を赤くする私に彼が微笑む。


「そういう顔もいいな」


更にもう一度。


「待っ……」


彼から逃れようとしたら、拘束がキツくなってもう一度。


「お願い…待って…」


突然の展開についていけず、涙目で訴えたら、ぎゅっと力強く抱きしめられた。そして耳元で大きくため息を吐かれた。


「ダメだろう。その顔は」


…いきなり顔にダメ出しされた。


流石に憮然とする。

確かに今日は、そこまで気合いを入れるのは違う気がして、マリーのスペシャルメイクではないけれど。

マリーの神業がない私は、それはそれは普通の顔だけれど。

何もそこまで言わなくたって…

無言で拗ねていたら


「君はもう、結婚するまで屋内で俺と二人きりになるな」


と言われてしまった。

今、二人きりなのは、私の意思というより止むに止まれずなのに。

と言うか


二人きりになりたくないほどダメな顔なの…?


唖然とする私に、彼が真顔で告げた。


「君の純潔を保証できなくなる」



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