表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
7/11

その7








中学の、夏休み前の事だ。

今日は午前中で授業は終わった。

だから早く帰れる。

だけど、その代わりに弁当なんて持ってきていないので、空腹はピークだ。

部活動に所属してるやつらなんかは、弁当で腹を満たして午後から部活動に参加している。

だから、それを横目に羨ましく思う。


「握り飯の一つでも持ってくりゃ、そんな悩みもないだろ。」

美月はそう言うが、部活やってるわけでもない。

だからといって弁当なんて持ってきてるわけでもない。

あくまで「弁当は」だ。

僕は隣の席で美月が授業中に時々、お菓子を食べているのを知っている。

一番前の席で、先生の目の前だというのに全く、図々しい根性をしている。

いや、多分コイツならたとえバレていようが、怒られようが反省しないだろう。

「授業に集中する為に、必要な間食だ。暑くて脱水になったら大変だろうし、塩分も摂らなくちゃダメだろ?生きるために必要な事だ。」

とか言う。

物はいいようだ。

「だけど、それなら塩飴とかでいいだろ。なんでわざわざポテチとか音の目立つお菓子ばっかなんだよ」

「塩雨?すごいな塩分を含んだ雨か。海水で磯の香りがしそうだな。」

ベトベトしてそうだな。

「台風の風とかなら海水を含んでるとかは聞くけどな。って、得意である理科のはなしをして逃げるな。」

「ポテチばっかじゃないぞ。時々パンとかも食べてるしな。母さんがこの前買って来たミルクパンが絶品だったんだよ。やめられない止まらない」

その食欲に病んでく一方だった。

そして、美月がいうそのミルクパンの存在なら僕も知っている。

僕の母さんもよく買って来るし、なんなら美月と同じことを言っていた。

美月の母さんと僕の母さんがグルなんだろうか・・・。

誰か早くこの自由人を厳重注意し然るべき処置をしないと、曲がった根性を叩きなおさないと教室で自宅のように振舞いだすことは

もう時間の問題じゃないかと思う。

もし早弁とか言って、カップ麺なんて食べられたらもう誰も授業に集中できなくなってしまう。


「別にいいじゃねぇか。まだそこまで迷惑にはなってないだろ?ほら、ミルクパン余ってるのやるからさ。」

「今その食べかけのミルクパンどっから出した?」

ポケットからだよな?

ポケットから直で出したよな!

どうも不自然に膨らんでると思ってたんだよな。

「絶対いらねぇ。」


そうして歩いてると、不意に美月は何かに気付いたらしく自動販売機の脇へと駆け寄る。

「よお!」

僕も一緒になってそっちに駆け寄るとそこには転がって苔むしたブロックの上で日向ぼっこをしている白と黒の斑猫(以下、ブチと呼ぶ)が居た。

特別大きいわけでもなく、そして子猫というほど小さくもない両手で抱えられる程度の大きさだ。

彼、若しくは彼女は美月の声に気付くと訝しげな様子で見上げた。

「コイツいつもここで昼寝してんだよ。飽きねぇのかな」

「野良なのか?」

「しらねぇ。」

と即答される。

「こんだけ人になれてるし、毛並みもいいから家猫なんじゃねえかとは思うけどな。」

と美月は言う。

「ほら、今日の残りだ。やるよ。」

先ほど僕によこそうとしたミルクパンを千切って、その猫の目の前に置くとブチは匂いを嗅ぎのんびりと食べ始めた。

「どっかの家猫なら勝手に飯をあげるのはまずいんじゃないか?」

「食うんだからいいんじゃねぇの?腹が減ってるから食べるわけだしな。」

「答えになっていないと思うんだが?お前、ひょっとして毎回パンやってるのか?」

だから、ここでいつも美月の出待ちをしてるんじゃないだろうか?

間食だよ間食と言い訳のようにして美月は言うけれど、なんだかこれはブチと美月での共犯同盟みたいに見える。

「蓮もたまにはミルクパン持ってきてやってもいいんじゃねぇか?」

「・・・・・・気が向いたらな」

そんなやり取りをしていると、ブチは最後の一欠けを平らげてさっさとどこかへお出かけしていった。

「たまにはご馳走様くらい言ってくれればいいんだがな」

なんて冗談を言う。無愛想な奴めと。

「まぁ、感謝くらいはしてるんじゃないか?飯くれる奴だから信用して毎回ココでお前のことまってるんだろう?」

「どうだかな。感謝してるかどうかはわかんねぇけど・・・まぁ、私の自己満足だから別にいいさ」

感謝してるなら一回くらい撫でさせてほしいもんだ。とふて腐れる。

人に慣れているとはいえ、ブチにとってそれはそれという感じなのかもしれなかった。

人間だって、敵とは思わないまでもあんまり関わってほしくない場合だってある。

たとえ、それが親や兄弟でもだ。

「案外、美月のことを飼い主とか思ってたりしてな」

「・・・・・・飼い主には、なりたくないな・・・。」

そう言う。

「猫ってさ。死期を悟るとどっか行っちまうんだってな。」

「あぁ、でもそれって具合が悪かったり傷が出来たりしたときに身を護るために姿をくらますからとかじゃないのか?」

これに関してはよもぎから聞いた話だった。

「かもしれないけど、寂しいことに変わりはないだろ。」

だから飼い主になんてなりたくないな。なんて言うけれど。

しかし、でも飼い主にはなっていなくても、きっとあのブチが居なくなったら・・・

突然、いつもの場所で美月の事を待っていなくなったら、もう寂しいんじゃないだろうか。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ