30. 辺境伯爵令嬢は…………
最終話です。 お楽しみください。
オーベルシュタット辺境領、領都クナベル
御爺様のお屋敷…… の中に居るんだよね。
私のお部屋。 もっと言うと、部屋着で、ベッドに大の字になってるの。 ロッテンマイヤー様がご覧に成ったら、お説教二時間確定だね。 でも、許して欲しい。 だって、色々あって、方々で色々やらされて、色んな人にお会いして、神経すり減らして…… やっと、やっと辺境に帰って来れたんだもん。 ほんと、疲れた!!!
暫くは辺境領に引きこもるぞ!
お部屋の窓の外。 夜空に満天の星が輝いて居るのが見えるんだ。 しんと静まり返っているのは、わたしへの労わりだろうね。 疲れた顔してたもんだから、モリガンも、私を一人にさせてくれているんだし…… ベッドわきのサイドテーブルには、果実水じゃ無くて、ホットワインが柔らかな湯気を上げているのも、もう成人したわたしへの気遣いなんだよね―――
ホント色々と、あったからねぇ―――
*******************************
フルリンダル学院の卒業記念パーティ…… 滅茶滅茶にしちゃったね。 卒業生で、なんの関係も無かった人達に悪い事しちゃったよ。 王太子様が主催して、アノ騒動と関係の無かった卒業生の人達に、舞踏会を開いて下さったって聞いたよ。 まぁ、出席者は全卒業生の半分くらいだったらしいけどね。 それだけ、多くの人が、あの事件に関わったって事ね。
ハリーストン殿下は、学院からの卒業 及び 成人した事を受けて、王籍から臣籍降下されたんだ。 王太子殿下に男御子がお生まれに成り、精霊様の御加護まで授けられた今、もうスペアのスペアは必要ないからね。 国王陛下のご聖断と言われているんだ。
まぁ、その宣言が下された時、一緒に居たからどんな事言われたか知ってんだけどね。 国王陛下とても、怒ってらっしゃってね、静かな口調の中にとても強い感情を感じたんだ。
「ハリーストン。 失望した。 学院からの報告では、すこぶる優秀であると有ったが、まるでダメだ。 まったくもって御し難い。 王族の責務をどう考えているのか、末弟として何を為すべきなのか。 なにも判っていなかった。 敢えて、膨大な量の王族教育を施さず、多くを学院での教育に任せた意味も…… 分かって居らなんだのだな」
「父上!」
「まだ、私を父と呼ぶか! この場を何処だと思っているのか!」
「……へ、陛下…… わ、わたくしは、皆が教えてくれた事を…… その事が誠かどうかも…… きちんと調べ……」
「はぁ…… 愚か者め。 その知らせとやらが、正しいとどうやって判断した? 己が手で調べたのか? 誰に? どうやって? 情報を持って来たのが腹心であったから、全てを信じるなど、お前自身は一体何をしたのか! 都合のよい事を知らせて来るとは、思わなんだか! 素直であれば、それでいいと、誰が教えた?」
「へ、陛下!!」
「もうよい、ハリーストンは臣籍降下する。 爵位は…… 婿に入る家の爵位を名乗るとする」
「へ、辺境伯に、御座いますか?」
「何を言っておる? あの場で、フリージアとの婚約を解消したのはお前ではないのか?」
「し、しかし、フルブランド伯爵は、辺境伯位を受け継がれると!」
「エスパーニア辺境伯から、継嗣の申請があり受理し、承認した。 オーベルシュタット辺境領を受け継ぐ者は、ベルガ=ファンド=ヒルデガンド伯爵となった。 決してフルブランドではない。 そして、エルブンナイト=フォウ=フルブランドの ” 長女 ” たる、グローリアを伴侶と定めたお前にも、あの地は任せられぬな」
「ぐっ! さ、さすれば、わたくしは、伯爵位を授けて頂けるのですか?」
「それも無い。 フルブランド伯爵の行った諸々の所業は、誠に許し難い。 罰として、男爵位に降爵させる。 法衣男爵となす。 職位も同じく降格とする。 ハリーストン、お前が継ぐべき家は、法衣男爵家だ。 一官吏として、国に仕えよ」
「…………っ!」
「グローリアとの婚姻は認める。 ただし、王族としてではなく、無位の貴族としてグローリアの横に立て。 王家、ランドルフ王国からの援助は一切無い。 己が才覚でのみ生きよ。 以上だ」
「!!!ち、父上!!!! 何卒、御再考を!!」
「くどい、下がれ!」
失意のハリーストン殿下は、衛兵に引き摺られる様に退出されたよ。 あとから聞いたけど、殿下の財産は彼が国庫から掠め取った グローリアに使った分の補填に回されて、ほぼ無一文で、フルブラント法衣男爵家に送り届けられたんだって。 今じゃ、フルブランド男爵と同じく、最下級官吏として、王宮に勤めているらしいよ。 まぁ、監視の意味も含めてだろうけどね。
その場にはね、フルブランド伯爵も、その奥様も、そしてグローリア嬢も居たんだよ。 フルブランド伯爵は従容とその沙汰を受け入れていたし、奥様はそれでも伯爵の側を離れずに居るって。 それが、アメリリアお母様に出来る唯一の謝罪であり、償いであると、言い切ってたよ。
レーベンハイム侯爵の手駒に成っていたとはいえ、マーリヤ=ノイ=フルブランド伯爵夫人は真に、フルブランド伯爵を愛していたんだ。 それだけは、間違ってなかったよ。 もしさ、三歳の頃、王都に残っていても、この方だったら、歩み寄れたかもしれない…… だって、去り際に云うんだよ、私に―――
「フリージア様…… わたくしは、貴女の御父様を盗みました。 アメリリア様が居られるのと言うのに、お情けを戴いてしまいました。 たとえ、愛人でも良い、ただ側に居れたらと…… 今思うと傲慢な思いです…… アメリリア様になんと非道なことを成したか…… 今でも後悔しない日は御座いません。 でも…… あの人と愛し合ったのは、誰の強制でも有りません。 私の真摯な気持でした。 ―――もし、あの時、貴女が王都に残られ、わたくしが義母となりましたら、精一杯愛そうと、そう心に誓っていたのです。 貴女もまた、あの人の娘なのですから…… こんな形で、お逢いした事は、大変残念な事に御座います。 どうぞ、お元気で……」
「マーリヤ=ノイ=フルブランド伯爵夫人。 お気持ち、頂きました。 時が満ち、わだかまりが薄らいだ時には、オーベルシュタット辺境領にお運びください。 同じ男性を夫とし、子を成した アメリリア御母様も、きっと…… お待ちしていると思います。 お身体お気をつけて」
互いに、礼を捧げたんだ。 そうだね…… どんな形にしても、愛を貫き通したんだ。 彼女は、ただ一心にエルブンナイト=フォウ=フルブランド法衣伯爵という人を、愛したんだ。 だから、私には何も言う事は無い。 本当に大変になると思うけど、どうか、お元気で……
^^^^^^^
そんな夫人に育てられたグローリアもまた、いい子だったよ。 祭り上げられて、浮かれてたけど、それさえなければ、至って普通の伯爵令嬢だったんだなって、そう感じたよ。 自分のした事をよく理解して、自らの振舞いに慄いていたんだ。 だから、陛下からハリーストン殿下と結婚を許すとお話があった時、驚いてたよ。
やらかしていた事から、死を賜っても、おかしくなかったもん。 その事は、重々承知してたみたい。 ただ 国王陛下が、アメリリア様と私がこんな境遇に追い込まれたのは、王家の判断が原因だったって、思ってらしてね、その分量刑が軽く成ったんだと…… そう思うよ。 全ての責を、フルブランド伯爵に、そしてグローリアに背負わす事は出来ないってね。
これから、フルブランド法衣伯爵は、法衣男爵として、下級官吏として、王国に仕えるんだ。
そのフルブランド法衣男爵家の婿に、ハリーストン殿下は臣籍降下される。 無位無官からの出発。 流石に王国の機密にも触れていたから、放逐できないしね。 王宮の下級官吏から始められるという事だよ。 王太子殿下の御子がお生まれに成った、「 大恩赦 」 って側面もあるよね。
ハリーストン殿下は、まだ、十七歳だもの。 優秀って言われてた殿下なら、経験を積んで行けば、そこそこ暮らせるようになるんじゃないかな? だって、ほら、最愛のグローリアさんが側に居るんだからね。
生暖かく、見守っててあげるよ。
もう、逢う事も無いだろうしね。 噂くらいは、聞いといてあげるよ。 じゃぁね、私の元婚約者様!
^^^^^^^
ハリーストン殿下の側近の馬鹿共は、相応の罰を受けたらしいのよ。
ミストナベルは…… 公開処刑になっちゃった。 もう、弁解の余地も無いって。 将軍閣下が、泣いていらしたよ。 ミストナベルの母方の御家はね、爵位剥奪、領地没収、さらに、国庫へ私財没収されたって。 宰相様がね、その御家を精査したらね、レーベンハイム侯爵べったりでさ、相当 悪事を重ねてたらしいよ……
マクシミリアン=ヨーゼフ=マクダネル子爵の御父様で在らせられる、財務長官レイモンド=エルビン=マクダネル侯爵もまた、叩けばホコリが――― 出るわ出るわ…… 横領、恐喝、機密漏洩…… その他色々。 結局マクダネル侯爵は、貴族の尊厳死を賜わられたんだ。 恩赦で、公開処刑から そこに落ち着いたってさ。 当主の犯罪と死罪により、マクダネル侯爵家も解体。
マクシミリアン=ヨーゼフ=マクダネル子爵は、爵位剥奪、決まっていた官吏への道は閉ざされ、無位無官となったんだ。 庶民になったんだよ…… まぁ、頭良かったし、街区で私塾の先生をしてるってさ。 貧乏な所の子供に教育を受けさせるためにね。 ほぼ、無償奉仕に近いんだって。 で、働いている場所が、王都の教会の孤児院。 その孤児院に併設されている、学校なんだって。 高慢の鼻が折れたら、精霊様に縋りついたってところか……
教会って言えばさ、怖い話に成ってたよ……
ヘレナベル=ミスト=ルシアンティカ準司祭…… 教会って恐ろしいね。 足取りとか、消息とか、全く判んないんだよ。 ほんと、あの日から忽然と消えちゃったんだ。 風の噂によると、審問官様がいらして、彼を連れてったって。 そこから先は…… ほんとに判らんのよ。 機会があって、彼の御父様に在らせられる、オンドルフ=ブアート=ルシアンティカ神官長に、どうなったか尋ねたんだよ。 そしたらさ―――
「ヘレナベルは、精霊様への信仰を捨てたようです。 準司祭が信仰を捨てるという意味が…… 判っていなかったようです。 やはり、フルリンダル学院への入学は信仰への妨げになるようですね。 もう、神官を目指す者は、学院には入学しないでしょう…… 最悪の実例に彼は成ってしまった…… 残念です」
ってね。 えっと、準司祭が信仰を捨てる? あぁ、自分の魂の在り方を捨てるってことか…… 怖ぇぇぇ!! 教会、怖ぇぇぇぇ!!! やらかした事が、やらかした事だから、目こぼしも無し。 ってところか…… そりゃ、教会の記録改ざんしたんじゃ、仕方ないっちゃぁ、仕方ないよね。 ほんと、神官長の息子って事で、色々と周りが甘やかして、やっていい事と、ダメな事の見境いなくなってたんだろうね。
と、言う事は彼を甘やかした周りの神官さん達も?
「随分と静かに成りましたよ。 教会内部は」
そういってね、神官長様ニッコリと微笑まれたんだ。 う、うわぁぁぁぁ! マジかよ!!! ある意味、貴族の世界よりも怖ぇぇぇ! 宗教ってコレだから………… ねぇ…………
^^^^^^^^
モリアーティ=ドルド=レーベンハイム侯爵は…………
まぁ、見せしめって意味も有るんだろうね。 下手に生かして置いたら、また何を企むか判ったもんじゃないもんね。 だから、国王陛下自ら断罪されたんだ。 妻の兄なんだけどね、斟酌なしだったよ。 罪名は――― 長すぎて、よく覚えていないよ。 ただ、一番初めに云われてたのが、「大逆罪」だったよ。
刑罰は――― 公開処刑。
ミストナベルと、同じ刑場で公開処刑を執行されて、その屍を共に晒されてたんだよ……。 で、その係累も多かれ少なかれ罪に加担しててね…… 公職について居る貴族については、命は助けられたんだけど、下級官吏に落とされたんだ。 暇を持て余して、悪さばっかりしていた、その他の貴族さん達は…… まぁ、やらかした事の罪深さから、公開処刑から、降爵、領地没収、私財没収てな感じで断罪されて行ったんだよ。
この、前代未聞の大粛清でね、王国の王都在住の貴族様の三分の一が消えたんだよ!
大鉈を……振るわれたねぇ…… 今の王国は、ぎりぎり行政機能が回っているって感じかな。 高級官吏の数は激減したけど、下級官吏は爆発的に増えたからね、なんとかなるでしょ!
最後にね、国王陛下が仰ったのよ。
「此度の件、フリージアには本当に申し訳なく思う。 許せとは、言えない。 よって、その責を負うため、私は王位を、王太子ベルグラード=ウーノル=ランドルフに譲り、王妃、王太后共々、離宮にて蟄居いたす事とする。 エレノア=ウリス=エスパーニア辺境伯夫人の血を引き継ぐ者よ…… いや、フリージア…… すまぬ」
ダメよ!! そんなの、ダメ! 少なくとも、国王陛下は民草に対していつも真摯にいたもの。 それに、光の精霊様が不安げにされて居るのを感じるもの! ダメったらダメ!
「畏れ多くも国王陛下に言上致したく!」
「なんだね、フリージア?」
「国王陛下のご責務とは? 我が祖父が忠誠を誓い、その責を十全に果たすべく全てを捧げております、国王陛下のご責務とは!」
「……まだ、譲位をするなと?」
「陛下のお気持ちはよく理解しております。 その潔さには、まこと、我等が君主様であるとそう思います。 が、しかし、今 譲位されますと、国が乱れ、民に要らぬ苦労を掛けます。 富める者は貧しき者に、賢き者は愚者となり、そして――― 貧しき者は、生きる事すら叶いますまい! 今一度、お問い掛けしたいのです。 国王陛下のご責務とは!!」
「……フリージア。 十年だ。 ベルグラードを十年の内に鍛え上げる。 我が祖先の誰にも負けぬような、そんな賢王となる様に…… 我が力の限り…… これで、よいか?」
「御意に……ございます。 民草を思う王こそ、今の王国には必要。 まこと小さな者には御座いますが、わたくしもまた、王国の貴族に列する者に御座います。 一心に、忠誠を誓います故……」
「相分かった。 ……フリージア、お前はこの後どうするのだ?」
「辺境領に帰りとう御座います。 王都は、わたくしの居るべき場所には御座いません」
「……ふむ。 辺境にて、王国を見守ると?」
「御婆様、お母様と同様に、わたくしもまた、この国を――― オーベルシュタット辺境領を、愛しております故。 お許し下さい」
「相分かった。 フリージア=エスト=エスパーニア 自儘にいたせ。 もう、王家はフリージアを取り込もうとはしない。 フリージアの思うがまま生きよ。 願わくば、ベルグラードの良き友人となっては貰えぬか?」
「有難き御言葉。 臣フリージア、感謝申し上げます」
と、言う訳で、大手を振って、辺境領に帰れるはずだったんだ。 でもさ、そこで、横槍が入ったんだ。 そう、あの面倒な 「一ノ宮」の御使者様。 ライオネス=レオン=シンガーデリクト卿が、私をローレンティカ帝国に招いたんだよ。
ほら、帝国から帝国籍を頂いたじゃない。 それを盾にね、一回、帝国に来いって…… それで、現「九ノ宮」家の御当主と逢えって。 いずれ、正式に皇帝陛下にお会いしないといけないから、まずは御婆様の生家である、「九ノ宮」家に会っておけってね。
そっから、もう、てんやわんや。 流石にシンガーデリクト様のお言葉には逆らえないしね。 御爺様に相談しても、行ってこいって言うし…… お手紙で、ロッテンマイヤー様にご相談しても、” お待ち申し上げております ” としか、戻ってこなかったし……
レイヴンとモリガンも、一度、あちらにはご挨拶しといた方が良いって言うし……
なんか、周り全部固められてた。 急遽、ローレンティカ帝国へ行く事が決まっちまったんだ。 はぁ…… シンガーデリクト様がね、別に旅程を組まなくても、自分がご招待するって言われて…… あの豪華な馬車に同乗させて貰って、帝都に向った訳よ。
*******************************
ローレンティカ帝国への旅の最中はね、色々と、面白いお話も聞けたし、珍しいモノも沢山見れた。 でも、物凄い強行軍。 休憩やら、宿泊を極力減らして、最後には夜間の移動までね。 まぁ、夜間移動は、ローレンティカ帝国内に入ってからだったけど…… 普通の半分の旅程だったって一緒に居てくれたモリガンが言ってたよ……
クッタクタに成る頃、帝都に到着して、現「九ノ宮」様と御会いしてたんだよね……
まぁ、この辺はもう記憶もあやふや。 でも、良い人だったよ。 かなりの御高齢な方だなと思ってたら、御婆様のお兄様だったよ。 私の顔を一目見て、物凄い勢いで涙が噴き出していたのは………… 多分、私が御婆様に似てたから。
なんやかんやしてね、面通しも終わってね、さて、辺境領に帰ろうかって時にね、嬉しいお知らせがあったんだ。
なんとね、ロッテンマイヤー=フォン=アフト=エデュケット様が正式に隠居される事が決まってね、その隠居先に、オーベルシュタット辺境領をご指名になったのよ。 それから、なんやかんやまた打ち合わせの嵐。 必死になって予定を組んで、御一緒に辺境領に帰る事が出来る様にしたんだ!!!
現「九ノ宮」御当主様からって、帝国籍復籍のお祝いにって、「九ノ宮」家の馬車を贈られたんだ。 そう、あの「一ノ宮」家の馬車と同仕様のモノなの。 もう!!! こんな豪華な馬車、どうすんのよ!!
「あの馬車を使っての、ちょくちょく、帝都迄来られよ。 歓迎するぞ。 エレノアの孫、フリージア。 おぬしは、儂の孫のようなものだしの。 遠慮はいらん。 これで、生きる楽しみの出来たしの。 のう、レイヴン=クロウよ。 ……あちらに行くのを渋って居ったが、行って良かったの」
「そうだな、爺。 主を見つけられた。 これからも、主の側に居るぞ、俺は」
「ホッホッホ、そうじゃろうて。 よいよい、御守せよ、聖獣レイヴン。 おぬしが其処まで惚れ込む相手など、どれ程振りじゃて。 しっかりと、御護りせよ。 よいな」
「言われなくてもな!」
レイヴン、御当主様と顔見知りなの? まぁね、そうかもしれないね。 なんたって、レイヴンだもんね。
「それとな、フリージア。 おぬしに《 贈り物 》が有る。 「九ノ宮」家に伝わる称号の一つをおぬしに授けよう」
うわぁ、また面倒なモノを…… 淑女の礼を取りながら、その御言葉をね、頂くんだ。 私に拒否権は無い。 なにせ、「九ノ宮」家の御当主様のお言葉なんだもんね…… 嫌だって言えるわけが無かったんだよ……
「代々、「九ノ宮」家の当主は、「九ノ宮」家に現れる《特殊な力》の持ち主に、贈名を贈る。 髪の色と「魔女」の称号を合わせた名をな。 さしずめ、フリージアは………… 「琥珀色の魔女」じゃな。 誇るがよいぞ、エレノアでさえ、受けられなんだ、「贈名」じゃて。 精霊様の顕現を促す力の持ち主には、相応しいの」
「有り難く…… 頂戴いたします」
「琥珀色の魔女」だって! なんか、物凄く恥ずかしいね。 でも、おんなじくらい、嬉しくもあるよ。 そっか…… なんか、愛されちゃってるよね、私。 こうやって、人の輪が広がっていくんだね…… 大事にして行こうと思うんだ。 私が誇れるものって、結局、素晴らしい人達との交流くらいしか…… 無いもんね。
こうやって、長い長い旅程は終わりを告げたんだ。
************************************
澄み渡る空。
高い雲。 明るくも慈愛の籠った陽光。
鳥が鳴いてるね。
とってもいい、ピクニック日和だわ。
バスケット下げてさ、お昼ご飯詰めてさ、大好きな人と一緒に散策するんだよ、こんな日は。 芝生の上に敷物を敷いて、でっかい帽子の下からはにかんだ笑顔を向けるんだ。 そんでさ、バスケットの中から、ちょっぴり歪になった、サンドイッチとか林檎酒とかだしてさ、そっと大好きな人に手渡すんだ。
顔を見合わせて、美味しいねって言い合ったりなんかしてね。 いいなあ~~ そう云うのって。
でも、やっぱり、現実ってのは、厳しいんだよ。
「お嬢!! ボンヤリしている暇なんざねぇ!! もうじき魔物の一団がやって来る!! 傭兵団は展開済み! 魔法騎士も定位置について居る! どーすんだよ!! 先に突っ込むぞ?」
「いや、ちょっと、前にもこんな事有ったなぁって………… よし、現実逃避終わり! ウリクル! 独断専攻は無し! 貴方は、私と一緒に居るの! いい? 魔物が、森から溢れだす前に叩くから! アーリア、何時もの奴、準備はいいの?」
「勿論!」
「じゃぁ、やって。 広域面圧開始! 傭兵一班、右翼展開、二班は左翼! 本隊は、私に続け!! いくよ! ウリクル、離れんじゃないよ!!」
「勿論だ! お嬢になんか有ったら、屋敷の連中に八つ裂きにされる! 野郎共! お嬢がなんかする前に、片付けるぞ!!!」
「「「「「 おおおおおお!! 」」」」」
お茶して、オホホなんて、私らしく無いよ!
私は、領の皆の為に戦う方が、私らしいよ!
そう、みんなの笑顔の為にね。
さぁ、頑張るぞ。
気合い入れて行こう!
私は、私らしく!
辺境の子、” フリージア=エスト=エスパーニア=ローレンティカ ” と、してね。
「辺境の安寧を護る、「琥珀色の魔女」 いざ、参る!!!」
end
© 龍槍 椀 2018.8.8
辺境の子、フリージア。 「琥珀色の魔女」は、今日も頑張って生きています。
辺境の人達の笑顔を守る為。 精霊様への祈りと共に。
大好きな人は、まだ居ないけど…… その内、きっと、出来るよね!
其れまでは、皆の為に、私らしく!
最終話まで、読んで頂き、誠に有難うございました。
沢山のコメントを頂き、本当に嬉しいです。
また、何かのお話で、お逢いしましょう。
それでは、皆様…… 有難うございました。