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影として…  作者: フォト
2章
19/19

4話

 最初の侵入した夜からその25時間後、秋人は今また賭博場に来ていた。前回と同じルートで侵入し、見張りをやりすごす。


(はあああ。なんたってこんな目に。昨日の今日でこれか。まずは契約書破って、次は牢屋の解放、で一階の仕掛けかな。出来れば仕掛けの奥の構造まで調べ終えてから来る予定だったのに。最後だけ行き当たりばったりで対応だなんて…)






それは調査を切り上げ、3時間ほど睡眠をとっていた秋人だったが湿った何かに何回も頬を刺激されて起きた。刺激する何かは秋人の胸の上に乗っている。何かを両手で掴み、眠気を覚ます。両手中にはふわふわの白い毛だまり、ではなくかなり大きめの猫。普通の猫とは違い、背には小さな翼。その何かは抱えられた状態で後ろ足をバタつかせ首かしげて秋人を眺めている。


「ん?この子どこから来たの?てっきりチルデルかと思ってぶん投げるとこだったんだよ?」


意味もなく猫らしき何かに話しかけるが、それは「なー」に近い音で鳴くのみ。足元に下ろし、まず体を慣らす。慣らしながら部屋の中を確認する。窓はちゃんと閉まっていた、同じく扉も。同室のバレットはいないので外にいるのだろうがちゃんと施錠したようだ。閉める際に入ったのだろうか?と思いながら見回すと目に入る何かしらの破片。そこには半分に割れた楕円形の卵。頭の中が真っ白になる秋人。1分ほどフリーズしていた。


「……生まれた…はは…3年目にして……」


足元のそれを抱え、扉をそのまま開けようとする。鍵が掛かっているためつんのめる。鍵を開けようとして手がすべる。テンションが上がり過ぎてもはやパニック状態だ。それでも扉をなんとか開き、宿内を見まわす。宿内にあるテーブルにはバレットとマミルの姿が。走りながら言う。


「生まれた生まれた生まれた!」


掲げて見せたそれは状況が追いつけず目を白黒させていた。バレットは働きづめでクマを作った眼でみていた、マミルは驚いた後に表情を消した。マミルの顔に気がつかない秋人。そのまま話しかける。


「なあなあなあ、可愛くねこいつ。背中に羽が生えてんだけどさ。なんの種族かな。名前とかは見てから決めようと思ってたから候補すらないんだよね。」


「そう。」


何か抑えた声で答えるマミル。バレットはマミルを見て震えている。


「3年だよ3年。今朝見たらさ生まれてやがんの。」


「そう。よかったわね。」


「ほら…マ、マミル、さん?」


「そうね。生命の誕生は喜ばしい事よね。祝福しなきゃいけないの。分かってるわ。うん。3年も待っていたもの。うん。でもね、でもさー。大人げないって分かってるけど、ごめんね。一言だけ言わせて。」


「う、うん。」


マミルはうつむいているため秋人からは顔が見えないが、雰囲気で怖気づく。マミルはすうう…と息を吸いこむ。そして




「こんな時にさらに喰いぶち増やしてどうすんのよ!」




「…ご、ごもっとも。」


はああ…と息をはくマミル。頭をグシグシと掻いたあと秋人の手の中のものを見て呟く。


「あんたが悪いわけじゃ無いにしても…もうちょい空気を見てくんないかねえ。」


「…そうそう、悪いのはコイツじゃなくて……借金作った原因にあるはず。」


マミルと秋人の二人で原因を見ると


「ギルド行って、稼いできます…」


と退場していった。マミルはため息一つつくと猫もどきの頭を撫で始める。そしてふと手が止まった。ただ単にふと頭の中で浮かんだのだろう。小さく一言呟いた。


「これ(・・)で食費一日分うかないかしら」


と。





(きっと疲れているだけ、疲れているだけだ。あいつはエス姉に預かってもらったし朝までに戻れば大丈夫だろ。うん。)


これが今日のうちに片付けられれば大丈夫と自分に言い聞かせながら三階へ。契約書があるとされる扉を防犯が無いか再度確かめ、コードをつくり入れる。中には大量の棚と紙の束。この中から一枚を見つけなければならない。


(これも調査する予定だったんだけどな)


魔力消費削減のために”陽炎”を解き、内心グズリながらも探し始める。何か所か眺め法則性を見つけ出す。どうやら年月順、日付順のようだ。


(3日ならまだ見つけやすいだろう。今月の契約、今月の契約はっと)


どうやら3日前に金を借りた馬鹿は5人もいるらしい。契約書に防犯がかかっていなかったため破ってポケット中へ。燃やしておきたいところだが煙でばれるわけにもいかない。時限式のもので部屋ごと燃やせれば陽動兼錯乱になるのだがいかんせん準備が足りない。魔法にしてもまだ習得に至っていないので確実ではないのでやめた。よって脱出後に燃やす。”陽炎”を使用し牢屋部屋へ。出来ればここに入る前に見周りを倒しておきたい所だが、昨日の反応で殺気や欲でばれる事が推測できるので女性解放を優先した。部屋に入った瞬間、女性はこちらを睨んで言った。


「あ?」


要約すると―なんでてめえがここにいるんだよ、来んの早くね―だろう。秋人は焦りながらも、ポケットからメモを取り出しつつ牢屋のカギを回収する。牢屋の扉を開ける前にメモを女性の前に投げる。そこには建物の図と文字。図にはいくつもの線が描かれている。


「考えられる脱出の道筋です。仮にこの建物の脱出用転移魔法使う方を使うなら使った後も急いでくださいね。まあ使った後どこに飛ばされるかは知りませんが。」


「出たらこっちで勝手にやらせてもらうよ。私にとっちゃここから出れたらなんだっていいよ。坊主、他の仲間は何してるんだ?」


「いや、一人だよ。これは個人的都合でやってるからね。」


女性の服や体を扉越しで観察する。追跡用のものは見当たらない。この組織は杜撰なのでまだしも、牢屋を用意した方の意図も読めない。カギを使って牢屋を開けたとしても警報が鳴るようになっている。死ぬまで入れるつもりだったのだろうか。考えても情報が足りないので一旦放棄し脱出のために動く。ボスがいるは部屋は蝶番から考えるに引き戸らしい。部屋の中にある重そうなものを扉の前に設置しておく。




そしてついに―――牢屋を開けた。


警報が鳴り響く。すでに決定事項なので気にせず、拘束具を外していく。


「脱出の際、爆発でも何でもいいので騒ぎを起こす予定とかないですかね?」


「囮ってか。まあ考えとくよ。」


全ての拘束具を外した後、女性は体を動かしほぐしながら言う。部屋の前に人の気配が集まっている。突入のタイミングをはかっているらしい。それに気がついた女性は殺気を迸りながら、腰をすえ上半身をひねり右手で拳を作る。


「そういや坊主、なんでつけられてたんだ?」


「え?」


女性が拳を振り抜く。扉に当たると同時に拳から風の渦が生じている。扉は拳以上の穴を開けながらぶっ飛び、後ろの男たちも飛んだ。秋人は殺気とその光景に”陽炎”は維持しているものの腰を抜かしていた。


「坊主、今回は借りにしといてやる。困った事があったらギルドの掲示板に張れ。”暁の都はいずこ”ってな。」


「へ?え?」


先ほどの質問と目の前の光景に頭がついていけない秋人。女性は振り抜いた腕を回しながら悠々と部屋から出ていった。いそいで追いかけ、問う。


「つけられてたって本当ですか?」


「おうよ、その証拠にほれ。」  ドーン


震動と共に爆発音。どこかの誰かも動き始めたようだ。時折来る男をぶっ飛ばしながら女性は言う。


「んじゃ私はこれで。」


身軽に3階の窓から飛び降りていった。ちなみに秋人の逃走ルートには載せていない。秋人は呆れながらも一階の隠し通路へ。通路の先は大きな倉庫だった。その中には大量の金と牢屋に捕えられた人。金を二掴みした後、”陽炎”を解除し鍵を探しながら言う。


「助けに来ました。ある程度誘導します。建物出たら派出所へ走ってください。……鍵どこにあるかわかる?」


教えてもらい、開ける。足腰が動けるかチェックすると痩せ始めてはいるものの奴隷予定の人のため動ける人材が集められていたようだ。先頭に立ち、隠し通路を抜けようとした時に男がぼやきながら歩いて来た。男を視認すると秋人は飛んだ。


「ったく、ボスも間抜けしてんじゃねえよ、ったくめんドゥエ!」


飛び膝蹴り。顔面に膝をぶち当てる。男は一旦倒れた物の意識があり、立とうとしたのでこめかみに一発殴る。男、消沈。


「お疲れさんっと。はいはいみなさん走って!そこ抜けると厨房、扉あっからそれでもう外だよ!邪魔もん排除してくるからさっさか行って!」


そう言いつつ、予定していた脱出ルートから賭博場を抜け宿へ帰る。が問題がそこにはあった。女性は言った。「つけられているぞ」と。帰る道中、ナイフを投げる。金属音と共に弾かれる。胸当て、ひざ当てと籠手、額当てと軽装で右腕には片手剣を持つ男。左腕の籠手は外側は平べったく広がっており、簡易的な盾の要素もあるらしい。


「あれま、ばれてたのね。」


男は軽く言うが、言われるまで気づく事は出来なかった。実力は男の方が上である。いかに撒くか、出しぬけるか。秋人の重点はそこだ。スカウトは生き残る事が重要。まずは機先を先にとる。相手は軽装なれど体重差は男が上。秋人の獲物であるグルカナイフの重さでカバーするように上段から振り落とす。片手剣で受け流されるが隙を作らない様に気をつけながら振り続ける。気を付けるべき事は何も持っていない左。籠手がアレでも本来の盾を持っていた方が有益。なにかしらあると言っていい。アレではグルカナイフなど重い攻撃をを防ぐのは厳しい。故に何かある。今度は円運動を意識しながら動く。時折隙を作ってみるも乗ってこない。袖口からナイフを射出するも左の籠手で弾かれる。


(かー、やっぱ相手の方が上かな。逃げるが勝ち、逃げるが勝ち)


口内で愚痴りながらも動く。横に右手一本でグルカを振り抜くと同時に右の袖からナイフを射出。相手は後ろに下がりながら籠手で防ぐ。秋人はあいてる左でボール状のものを投げる。投げられた時には大量の煙を出していた。男は逃げようとする秋人を追いかけるが、煙玉と同時に左袖からもナイフを顔めがけて射出していたため籠手で目線を覆う事になれど防ぐ。籠手を掲げるだけで済むので前進は止まらない。煙の中をつっ切ろうとした瞬間、またもナイフ。今度は8本同時に来ているため、3本ずつ両手で投げながら両袖からも出したらしい。さすがにこれは足を止める。籠手で視線はふさがれていたものの感じ取る。二つは籠手、二つは剣で弾く。右腕に一本掠ったが、問題はない。他は前進していたら当たる位置に投げた物のようだ。煙の中で感心し、男は言う。


「やるねー。煙玉もシュウシュウ音出して、気を少しでも紛らわぜようだなんでざ。あで、目、超いでえ。ずず、はだまでででぎだ(鼻まで出てきた)。」


故郷万歳、催涙効果付きである。こうして宿まで逃げ切った秋人であった。




が、



宿屋裏口に昏倒しているものが2人、扉の術を解除しようとするもの3人。表にはさらに5人はいるではないか。しかも全員武装しているのが物陰からでもわかる。


(やっば!あれ俺のせい?あーもーどうするよ。まずは通信、通信)


懐から出すは長方形の紙きれ。秋人発案、お札。これ一枚で術式構成を簡略出来るのだ。さらに応用で通信も可能。電話のように応答できないので、使うにはお互いに受信用の札と発信用の4札が必要になるがすぐれもの。スカウト部隊には発信だけで本部に受信があるだけで十分なのだ。飛距離の問題等色々とある。さらに電話のように個人宛に出来ないため傍受可能。まだ秋人たちの傭兵団にしか広めていないため傍受の心配は今のところはないが要開発である。


「マミルさーん。応答お願いします。囲まれてますよー。マミルさーん。」


「……」


「もっしもーし。」


「…なによ、…こんな夜中に。」


マミルが起きたため要件を再度伝える。伝わった途端に身支度を整えているようだ。


「相手は何なの?心当たりは?」


「ちょいと待って、移動して確認するから。」


もしも相手が先ほどの手合いだとやばいため慎重に動く。ひっそりと魔法”夜目”を発動し確認する。すると


「マ、マ、マミルさん。相手は憲兵だ。要件はちびっこかも。もしくは他の何か。俺たちじゃなくて違う客だといいね。」


「なにも悪い事はしていないから平気よ。ったく焦るんじゃなかったわ。ってかあんたまだ外にいんの?早く帰、るには囲まれてるのね。要件聞いてみたら?」


「年齢的に職質されますよ。それに…」


「…それに?」


「俺の防犯で2人のしちゃったみたい♪」


「この疫病神♪あとでいい事してあげる♪」


「やったー(泣)」


相談の結果、謝りつつ裏の防犯札を解除するという方向になった。謝りに集団に近付いた途端、秋人は彼らの会話が聞こえた。


「……やら…フリ…アリエ…はここの…」


「姉さん!狙いは嬢ちゃんだ!」


ついとっさに叫んだ秋人。武装集団は全員秋人を見た。そこで秋人は失態に気づく。


(俺の馬鹿!確認の際に”盗聴”使えば分かったことじゃないか!)


一日に色々とあり過ぎて疲れているらしい。だが今嘆いていても事態は進まない。すぐさま逃げようとするも体全体が重い。魔法、もしくはスキルを使ったようだ。逃げられず、後ろから取り押さえられる秋人。逃げようとすると剣の柄で殴られる。


「貴様!大人しくしろ!」


そうしているうちに宿の二階の窓が割れ、赤い何かが落ちてくる。裏口にいた3人に向かって落ちたようだ。3人はとっさに避け、武器を構える。そこには寝ぼけたアリエルを抱えたティエスタがいた。アリエルは今朝生まれたあいつを抱えている。どうやら夜食にはならなかったようだ。


「な!」それを見て硬直する集団。そのタイミングで表からバレットとマミル5人衆が襲う。隙をついた攻撃は功をなし、秋人はバレットに助けられた。


「もう借金は文句言うなよ。」


「それはこれを見ても言える?」


にやりと笑うと契約書を掲げて見せた後、目の前で燃やす。勝ち誇っていた秋人だが、マミルの一人に止められる。


「状況を見てやりなさい。このドアホ。」


「あい、すいません。助かりました、ありがとうございます。」


緊迫した状態で睨みあいをしていた時、ティエスタの腕から声がした。


「あれ~、リョウちゃんやっほー。なにしてんの?ルルちゃんも」


視線がアリエルに集まる。


「ええ~と、なんだっけ。あ、あれだ! 見つめちゃいや~ん。」


「……」「…(イラッ)」


固まる傭兵一派、青筋を立てる憲兵。


「全て報告しますからね。その後も班長からお話がありますからご覚悟しておいてくださいね、アリエッティ様。」


「やー。リョウちゃんのバカー。脇の下臭いくせに生意気だー。」


「……今助けますのでお待ちください。しっかりと抱きかかえて(・・・・・・)あげますので。」


「怒られるの分かってんのに行くわけないじゃん!みんな逃げよ逃げよ。」


困惑する傭兵一派。スキルを解き武器を引っ提げ、マミルが代表して言った。


「状況の説明をお願いします。」



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