十人大将の実力
始まりの合図は鳴ると、先手必勝とばかりに、隼人は一気に駆け出した。 武器は音鳴と同じで、木刀だった。音鳴は、ゆっくりと木刀を左脇に抱えると、居合いの構えで腰を沈めた。
「まずいな…」
「もう勝負は決まったかもな……」
先手必勝とばかりに、全力で突撃していたのだが、残り5メートルのところで、ただならぬ何かを感じ、何故か後ろへと飛んでしまう。 ブォンッ。さっきまでいた位置に、木刀の突きが横切る。とっさに飛んでかわさなければ今頃は、喉にあの突きが当たっていたと思うと、ゾッとするよ。 そう思いながら、ある程度の距離を、ひとまず取ることにした。
「大抵の新人はあれを避けれないのだが、あれを避けるとはやるなあ…」 新開は感心して、呟いた。
「本当ね。でも、避けてばかりでは、勝てないわよ? それに、音鳴の実力はあの程度じゃなくてよ。本当の勝負はここから…。いえ、フルボッコはここからよ」
塞はそう言い切った。実力差もあるし、勝てない理由が有るのも知っている。だが、新開は、その言葉を否定した。
「勝敗の蓋は開けて見なければわからないさ」
何か言いたそうにしていた塞だったが、黙っておくことにした。ひとまず、試合を見ることに集中するのだった。
飛び込んでは、飛んで避けるかダメージを軽減するかをしていた。居合いの射程距離5メートルは、攻略不可の壁として立ちふさがった。ダメージ無視で、何度か突撃したが、1、2撃の突きか切りをくらうと、後ろへと、飛ばされ、倒れ込むだけで、意味がない。
相手がカウンター待ちを得意にしているなら、わざわざ飛び込む必要はないな。ダメージが蓄積していることもあり、後ろへと下がることにした。相手の方が先に手を出せば、なんとかなるかもしれないし、大人しくしてるなら、少し休もうくらいに思っていた。だが、隼人は気づいてなかった。音鳴の居合いの最大射程距離に。 約20メートルほど下がって、様子を見ることにした。音鳴はゆっくりと木刀を構えだした。腰を今までより低く沈めるている。
バネを使って距離を伸ばすのか? そんなことって、ありえるのか!?疑問に思っていたことが、まさか本当になるとは思わなかった。誰が20メートル先の相手に居合いがくると思う。それも3回。
「気をつけろ。居合い三弾がくるぞ」
その声が聞こえた瞬間には、3回分の居合いを喰らっていた。頭、喉、鳩尾等、急所を狙ってきて打ってきた。油断していたからか、それを全部貰ってしまった。
どうする。どうしたらいいんだ。全部の攻撃を貰い、なんとか踏みとどまった。
「ほおぅ、あれを受けて、まだ倒れないか。打たれ強い奴だな」
音鳴は、過大評価も過小評価もせず言った。
「ま、早いとこ負けを認めた方がいいぜ。これ以上は勝負にならない。俺一方的な攻撃にしかならないからな」
その言葉は正しいと言えるだろう。仮にも、1人前の暗殺者としてのランクを持っているだけはあった。だが、音鳴は一つ勘違いをしていた。それは、隼人の実力はこんなものだろうと決めつけていたことだ。
「なぁ、そろそろ負けを認めろよ…」
ハァハァ、と肩で息をしてる隼人に声を掛けていた。あの後は勝負にすらならず、一方的な展開になる。向かっていっては、居合いの餌食となり、何も出来ずにいた。今は立っているので、精一杯な様に見えた。
「……。忠告はした。聞こえてないのか聞こえるが負けを認める気がないのかは知らんが、そろそろ終わりにしよう」
ダッ、一気に距離を詰め、木刀を上に傾けて振るった。上段構えとかいう剣道の構えで。避ける気がないのか、それとも意識が朦朧としているからか、避けずに立っている。だから、次の行動には見ている者も相対してる本人すら驚いていた。「なっ…!?」
ブンッ。本人が空を切り、狙いから外れる。当たる、と思われる位置から紙一重に避けたのだ。「こいつは驚いたよ」
新開は感心しながら言った。
「さっきまでの雑な回避じゃない…!? 自然体でいて、全く力がいらない効率の良い避け方よ。偶然? それとも、これが本当の… けど、避けてるだけでは勝てないわ」
塞もまた、今までの動きと違うと驚いてはいたが、避けてるだけでは勝てないと正論を出していた。
「まあ見てろ。ここからが面白くなるところだ」 楽しそうに新開は呟く。今から起こる出来事を期待するかの様に…
「いい加減、眠ってろ!!」
声を荒げて音鳴は吼える。その理由は無理もない。さっきから、全部の攻撃が避けられている。上段斬りも突きも得意の居合いさえも、その全てが紙一重で当たらずにいるのだ。
「これでくたばりやがれぇぇぇ!!!」
これはマズイと、さすがの新開も気づく。相手はイラついており、それが限界になったので例の技を出そうとしていたからだ。居合い連舞。居合いの技では最大級の威力と実戦性を備えた必殺技。一度、鞘にしまう必要があるが、引き抜かれたら最後。嵐の如き斬撃が繰り広げられる。スピードはまるで、銃弾の如き速さ。この技を編み出した達人は、最大千回の斬撃を繰り出したと言われている。音鳴は百に満たないが、それでも、充分すぎる威力はあるのだ。同じ刀でも、この技を十回喰らえば折れると言われるくらいだからな。だから、止めに入ろうとしたが、間に合わない。この技を知る誰もが、終わったなと思った。この場合の終わったは、死んだなと言う意味でもある。なにせ、木刀であっても、死ぬ可能性が高い技だからだ。だが、その心配は無かった。その技が放たれ無かったからだ。
「なっ、なんだとぉぉ!?」
技を放つ前に、一度鞘にしまう必要があるのだ。音鳴は達人級まではいってないので、隙を少なくする為に一度下がるのだ。距離は二十メートルぐらい下がり、鞘にしまうと、引き抜いて技を放とうと考えた。だが、それより速く動き、柄を押さえた為、技が出せなくなったって訳か。
「あの新人が使った技は鳶穿ね」
「鳶穿? どういう技なんだ」
「いえ、それに近い系統かそれなのかは知らないけど、本来は臓器や眼球等を素手で毟り取る技。忍術の類のね」
「もし、使いこなせるようになったら、かなりの強者になるな。あいつは」
さて、技を出そうと、鞘を握り、柄を握って技を出せなくなった音鳴、片手で柄を押さえている隼人。どっちが有利かは、もうわかっただろう。「その手を離しやがれ」「……離しますよ。そちらを倒した後で」
ガッ! 柄を押さえていない左手で思いっきり殴った。一発では倒れなかったので、何度も殴る。ガッ、ゴッ、ドカッ。殴って、蹴った。音鳴が逃げるより先に、蹴りを繰り出すより先に、ひたすら蹴って殴った。
しばらくすると、崩れるように音鳴は倒れる。模擬戦とはいえ、自分より上のランクを倒したのだった。
「結構強いみたいだな。あいつと戦うのは面白そうだな」
この試合を遠くから傍観していた誰かがそう呟いた。数日後、隼人はその誰かと戦うこととなる。




