模擬戦
今のは、何だったんだ? 確かに少し油断していたかもしれない。しかし、あんなに痛めつけた相手が、あそこまでうごけるとは…。それに、今まで通りの動きなら、負けることはなかった。あの動きは、俺のタイミングを読み取って、動いたってことか? 急に出来ることなのか。もしかするとこいつは、化けるかもしれないな。小さくそう呟いた。そんなことよりも、あの技(?)の正体が気になった。
「おい、さっきのは一体…」
喋ろうとして、気がついた。こいつ、気を失っているのか。意識を無くし、それでも俺に向かってきたのか? お前を突き動かすものの正体は何だ。復讐? 憎しみ? それとも、それ以外のなにかか? 聞いても無駄だろうな…。答えてくれるとは思わないし、もしかしたら、自分でも知らないかもしれないしな。
「ふぅ… 仕方ないな」
めんどくさいな、と思いながらも、久那森を背負って歩き出す。向かう先は、殺人鬼の巣窟であるブラッド・チェーンという、組織のところへ。
ここは、どこだ…。白い天井に、白い壁、ベッドに寝かせられていて、殺風景を補うため、花瓶に花がそえてあった。
「おっ、もう起きても、大丈夫なのか?」
「おかげさまでな。お前が手当てしてくれたのか? ありがとう」
「俺はここまで運んだだけだ。手当てしたのは、組織の人達だ」
「そうなのか? でも、お礼は言うよ。わざわざここまで運んでくれて、ありがとう」
「フンッ。後で、手当てしてくれた人にも、礼を言っとけよ」
さて、どうしたものか。あの勝負のことを聞いとくべきか、黙っておくべきか。ま、本人は気づいているかは知らないが、俺に勝ったからここにいることは、自覚はしているのかね? 苦笑いしながらも、久那森を見ていた。
「どうした? 何かいいたいことでもあるのか」
「ん? 最後自分が、どのように勝ったか、わかっているのかと思ってな」
「何!? 俺が勝ったのか? 新開にか…」
覚えてないのか…。まあ、無理も無い。気を失っていて、意識が無かったからな。となると、無意識に、つまりは、意識が無い状態で戦っていたことになるのか… 潜在能力はあるが、使いこなせてないってことか。
「まあ、そうなるな… どのように勝ったかまでは言わんぞ」
「う~ん、何故俺が勝ったんだ。わからん…」
本気でわかってないようだ。もし、自分の思い通りに使えれば、厄介な代物になるな。他の奴の能力も気になるし、あれをやるか… 新開が携帯を取り出して、電話をする。 プルルルルル、プルルルルル、プルルル… ガチャ
「もしもし」
「渡来か? 訓練所を使いたい。許可をくれ」
渡来 賽。同期に入った後輩で、訓練所の管理をやっている。
「訓練所? それなら、第4訓練所が空いているよ」
「それはありがたい。例の事で聞いておきたいのだが…」
「それは後で話すよ」
そう言うと、そのまま電話を切られた。例の事とは、久那森のことと、あの日出した。あの技(?)についてだ。それはそうと…
「隼人、第4訓練所に行くから着いて来い」
「お、おう…」
そして、訓練所へと向かった。
「誰もいないな」
「そのうち来るさ、もうすぐ放送して呼び出すさ」
しばらくすると、放送がかかった。
「えー、諜報部隊の新兵は、第4訓練所まで来てください」
「諜報部隊?」
「ああ、役割のことか? 俺達の組織には、どの隊がどんなことをするかを決めて、動いているんだ。ま、人数不足のところは、他の隊の人を使うけどな。諜報隊の他に、どんな隊があるかと言えば、情報隊、強襲隊、防衛隊、陽動隊、煉獄隊、火葬隊、整備隊、救護隊、修復隊の10の隊で構成されている。どの隊に入るか、選択肢は個人で決められるからな。よく考えて決めろ」「どの隊がどんな役割があるかは、聞いてないんだが…」
すると、紙の束をポイッと放り投げてきた。何だコレは?
「この紙に、それぞれの役割が書いてある。その他にも、設備のこと、部屋のこと、ここでの規則等が書かれている。それをよく読んでおくことだ。あと、この紙にどこに所属したいかを、書いて提出だ」
面倒だな、と思いながらも、紙束を受け取った。一日で読むことは無理だと思う量だな。
そんなことを考えていると、人がゾロゾロと集まってきた。放送で読んでいた、諜報隊の人達か…
「入ってから、数ヶ月の者、数週間の者、あるいは入ったなりの者、これからお前達の実力がどれだけあるのかを見るため、模擬戦を行う。武器を持って戦うか、素手で戦うかは、自由だ。30分後に始めるから、準備をするように」
模擬戦か… 素手で戦う方法は知らないし、武器でも使った方がいいだろうな。山積みの武器の中から、木刀を選んだ。当然だが、人を殺傷出来るような武器は置いてないな。そのことにひとまず安心する。
30分後、模擬戦が開始された。
「お前が入ったなりの新入りか? 弱そうだな」
対戦相手の男が、お気楽に話しかけてきた。
「俺はココに来て、半年になる。何回か依頼をやったし、お前より先輩だ。新入りに負ける訳がない」
男は自信有りげに答えた。何回かやっているからだろうな、その自信は。それもあったが実際は、新入りが、と舐めていたからである。
「準備が出来たようだな。では開始の合図をしよう」
審判らしき者は、新開と賽って人がやってくれるようだ。ドーン。銃の空砲が響き、それが開始の合図になった。確か勝利条件が4つあったな。相手が負けを認めた時、続行不可能と見られる時、相手の武器が使い物にならなくなった時、相手の戦意が失った時、の4つだ。時間も三分と短いものだ。
「きぃえぇぇぇぇぇっ!!」
「うおっ!?」
叫び声らしきものを上げて、勢いよく武器を振るう。相手の武器は槍で、木製仕様だ。武器は、相手の方がリーチがあった。繰り出す攻撃も遅くは無い。むしろ、速い方に入るだろう。しかし、攻撃が単調で、パターンが少なくて、何回か見てれば、動きが読めた。
「ちょこまかと…」
動きが鈍ってきて、速度が落ちてきた。時間もないし、反撃するなら今しかない。隼人が動いた。最初はてこずっていたが、何回か見てれば眼もなれる。相手の攻撃と同時に鋭く踏み込んだ。突きを木刀で逸らすと、相手は驚いた表情をしていた。そして懐に入ると、鋭く振り下ろした。
「ぐわあっ!?」
肩に当たると、痛みからか槍を落とした。その瞬間、相手を戦意喪失とみなしたのか、一応俺の勝ちになっていた。
それから、三十回ほどやった後、開始前までいなかった人物を見かけた。
「中々の勝率だな。24勝4敗2引。総合すればこのなかで、第6位に入る」
6位か。八十近い人達中からの順位なら、悪くはないな。そう思っていると、さっきまでいなかった人が、急にコッチまで来た。
「お前、俺と戦え!」
「突然何を言っているんだ!? 十人大将のお前が相手じゃ、勝負にならんよ」
どうやら、俺と勝負、つまり模擬戦をやれと言っているらしい。十人大将。自分より偉い人だとわかるし、明らかに格上の相手だ。雰囲気が模擬戦で戦ったどの人よりもある。
「そういえば、自己紹介がまだだったな。俺は陽動隊十人大将、我蒐 音鳴。さあ、お前の力を見せてみろ」
いきなり勝負を挑まれた隼人、我蒐が構えろとひとこと言う、構えをとると、少し喋りだした。
「さあ、合図をならせ!」
パーンと、空砲が鳴り響き、それが合図となり、勝負が幕を上げた。




