始まりの日・後半
何かを言っていたと思っていたが、本人は言ってないというなら、気のせいなんだろう。
「これから、どうする気だ?」
「どうするとは?」
「床に転がっていた死体は、家族の死体なんだろう? 頼れる人や親戚はいるか、施設でも良いけどな?」
言葉が詰まった。頼れる人はもちろん、親戚もいない。施設などの宛ても、当然無かった。
「宛が無いのか…。なら、俺の組織に…、いや、そういう施設の場所を知っているから、その場所を紹介しよう」
言いかけた言葉を、途中で止めた。自分の所属しているところが、いかに危険で、不安定な場所かを、思い出したからだ。だが、すでに遅かった。
「お前の組織は、どんなところなんだ?」
「それよりも、施設の話をだな…」
「それは、後からでも聞ける。先にお前の組織の説明をしてくれ」
最初にうっかり口走ってしまったことを、後悔した。しかし、嘘をついて誤魔化そうとは、考えなかった。本当のことを話した後で、諦めてもらおうと思った。それに、あんな場所に入りたがる人もいないだろうと、考えたからだ。
「…いいだろう。話してやろう」
それから、組織のことを語った。まず、名はブラッド・チェーンといい、殺人集団の組織だと、いうこと。悪人(殺人関係)以外の人は殺さないこと。普段は、別の仕事をしていること。当然のことながら、死と隣り合わせの仕事だということ等、いろいろと話してくれた。
「…と言うわけで、お前には、施設に行くことを進めるが、一応、考えが、あるなら聞く」
「俺は、施設に行く気は無い!」
「は?」
「俺は、ブラッド・チェーンという組織に入りたい」
「なんだと!?」
新開は驚いていた。組織に入りたいと言ってくるとは、思ってなかったからだ。だから、聞き返せずには、入られなかった。
「正気か、お前!?」
「正気さ。考えて、出した答えだ。後悔はない」
「この道は、茨の道。いつ死んでも、おかしくない」
「わかっている」
「いや、わかってない!! まず、新人の半数以上は、一年以内に死ぬ。熟練者ですら、毎年のように消えていく場所だ。それをわかって言っているのか!?」
あの場所で消えていく人を、見つづけてきた者の、真剣な言葉だけに、重みを感じた。一瞬怯みそうになったが、新開に向かって言った。
「例え、死ぬ可能性があったって、俺には、やらなければならないことがある」
「…復讐か? だったら、止めておけ。死んでいった者のために出来ることは、生きてゆくことだ。だから、お前がやるべきことは、それではない。」
「じゃあ、お前は何故、この道にすすんだ。答えろ」
「………」
「答えれないのか? それとも、俺と同じ理由か。どちらにせよ、もう決めたんだよ」
新開は黙っていた。どうするべきかを。そして、こいつの覚悟はどの程度のものなのか、実力はどうなのか。そして、試してみようと考えた。
「お前、名は?」
「は?」
「名前だよ。名前。無いって訳ではないんだろう?」
唐突で何を聞かれたかわからなかったが、再度、聞かれてわかった。俺の名前を聞いているのだと。
「久那森 隼人」
「隼人と言ったな。お前に試験をしよう。組織に入る為のな」
「で、どんな内容だ?」
「簡単なことさ。俺の膝が、地面に少しでも触れたら、合格。出来なかったら、不合格。お前は、どんなことをしてもいい。制限時間は2時間。以上だ。文句は無いな」
「無いけど、いいのか。それで、お前の方が不利ではないか?」
「ハンデというのは、公平にするためにある。俺とお前なら、これくらいのハンデは必要だ」
言葉を言い終えると、ゆっくりと、構えた。そして、久那森の方に向くと、一気に走り出した。




