始まりの日
家が燃えている。家族が床に倒れている。自分もまた、倒れている。ある人は、くびが無く、ある人は、両足が無かった。それらは、まだましだった。なかには、人の原型も留めていないほど、バラバラになっている人もいる。床には、家族だった者が転がっていた。
それらを見るのが辛く、視線を逸らすために、天井を見た。俺は、何故か殺されなかった。腕、足、胸、腹部、様々な場所を斬られながらも、今もこうして生きている。俺は、殺人鬼の気まぐれによって助かっていた。
いや、そうではないのだろう。考えてみれば、火を放ったのは、あの殺人鬼ではないか。時間が経つにつれ、火が大きくなり、今は部屋全体を覆っている。天井も真っ赤な火に覆わていて、夜なのに昼のように、いや、昼より明るかった。 ここまで火が大きくなる前に逃げれなかったのか、だって。動けなくなるくらいの怪我を負っていて、逃げれる訳がないだろう。根性、精神論でどうにかなるくらい甘くはないよ。少し動かせば、血が出て、すぐに動けなくなった。
家族の後を追うってことも出来るが、そんなことはしない。それは、あの殺人鬼に対して負けを認めたってことだ。俺は、そんなことをする気はないし、生きることから逃げようとも思っていない。少なくとも、あの殺人鬼に復讐を果たすまでは。
そう思っていても、火は勢いを増し、俺を殺そうとしている。ああ、ここで死ぬのか…。死ぬのは怖いと思っていたが、そこまで怖くはないな。ただ、復讐する前に死ぬのが、心残りだ。ただ、そんなことを考え始めている時に、ドアが開かれた。いや、蹴破られたと言った方が、正しいな。そこに黒いフードを被った1人の男がいた。
気のせいだろうか…。火が男を避けたように見えたんだが。そんなことより、コイツは一体何者だ。得体の知れない相手として警戒していると、男は俺の方に向いて喋りだした。
「生存者がいる可能性はないと思っていたが、一応見に来て正解だったな」
「誰だ。お前は… 」
「誰? そうだな、名前を知らない相手は疑うよな。とりあえず俺の名は、新開 修一だ」
「その新開とやらは、何しに来たんだ」
こいつの名を知ったところで、何を考えているかわからないし、本名かもわからない。だが、悪い奴では、なさそうだ。
「たまたま通ったところに、火事があった。生存者がいるか様子を見に来ただけだ」
「で、俺をどうする気だ?」
「専門外だが、生きていた以上は助ける。しかし、田舎は大変だな。この火事に通報してくれる人がいないとは、不便だな」
「…しょうがないさ。人自体、そんなにいないから」
そうやって話している間にも、火が大きくなり、周りを囲むように包んでいく。
「…助けるとかいったが、どうする気だ? ここまで燃え広がったら、逃げ場が無いよ」
「逃げる必要など無い。俺の後ろについて来い。そうすれば、火の方から、逃げる」
「何を、言って……」
俺が何かを言おうとする前に、新開は炎と化した、道を行こうとしていた。あの方角は、確か新開が、ドアを蹴破った場所だったな。…そんなことを考えている場合じゃない。
「おい、ちょっと、待……。エッ!?」
止めようとしていたが、途中で言葉を失った。まるで、炎が新開を恐れているかのように、その周りから、引いていったのだ。
「おい、どうした? 着いて来いよ」
「着いていくにも、動ける状態じゃないから! 動けたら、火が燃え移る前に、逃げてるからな」
「フム、それもそうか。じゃ、背負っていくか」
新開が俺を背負うと、そのまま来た道を戻っていく。
「…何故、俺を助ける? お前に助けられる、貸しも借りもない。それどころか、俺とお前は、見ず知らずの他人だぞ!? 助ける理由が無い」
「そのまま、死にたかったのか?」
「死にたくはなかったし、助けてくれたことにも、礼は言うが、お前には、助ける理由がない」
「理由なら、それでいいだろう。死にたくなかったから、それでいいじゃない」
「たった、それだけで人を助けるのか」
それは、困っているから助けると言う、シンプルな理由。言うのは簡単だが、やる事が出来る人は、そんなにいないだろう。
「…それに、俺自身にも、負い目があるしな……」
「何か言ったか」
「いや、コッチの話だ。気にしないでくれ」
「そうか……」




