20話
作者のFPS知識はだいぶ古いので、広い心でお読みいただけると助かります。
さて、基本は一通り教え終わった。
レティクルの置き方と遮蔽の取り方から始まって、地形や建物の見方、体力維持の重要性とかだね。コメントの有識者ニキにもだいぶ補足してもらったけど。コメデター? ああいうのって大体雰囲気でわかるんだけど、確認した範囲ではいなかったよ。
その後訓練場でbot相手にそれぞれ自分が使いやすそうな武器を選んでもらって、銃に合わせたリコイル制御や向いてるレジェンドを教えた。
お姉は割と前に出るのが好きらしくアサルトとショットガン、紫上さんは本人の言う通りエイムの確度が凄いので(迷子スキルカンストらしいけど、後衛だからフォローしてもらえばある程度なんとかなると思う)スナイパー、花村さんはエイムは苦手だけど投げ物が得意ぽい。軌道をある程度カンで予測できるのはセンスといっていいと思うので、これを伸ばしていけばいいんじゃないだろうか。まぁ初心者がスナイパーとか補助要素の投げ物をメインにするのもちょっとどうかなとは思ったけど本人の選択だし、そこはオープンにしてファンクラブのチームメンバーに補助してもらう形にすればいいんじゃないかな。
てかコメントが『びっくりするほど普通』ばっかだったのが解せぬ。基礎は大事だぞ。
『いやあ、基礎が大切なのはわかるけど』
『もっとこう、ねえ?』
『魔王式必勝法とか…』
『ガン◯タのやり方とか…』
『わいがゴールドから抜け出すテクニックとか…』
「いや、ないですよそんなの。あとゴールド帯ニキはダイヤ帯ぐらいの動画とか配信みてトレースしてみるといいと思いますよ。完全に再現はできなくても考え方がわかればあとは経験値ですし」
てかガ◯カタはもうゲーム変わってるだろそれ。
『筋は通ってるな』
『上手い人から盗むのは実際大事。古事記にも書いてある』
『いうてあんまり上過ぎても逆になにやってんのかわからんけどね』
『参考になります陛下! <ゴールド帯ニキ>』
『名前まで変えてて草』
誰が陛下だ。あと君の名前は本当にそれでいいのか…?
★
一通り終わったので、次は実践フェーズとして1on1のプラクティスモードで練習しましょうってことになった。
専用マップで収縮ありの3ラウンド制。地形も高低差、市街、遮蔽に乏しい荒野とロケーションも一通り揃ってる。今はこういうのあるんだね。私がやってた頃はカカシ撃ちか実戦しかなかったからな。
で、まずはお姉と花村さんがやってみることになったんだけど
「い〜〜〜〜や〜〜〜〜〜」
「ちょっ…当たらないんだけど!?」
「なんだこれ」
『何って…うん…』
『ルーキー同士ならたまに見る光景ではある』
『ほんとうに?』
『ないわけではないんや。ないんやが…』
『こんなときどんな顔したらいいのか分からないの』
「えっと…どういう状況なんでしょうか、先生」
「逃げる花村さんをお姉が追いかけてるんですが…」
まず2人とも開幕ダッシュで中央の市街地に突撃した。まぁ互いに白兵戦向けの獲物であることは分かってるわけだから、遮蔽の多い市街地を抑えるのはまっとうな戦術ではある。これはいい。
問題は花村さんが会敵するや否や一目散に逃げ出した点である。なんでだよ。
お姉はそれを追いかける形になったんだけど、花村さんのグレが絶妙な距離と位置にくるので遮蔽で足止めされ、いつまでたってもレンジ内にとらえられず、結果として追いかけっこの様相になっているわけだ。
やってることはルーキーなのに1点だけ技術が凄いので妙にいい攻防に見える。いや、ほんとに。
「こういった場合はどうするのが正解なんでしょう?」
「いったん引いて回り込むなりすればいいかと」
「ふむふむ、…つまり今のおレンさんは悪手なのですね」
「ですねー…弾も無駄打ちになっちゃってますし」
『りのちはなんで逃げ出したんや?』
『急に遭遇してびっくりしたとか』
『裏をかいて不意打ちするつもりだったとか?』
『ワイ花民、ただの条件反射だと思うで』
「ヤ◯ザが銃もって追っかけてきたら怖いし逃げるよね」
『草』
『ワロタ』
『wwwwww』
『それはそうw』
『辛辣ゥ!』
「あんたそれブーメランだからね!?」
おっと、聞こえてたか。
『何が凄いってりのち逃げながら投げ物ピックアップしてるんだよな…』
『実は冷静とか…?』
『そうかな…そうかも…』
『目に入った命綱になるものをかき集めてるだけやと思うで』
『花民の解像度がたけぇ』
そうこうしてるうちに、花村さんがちょっと狭めの部屋に逃げ込んだ。
「もう逃げ場はないわよ…りの」
「い~~~や~~~! 人殺し~~~~!!」
「人聞きぃ!」
「いやそういうゲームですし」
いちおう逃げ道はあるけど、微妙に死角になってて気づいてないぽいな。
とはいえ、お姉はここに来るまでにアサルトもショットガンも撃ち尽くした挙げ句ピックアップに恵まれず弾切れ、残りは途中でピックアップしたハンドガンのみ。なんやかんやでダメージ受けてるのでライフも割とギリギリ。
花村さんは…グレ1個だけあるぽいな。
「さ、最後の1個…あっ」
「あ」
『あ』
『あ』
『あ』
『おわた』
ここまで絶妙のコントロールを誇ってきた花村さんも流石に慌てたのか、明後日の方向にグレを放ってしまった。
「もらったわ!」
「ひぃぃぃぃ」
確実に当たる距離まで詰めてハンドガンの狙いを定めるお姉。この距離なら当たるだろう、お姉の勝ちだね。
…って、え。
リボルバーの銃声と同時にお姉の足元が爆発した。
お姉の攻撃も見事にヘッドショット。結果、両者ダウンでダブルK.O.…。
『何が起こった』
『地雷?』
『エピックに地雷とかないが…』
『トラップ使うレジェンドでもなし』
『さっき投げたグレが跳ね返って転がってきたぽいな』
『うは、まじか』
『しかも爆発のタイミングまでバッチリ』
『コントかな?』
『爆発オチとかさいてー』
「こんなことある…?」
「ふえぇぇぇ…」
「と、とにかくナイスファイトでした、お二人とも」
「なんか凄いものを見た気がする」
★
さて、次は私と紫上さんのバトルなんだけど。
ううむ、大丈夫かな。見てるだけでも、さすがにこれだけ長い間だと結構きてるものがあるんだけど。
一応薬は飲んでるけどあんまり効果ないな。
とにかくゲームスタート。初期武器はアサルトだけどお姉が使ってたのとは違ったタイプの、射程が長めで単発威力が高いけど1マガジンが少ない上に連射効率もよくないタイプ。主に中距離向けだね。サイドアームはスタンダードなSMGにした。
紫上さんはスナイパーを持ってくるだろうから距離を詰めてくる相手への練習というわけ。
『バーストARとは玄人好み』
『スナイプ合戦も見てみたかったが練習試合やしな』
『見せてもらおうか。小学生プラチナの腕前を』
紫上さんは十中八九高台を取ってくるだろうから、適度に撃たせつつ距離を詰めるか。
前進…ううむ、地形把握のためとは言え、カメラ振るとなかなか来るな。
お、あの建物、射線がこっちに綺麗に通るな。遮蔽遮蔽と。光った、着弾音、撃ってきたな。やっぱりあそこか。
『はじまた』
『よく反応できたな今の』
『見えたって言うより地形から判断したな。俺でもここはそうする』
『ほえー何が起きてるかすらわからん…』
リロードの隙を縫って遮蔽物を渡って距離を詰める。もうちょいでこっちのレンジ内。
紫上さんは動いてないっぽいな。変に動いて迷子になるより、このチャンスを確実にモノにすると判断したと見た。
考えはわかるけど、そいつは悪手ですよ。
…よし、こっちのレンジ内に入った。
もうちょい正確に位置を把握したいので一瞬だけ顔を出して撃たせる。着弾。うひょー怖い。エイムの腕は本物だなこれ。
とりあえず位置は分かった。リロードの合間に別の遮蔽に移動。どうも紫上さんはリロードの間、相手の動きを意識してないぽいな。手元のアクションに目が行っちゃうのはあるあるではあるけどね。
レティクルの位置を合わせてっと。まずは外して撃って、AR相手でもカウンタースナイプっていう要素もありますよと覚えてもらおう。
そろそろいいかな。3、2,1…今…あ、やばばばばば。
「やられました…」
『ナイスカウンター』
『よく当てたな今の』
『最後なんかエイムブレたように見えたけど気のせい?』
『俺の目にもそう見えたけど』
「うーん、なるほど。一箇所に留まっているのも危険なんですね」
「あー、えっと…ふ、ほわあぁぁぁぁぁぁ」
あー大きいのが来て慌てて噛み殺したけど我慢しきれなかった。ヤバいヤバい、このタイミングであくびはヤバい。
『お?』
『あくび?』
『かわよい』
『煽りか?w』
「すみませんすみません、煽るつもりではないです」
「いえ、それは分かっていますが…大丈夫ですか?」
「ごめんね、わたし達のプレイ見てて退屈しちゃってたかな~?」
「あーいや、これは…」
もう言ってしまうか。よく考えたら別に隠すようなことでもないしな。
「いえ、これ3D酔いです…」
「3D酔い…?」
『なんとw』
『意外な弱点が』
『あ、だから初期で辞めたんかw』
『完全無欠の魔王様にも弱点があったか…』
「そういう事情があったのですね」
「いちおう酔い止め飲ませたんだけどね、あんまり効果なかったみたいね」
「わたし達のために無理してれてたんだね。ありがとうね」
「いえ、久々のFPSで楽しかったので」
ほんと、3D酔いがなければFPSもっとやりたいんだけどね…。体質はどうしようもない。
この後は3人で練習してもらった。
…経験は積めたんじゃないかな、うん。




