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あおいちゃんとの約束

 残念なことにあおいちゃんとは違うクラスになってしまった。


 今まであおいちゃんとしか話していなかったのもあり、緊張して吐き気がする。


 あろうことか担任になった先生が「前に出て自己紹介しましょう」なんて言ってきた。


 こんな大勢で、しかもあおいちゃんがいないのに自己紹介なんて絶対に無理。


 そう思いながらも順番が近付くにつれ心拍数が上がる。ドクンドクンっと心臓の音が聞こえてくる。


 体調が悪いからという理由で保健室には行けない。何故なら、手を挙げて話す行為が私には難易度が高すぎる。


 いよいよ、私の順番が回ってきた。ぎこちなく返事をして席から立ち、前に行く。


 私は緊張しすぎて、パニックを起こし過呼吸になった。しかも皆が見ている前で。


 恥ずかしくて、苦しくて涙を流しながらもその場にうずくまる。


 急に私がうずくまるものだから動揺してザワつく教室の中、一人の女子生徒が私に近付いて「大丈夫?」と声をかける。


 私は返事をする事はなく、息を荒くしているだけだ。明らかに態度が悪いだろう。


 それなのに、その女子生徒はしゃがんで私の肩を掴んで自分の首に回した。


 立ち上がると、自然と私も立ち上がる。


 女子生徒は「私が保健室に連れて行きます」と言って、私を保健室まで支えるようにして歩いた。


 ◇


 保健室に着くと、先生はいなかったのでベッドまで連れられて、寝かせられた。


 過呼吸は歩いているうちに収まりはじめ、保健室に着く前には完全に落ち着いていた。それでも顔色が悪いそうで、そのまま保健室まで連れて行ってもらった。


「具合、悪そうね」

「あっ……、ん」

「寝ても良くならなかったら早退しても良いと思うんだよね。とりあえず担任の先生に話しとくよ。保険の先生は今はいないから」

「……あり、がとぅ……ございます」


 他の子とまともに話したことがなかった私はぎこちなくお礼をしたら、女子生徒はクスクスと笑う。


「なんで敬語? 私と貴女は同級生なのに変なの。ねぇ、名前は? 私はねぇ、井上 美月(いのうえ みつき)

「……さ、佐藤です。佐藤 心春」

「佐藤さんか。今日から同じクラスだね。宜しくね」

「は、はい……?」


 人懐っこいタイプははじめて会ったのもあり、勢いに圧倒されて思わず二つ返事をしてしまった。


 あっ、しまった……と思って訂正しようとしたが、井上さんは満足そうに笑って「それじゃあ、私は教室に戻るね。お大事に」と、言った後、保健室を出てしまった。


 一人、残された私は静かな空間の中、ぼそっと呟いた。


「どうしよう。あおいちゃんとの約束を破っちゃった」


 それは、小学生の頃に『誰とも心を開いてはいけない』『話すのもダメ』『裏切られて、心春ちゃんが傷付くから』と、あおいちゃんが心配そうにしていた。


 私は、あおいちゃんを悲しませたくないので『あおいちゃん以外の人には心は開かない。話もしないように気を付ける。心配してくれてありがとう』と、約束したんだ。


 友達はあおいちゃん一人で十分。だってあおいちゃんは私の悪い噂話に便乗しない。私を傷付けることはしない。裏切ったりしない。


 私は……あおいちゃん以外の人が信じられないもの。


 約束をしてから、あおいちゃん以外の人とは話さないように気を付けていた。


『感じ悪く』思われていたとしても、私には知ったことではない。


 私にとってあおいちゃんの約束は何よりも大切で、守らなければいけない。


 黙っていれば大丈夫。あおいちゃんとはクラスは別々になったから。


 とは思うものの、私は隠し事が下手だ。隠そうとすればするほどついつい言ってしまう。


 ここは、隠し事をせずに素直に言って謝ろう。そう思い、私は眠りについた。





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