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奇跡はきっと。

蛍村の夜。

町一番の大きな祭ということもあり、出店が並び、浴衣着の参列で溢れる。まだ夏休み前であるが、地元の皆が本当に楽しみにしていたと言える一大イベントだ。

「すっげぇ…」

これだけ多くの人を一度に見る機会もそう多くなく、シンプルにレオの心が踊った。

準備を終えた依吹が合流し、4人は大勢のお客さんの誘導係を行う。

「押さないで下さいねー。向こうに休憩スポットもありますー」

呼びかけが上手なレオの隣。るりは何もできずに縮こまってしまう。

「ホタルちゃん、あっちのおばあちゃん困ってそうだから行ってやって」

「あ、う、うん…」

川に沿って皆が歩く脇で、立ち止まっているおばあさんのところへるりが駆け寄った。

「おばあさん、どうしたの?」

「人混みにあてられて具合が悪いの」

腰だけでなく体のあちこちが悪そうでいかにもフラフラとしたおばあさんだった。るりは少し笑んで、

「私に掴まって」

「いいの?悪いわねぇ」

おばあさんの手を引き、ゆっくりと動いて人のいない道に誘導する。るりは、すぐそばにいたスタッフに声をかける。

「すみません、こちらのおばあさんが体調を崩されたみたいなので」

「かしこまりました、おかあ様、宜しければ休憩所までご案内します」

そう言ってスタッフはおばあさんをすぐそばの休憩所まで案内する。おばあさんは振り返り、

「ありがとさん、優しいお嬢さん」

「いえ、あの、よかったらこれ」

そう言ってるりはまだ開いていない小さなペットボトルの水を渡す。

「いやいや悪いわよ」

「体調が万全な状態で蛍鑑賞を楽しんでほしいので」

そう少し強引におばあさんの手にペットボトルを握らせると、おばあさんは微笑み、

「あなたのそういった優しさ、忘れないでね。きっとそういう気持ちが、人の何かを変えたりするものよ」

「あ、はい…」

優しさで返されると、素直に喜べず赤くなってしまう。熱のこもったそんな言葉に戸惑いながら、るりは見送った。

一段落し、顔を川の方に向けた。すると、想定していたものとは数百倍も違う目の前に広がる光景に思わず、

「綺麗…」

うっとりと眺めていた。

川に沿って、草木が風に揺られて楽しそうに踊る。それに連れてゆらゆらと揺れる光の玉が1つ、2つ、3つ。蛍だ。

そんな幻想的な風景を眺めていると、どこからか声が聞こえる。

「こっちに来て」

「え?」

そう言われて振り返る。しかし、沢山の観光客が道を進んでいるために、誰が発したそれなのかも分からない。

しかし、再び確かにはっきりと聞こえた。

「お姉ちゃん」

そう言われて、人がゆく奥の方を見ると、そこには昼間、川の向こうに立っていた女の子の姿が。

川の奥、草木が茂る方へと一人歩いていってしまう。

「待って」

自然とるりの足が動く。彼女を追いかけてその先へと向かう。楽しそうに女の子はスキップをしている、ように一見みえるだけだ。スキップはどこか重く、その足の軽やかさは最初の数歩だけで、気づけばるりは彼女に簡単に追いつくことが出来てしまった。

しかし人があまり入らない林。すぐそばはもちろん川。だがるりと彼女しかこの場にはいない。

「あなたは?」

「けい」

「けいって言うのね。何の用?」

「助けてほしいの」

「助ける?」

「このままだと私の仲間は大人たちにすみかを奪われちゃう」

「すみかを奪われる…?大人たちに…?」

「うん…私も、ずっとここにいたいのに、いられなくなってしまう」

「どういうことか見えてこないんだけど」

すると、ふと昼間の大人同士の言い争いをるりは思い出した。

「え…あれ…そう言えば…」

マンションが立つという話があがっていた。それに

伴って、この光景もいずれ変化するかもしれない。それは確かにそうである。

だが、それによって立て壊す建物がある、という話は今のところ別に耳に挟んだわけでもない。

「あなたの家がなくなるの?」

「うん…っていうか…仲間も家族も、みんな家がなくなっちゃう」

「仲間…家族…?もしかして…?」

ありえないとしか言いようがないけれど、もしかしたらそうなんじゃないかとも思う。

「その大人たち、もしかしてマンション作るって人たち?」

「うん」

普通ならば考えられないことがるりの中で確信に変わる。

それは確かに、この子達のすみかが奪われるということ。

「わかった。私がなんとかしてみる」

「ほんと?」

「私ならこういう類、信じるんじゃないかって、アンタがそう思ったんでしょ。この愛憎戦士ホタル!蛍村の運命をかけた戦いに出陣するのだ!」

これは運命だと、るりはそう思う。

誰でもなく、自分に舞い降りたお願い。

それを叶えるために、できることはやる。

そう決意して。彼女に背を向け走り出した。



*******




レオは、突然いなくなったるりをずっと探していた。

「ホタルちゃーん。まったく、どこへ行っちゃったのやら」

「見つかった?」

城島先生の呼びかけに、レオは首を振る。

「厄介だぜ」

一通り撤収作業に移り始める時間帯になってきた。蛍の光は変わらず灯っていて、その幻想的な風景は未だあるものの、定刻の時間は過ぎ、気付けば20時になっていた。

「今日もあっという間に終わっちまったな」

そう口に出しながら撤収作業の準備をしようとし始めると、レオは昼間に見た集団を見かける。それはマンション設立に反対する近所の住民達。チラシを配り、署名運動をしていた。

「あれをやってもなぁ、結局抗えるかって言われると難しい話だろうなぁ…」

設立に反対したところで覆るということが簡単ではないということを、何となく思いながらため息をつく。だがその住民達の中に、ぴょこぴょこ跳ねるツインテールを見かけた。

「ん?あれれ…?おいおいマジかよ…」

明らかに見覚えのあるその髪型の彼女の方へ行き、肩をトントンと叩く。

「ホータールちゃーん、なにしてんのー」

「この者達と共に新世界を構築しようと企むエネミーへ反旗を翻す時なのだ」

「どしたの急に…?」

不思議がるレオだったが、反対運動を行う男性の一人が言う。

「このお嬢さん、地域に伝わる伝説に遭遇したらしいんだよ」

「え、というと?」

するとるりは自信あり気に、

「けいはどうやらこの地域の守護神的存在。あきる野のメシアとしてこの我、戦士ホタルの前に舞い降りてきたのだ!」

「けいって誰!?あきる野のメシア!?規模小さくね!?」

様々な疑念に渦巻くレオを放り、真剣に署名の用紙を通りがかる人に書いてもらっている。

「マンション設立の反対にご協力お願いします」

そんな彼女を見てレオは不安になっていたが、その場を通りかかった先程のおばあさんが声をかける。

「あらあら、先ほどのお嬢ちゃん、随分と熱心ね」

体調が戻ったそのおばあさんを見てレオは安堵しつつ、悩ましい顔で言った。

「署名運動に参加してる時点でよく分からねぇんだよなぁ…。てかおばあさん、もう大丈夫なのかい?」

「ええ。あのお嬢ちゃんのおかげでね」

「そのお嬢ちゃんをそろそろ呼び出して帰らないとなぁ」

るりのもとへと駆け寄ったレオは、再び促す。

「ホタルちゃん、帰ろーぜ。ほら、おばあさんもいらっしゃる」

その言葉を聞いて顔を向けた先におばあさんがいるのを見て、るりはおばあさんへと駆け寄った。

「もう大丈夫なんですか?」

「ええ。それにしてもお嬢ちゃん、反対運動に突然参加するなんてどうしたの」

それにはレオも疑問であり、

「ホントだぜ。事情を教えてくれよ」

そう詰められて、るりはボソッと呟く。

「笑わない?」

そんな思わぬ言葉が飛んできてレオはキョトンとするも、明るく返す。

「許容力100%のレオ様だぜ。どんと来いよ」

るりを理解したい。その一心だ。だって少しずつ彼女を分かってきたのだ。この機会により知りたい。

「けいちゃん…蛍の妖精さんとお話して、この場所を守ってほしいって言われた」

「え!?」

その発言が思っていた数倍のよく分からない話で、レオはまたもやキョトンとしてしまう。

「蛍の妖精さん…?」

笑う、とかではなかった。びっくりだった。

それに驚いていたのはおばあさんもであったが、どちらかと言うとおばあさんは別の理由だった。

「あなた、もしかして…」

そう溜めるので、るりはコテと首を傾げる。そんな純粋なるりを見て、おばあさんは微笑んだ。

「私の孫と会ったのね」

「え?」

るりはびっくりして固まる。レオも同じく驚きながら突っ込む。

「おばあさん、どゆことよ?全く分からないよこの状況」

二人の表情を見て面白おかしく笑いながら、おばあさんは言う。

「2年前になるかしら。孫が病気で他界してね。7歳くらいだったんだけれど。けいって言うの」

「マジかよ、おばあさん」

レオの言葉にるりも頷く。おばあさんは続ける。

「このそばの病院で息を引き取ったわ。多分だけれど、素直なお嬢ちゃんに、けいちゃんが私と来たこの思い出の蛍村を狭めないでほしいって、そう伝えたかったんだわ」

「じゃあ、けいちゃんの幽霊なの?」

るりは真剣に尋ねる。その温度にレオは中々ついていけないが、口を挟まず二人の会話を見守る。

「ええ、おそらくね。今はお嬢ちゃんの言う通り、蛍の妖精さんになったんじゃないかしら」

「そっか…そうなんだ」

びっくりしたその感情を覆せず、レオは乗りながら促す。

「まあそうかもしんないけどさ、向こうサイドさんにも事情あるだろうし、その妖精さんとやらのお言葉も大事だろうけど、ひとまず今日は撤収だぜ、ホタルちゃん」

そう言って、るりの肩をツンツンと突付き、おばあさんに会釈してその場を離れる。城島先生とイブキは一部始終を眺めていたが、敢えて何も割って入ろうとはしなかった。





その日の帰りの電車。

るりが乗り換える駅で下車し、レオはそのまま同じ方面に乗っていた城島先生とイブキに本音を打ち明ける。

「先生たちさ、ホタルちゃんの行動どう思った?」

そう問われて城島先生ほ少し苦笑いした。

「どう思ったかー。まあ、るりちゃんらしいね」

「私は見ていて楽しかったなぁ。素敵な思想の女の子だね」

イブキのにこやかな笑顔に、レオはふと小さなため息が漏れた。

その一瞬を城島先生は見逃していなかった。

「全然違うタイプに苦労したかな?」

面白そうに笑う城島先生に少し呆れた顔をしながら、

「あのね美月ちゃん、生徒が署名運動始めたんだよ、止めなさいよ」

「ふふふっ」

「ふふふじゃないよ!俺びっくりしたからね!?ホタルちゃんがあんなことし始めて顧問が止めないんだもん!」

「ごめんごめん、そうね。そこは普通に考えて止めるべきだね」

「そりゃそーでしょ!良い訳ないでしょ!」

「それは本当にそうでした。今度もし彼女が同じ行動を取ろうとしたら必ず注意する。本人がどういう意図を取ろうが、あくまで部活の野外活動。どう見られるか、どういう立ち位置であるかは学校の印象にも関わるからね」

その優しげな微笑みは崩さず、城島先生は続けた。

「彼女のこと、少しは分かりましたか?」

そう言われて、レオは上手く笑えなかった。

「分かったぜ、結構。分かったから、分からなくなった。意味わかんねぇこと言ってるな俺」

イブキもそんなレオを見て笑った。

「柊くん、器用で誰のことでも理解してそうな賢さあるのに分からなくなることあるんだね」

「いやまあ彼女はちょいと特殊だからなぁ。あ、いや、悪く言ってるんじゃないっすよ。俺は彼女のこと結構好きっす」

「流石だねぇ」

城島先生のその言葉にレオは顔を曇らせた。

「おちょくらないで下さいよ」

「あははっ。だってレオくんがそういう顔するの珍しいなーって思って」

そう笑う彼女の表情を見て、レオは不満気な表情を作るが、それに城島先生が続けた。

「じっくり目の前の人を見る。あなたがやってきたこと。もう少しだけるりちゃんに突っ込んであげて」

多くは言わなかった城島先生だったが、自分の交流部での役割を突きつけられた気がした。


今の交流部に必要なこと。


言語化できない何かなんだと悟った。


多分それは、一人ひとりの、その人らしさを開放するための何か、なのだと。


それができない表面上の仲だったから、みんな抱え込んで、苦しんで、影で泣いてきた。

すべてを言う必要はないけれど、それを仲間と共有して、ともに考えられる関係でありたい。

それを求め始めてきたから、堀田るりを分かりたいのだと。


(それが結局、俺のエゴだとしても、だな)





***************




週明けの部室。3年生3人とるりの姿。

「いよいよ今週も終われば夏休みだねぇ」

長期休暇を待ち望む杏樹の横で扇風機を使い涼む琴葉は、

「そうねぇ。で、お二人はどうだったの」

そう目を向けた先、魔法陣を一人床にある黒いボードに描くるりと、気だるげに携帯をいじるレオに問うた。

「ま、楽しかった。だよな?ホタルちゃん」

そう言われて、みんなの前で親しく話すのに抵抗があるるりは、

「ま、まあそれなりに」

と小さく呟く。

そんな彼女の姿にクスッとレオが笑うのも束の間、るりがすくっと立ち上がる。

「今日、先に帰ります」

そう言うと、立ち上がって帰り支度を始めた。

察するレオはるりに言葉をかける。

「この間の帰り、メンバー募集をかけてたな。部活名義でなく自分ひとりであれば迷惑をかけない。そう思ったんだろ?」

「うぬぬ…見透かされておる…」

るりは冷や汗を流すも、気にせず帰ろうとする。

「なら、俺も行くぜ」

るりの後に、レオがついていく。その光景を物珍しそうに琴葉と杏樹が顔を見合わせて目を丸くした。

「なんか意外よね」

「ね。どしたの二人とも。てかいつの間に仲良くなったの」

二人を気にせずるりとレオは廊下に出る。途中、こちらの部室へとやって来た瑛斗、陽、風花と遭遇した。

「あれ、るり、それにレオさんどうしたんですか?」

瑛斗が問うと、バツが悪そうにるりはスタスタと歩きながら、

「ここすけには内緒で」

その言葉にレオも合わせて、

「てなわけでヨロシク!」

そう言って二人は昇降口のある本棟へと向かっていった。

「先に帰るのかな?でもあの二人がペアでしょ?こないだの蛍村で仲良くなったのかな?」

陽が首を傾げる。風花もあわせて、

「だよね。でもさっきの様子、るりちゃんの後にレオ先輩がついていったようにも見えたしね」

「まあ、詳しいことは琴葉さんに聞くか」

瑛斗たちはそう言って部室へと向かった。

当然、到着してあの二人のことを尋ねても、琴葉、杏樹ともに分からない。

「私達も謎なのよ」

「琴葉と一緒に、どうしたんだろ、あの二人ーって言ってたところ」

そこに、城島先生が現れた。

「やっほー、みんな」

彼女が現れたことで、風花は察する。

「もしかして今、二人とすれ違いました?」

それを聞いて城島先生はニヤリとし、

「お、さすが風ちゃん察しが早いね。その通り。るりちゃんとレオくんはとある場所へ向かったみたいよ。ま、レオくんに顧問が何とかしろーって言われたんだけどね」

「どういうことですか?」

瑛斗が尋ねると、城島先生はこの間の蛍村で起こったことを皆に説明した。

一通り聞いて、杏樹が驚く。

「えー!?じゃあ今、るりすけちゃんは、マンション設立反対運動のメンバーになろうと!?」

「城島先生はこれから向かわれるのですか?」

琴葉が心配そうに尋ねる。

「まあね。とは言っても、あのレオくんが意地でも引き止めるだろうし。それに、もう既に今日の朝、彼女の相棒が先手を打って職員室に飛んできたわ」

「もしかしてうちの妹ですか?」

瑛斗が言うと、城島先生は頷き、

「るりちゃんの件はレオくんから事前に幸心ちゃんへ報告済み。もしるりちゃんがまた蛍村へ行こうと動く姿を見たら自分に連絡下さいと、幸心ちゃんからあらかじめ言われてたから、さっき伝えたわ。案の定、ここには来てないでしょ」

それを言われて、瑛斗は不安そうな顔になる。琴葉はそれを興味深そうに眺めていた。

城島先生はすぐ立て付けの悪い扉へ手をかけ、

「まあ、私がここに来たのはこの間のことをみんなに共有したかったからよ。行ってくるわ」

色々と腑に落ちていない瑛斗は城島先生に尋ねる。

「あの」

「ん?どうしたの?瑛斗くん」

「何でるりはそんな行動を取ったのか、何でレオさんがるりにちゃんと構ってくれるのか、何で城島先生は止めるつもりでありながら少し寛容なのか…いまいち分からないことだらけで」

「いっぺんに色々と思ってたのね。そうよね。混乱してしまうわよね。ごめんね」

そう笑むと、城島先生は告げる。

「多分だけど、ちょっとだけ先の未来に期待してるんじゃないかな。3人とも」

「えぇ…」

瑛斗は更に納得のいかない顔をする。

「ふふっ。珍しいね。瑛斗くんが具体的な何かを欲しがるだなんて。まあ、私に任せて」

そうウインクをして、城島先生は本棟へと歩いていった。





***************




数分後。屋上。

部員のやることも特にない今日。瑛斗は外の空気を吸いにこの場所に来た。レオがよく眠っていた場所。

そこに、琴葉がやってきた。

「屋上、たまにしか来ないわよね」

「そうですね」

「やっぱりるりちゃんとレオのこと気になる…?」

「はい。まあ何だかんだ…それ以外のことも色々渋滞させてしまったせいで…」

「そうね。ここまで色々あったものね」

何気に、琴葉とゆっくり話したことがほとんどなかった。ようやくゆっくり話せると瑛斗は思えた。ふいに、溢れた感情を、そのまま琴葉にぶつける。

「前を向こうって決めたし、俺はこの学校に入ってさらに楽しくなって。だからどんなに辛い過去があっても乗り越えていこうって思えた。でも、そうしようと思えば思うほど、過去の傷を見えないようにしようとしてた。意図的じゃないし、隠したくて隠してきたわけじゃない。でも、うまくみんなに伝えられなかった。伝えるのが怖かった」

そう溢れた言葉を自身で振り返り、苦笑いする。

「すみません、るりとレオさんのこととは関係なかったですね」

すると優しく琴葉は微笑み、空を見上げた。

「構わないわ。なんなら誰にだってあるわよ。伝えてしまったら大丈夫なのかって思うようなこと。まあそれで片付けられるレベルではないのがあなたの苦しかったところ」

「幸心を苦しめるなってトラにお叱り受けました」

「あら、あの子ったら随分生意気ね」

「本当に、妹に辛い思いをさせちゃったって、そのとおりだと思いました」

「そうねぇ」

琴葉は息を吐き、瑛斗を見る。

「私は、あなたに感謝してるのよ」

「え?」

「レオに対しても、杏樹に対しても、他の子たちに対しても。きちんと向き合ってくれたでしょ」

「実際のところは陽や風花が色々助けてくれたと思います。だから俺のお陰なのかどうか…」

「私達に時間を使ってくれたことに対しての感謝よ。私達が仲直りする前、マジックを披露するときに、気を遣って二人と会わせないように配慮してくれたでしょう。すごく申し訳ないのと同時に、すごく嬉しかった。一生懸命な瑛斗くんの姿勢が素直に有り難かったわ」

そう言われて上手く返せなかった。自分が何者で、どんな影響力があるかなんて、客観的に捉えられるほどの余裕はこれまでなかった。いや、その余裕を作っていたつもりだった。でもそうではなかった。

「俺は…自分を許せる日がやって来るのでしょうか。みんなに対して偉そうに言ってきたその責任を…」

「はーい、そーやって自分をすぐ責めないの。無理に格好付けてる瑛斗くんは魅力的じゃないよ」

「すみません…」

「ふふっ。大丈夫よ。迷える子羊さん」

「からかってますよね琴葉さんってば」

「あらあら、怒ったー?」

「怒りますよそりゃー!」

「元気が出たようで何よりね」

そしてにこやかに笑った。

「ありがとね。瑛斗くん」

その無邪気な笑みにドキッとした。杏樹に色気を使われた時と、同じ気持ち。





***************






再び蛍村で反対運動をする団体と合流するるり。レオは怪訝そうな顔をしながら団体と話するりを黙って集団の輪の外から見ている。夕暮れ時で、これからまた蛍が舞う時間に迫っていく。

平日なので、これと言ってイベントをやるわけではない。だから、チラシを受け取ってくれそうな人も少なそうな雰囲気。この蛍村の公園を利用するのは僅かで高年齢層の客足だけ。

「姉ちゃん悪いね。また来てもらって」

「いえ…」

「それにしても、何でこんなに俺らに協力してくれるんだい?署名活動なんか、普段したことないだろう?」

「別に特段興味があるわけじゃないけど…でも…」

目の前に広がる、あまりにも綺麗な川を見て、隣接する自然の木々を見て、素直な気持ちになれた。

「ここ、わりと好き」

「ほー。姉ちゃん、心の綺麗な人だねぇ」

50代くらいの、この男性の名は雉本(きじもと)。先日るりがこの活動に乗ってきたことを少々驚いたが、中には若い子も所属しているこの団体として彼女をすんなり受け入れた。

その若い子がるりに話しかける。

「あなたがるりさんですね」

「は、はい…」

「はじめまして。私は雪村と言います。お聞きしたんですが、高校1年生なんですよね?私もなんです!」

「え!そ、そうなの…」

「はい〜!仲良くしましょ!……と言いたいところだったんですが…そちらのお仲間さんは少々プンプンされてらっしゃいますね」

そう言われてレオはふいと顔を背けた。

「別にプンプンしちゃいねぇぜ。俺達は部活だ。部の領域を超える行動をする仲間がいたら見逃すわけにはいかねぇんだ。わりーなホタルちゃん。帰ろうぜ」

同じ電車に乗ってここまでやって来た。だからるりには疑問点がある。

「だったら電車の中で止めれば良かったじゃん」

こちらへ向かう行きの電車で二人は一緒だった。でも、レオはわざわざ止めることをしなかった。

それに対しレオはツッコむ。

「いやいやあなたね、イヤホンをして一切話聞かないモード取ってたでしょ。そんなんで話せるかー!急にそんな強情っぷり見せられちゃったら言うにも言えないでしょ」

そう言われて、自分の行いが少し行き過ぎていたようにも感じたのか、るりは小さく、

「それはまあ…ごめんなさい」

とつぶやいた。が、

「でも、この人たちの活動の役に立ちたい」

そう真剣な眼差しをレオにぶつける。そしてレオは戸惑ってしまう。

「はぁ〜、どうしたものか」

その様子を見た雉本は、レオに同情し、

「この活動は若い子でも入って良いやつなんだけどね、お嬢ちゃんは部活動で今回の蛍村に関わってくれたんだろう?なら、その部活さんに迷惑かけるわけにはいかないんじゃないか?」

「じゃあ部活関係なく、私個人としてやれば問題ないでしょ」

「ま、まあ、それは良いんだが…」

雉本も、そう意志の強いるりを見て、言葉を濁らせてしまう。

るりの決意を見て、雪村が口を開いた。

「もしかして、けいちゃんに会いましたか?」

「あ、うん。え、知ってるの?」

「やっぱりね!けいちゃんに言われたんですよね?この土地を救ってほしいって」

「うん」

レオがその発言を聞いて雪村へ尋ねる。

「え、そのけいちゃんって人、亡くなったってこないだここに来てたばあさんが言ってたぜ?たしかお孫さんだって」

「そのおばあさんのお孫さんかは分からないですけどね。私も彼女に救ってと言われたので、こうしてこの団体に所属しているんです。こんなに綺麗な場所が再開発されるのは、何とも寂しい話ですから」

そして雉本も口を開いた。

「俺の息子も結構前に亡くなってな。息子がこの村とこの公園が大好きだったんだ。この自然に溢れる土地をどうしても無くしたくないから、今こうやって団体を開いてる。みんなここにいる人たちは気持ちが1つなんだ」

そういったバックボーンを聞き、言葉を返しにくくなるも、現実主義者でもあるレオはるりに問うた。

「皆さんの気持ち、すげぇ伝わるよ。この村が愛されてるのもわかる。でもホタルちゃんがそこまでする必要ってあるのか?そこまでして、この村に関わる必要があるのか?」

そう言われて、るりは背を向ける。でも無視をしたわけじゃない。

例え誰にどう思われても。だから言葉にした。

「奇跡って、信じる?」

「え…?」

突然の言葉にレオは驚いたが、構わずるりは続けた。

「私、昔から何もできなかった。自分らしくいたいと思っても、受け入れてもらえなかった。魔術も魔界も結界も、空想なことくらいは知ってる。でも、自分が本気で願ったものが現実になったら素敵だなって思ってる。だって…」

ようやくるりはレオの方を向いた。

ちゃんと気持ちを伝えて前進したいから。


「奇跡って、わりとよく起こると思ってるから」


この言葉だけが、るりのオリジナルでないことだけ、レオには分かった。自分が見た景色と、自分が叶えたいと思った希望に、奇跡はきっと寄り添ってくれると、信じてやまないるりの姿があって、それは元からではなく、彼女に強い影響を与える誰かの存在が感じられた。

そしてその「誰か」が誰なのかも、何となく分かる。


「そっか」


ふと諦めのように声が漏れてしまった。自分には手が負えないと感じた。個人でこの団体に入りたいと願うなら、それはそれで止める資格もないように感じてしまった。

「あら、珍しいわね、レオくんが折れるなんて」

その声を聞いてレオとるりは声の方を見る。きっと、結構前から声の主…城島先生は二人の会話を聞いていた。

「折れたっていうか、初めから美月ちゃん入ってよ」

「ふふふっ。るりちゃん、頑張ったわね。でもここでおしまいにしておきなさい」

そう言うと、遠くにいるスーツを来た小柄な男性が城島先生のもとへやってきた。彼に先生は声を掛ける。

「あの子がるりちゃん。よろしくお願いね」

そう言われて男性はるりとレオの方に近づいてきた。

「こんにちは!」

ニコニコの笑顔で言われ、るりは戸惑う。気にせず彼は雉本に挨拶する。

「ご無沙汰してます!雉本さん」

「おー!久しぶりだね」

「ですね!」

「もう動物園勤務は離れたのかい?」

「はい!でも、今の職業を明かす前に、この子達に挨拶ですね」

その彼は、改めてるりとレオにお辞儀をする。

「はじめまして。私は茂武歩猿と申します。気軽に救世主モブぼさーるとでも呼んで下さい!と言っても、そちらのお兄ちゃんとは一回会ってるんだけどね!」

「ん?俺?」

レオはキョトンとする。

「スターくんのお友達さ!前にスターくんの家に遊びに行った時に君がいたんだけど、まだ君は小さかったからね」

「えー!?スター兄ちゃんの友達!?全然記憶にない!」

茂武歩猿(もぶぼさる)。城島先生のかつての教え子であり、レオの従兄弟である柊星(ひいらぎすたあ)の友人。そんな彼はニカっと笑う。

「そうなんだよー!今日ここに来たのはほかでもない!城島先生から頼まれてね、君、るりちゃんの頑張りに応えてあげたいと思ったのさ」

「どういうこと…?」

るりは少し警戒しながら尋ねる。そんな警戒心も気にせず、モブは優しい声音で名刺を渡す。

「環境保全委員会という場所で部長を務めています。再開発を考えている団体さんに、街のお声と、日照権等の基準審査を今一度話し合うチームです。ボランティアではないので、改めて再開発グループとゆっくりお話する予定ですので、ご安心下さい」

そう温かな声で言われて、るりは戸惑いながら小さく頷いた。その仕草に、城島先生は胸をなでおろす。

「高校時代の担任の先生が、今別の学校で部活動の顧問をやっていると聞いて、ぜひお会いしたかったんだ。るりちゃんは生き物好き?」

「はい…」

それを聞いて、再び無邪気に笑った。

「そっか!」

その後、雉本は現在のこの組織が集めた署名についてモブと話し合っていた。どうやらモブはこうした生き物や自然に関わるトラブルを、動物園での飼育員を経験した知識を用いて対処する仕事へとあり着いたようだった。それを知っていた城島先生はあらかじめ想定して彼をるりに向け、専門的に解決させるつもりだったのだ。

レオはそれを聞いて疲れのため息を吐いた。

「なんだよー、じゃあ俺わざわざ何でここまで来たんだよー、結構遠かったのにー」

そう少し面倒くさそうに言うレオを横目に、るりが振り返るが、

「あれ…」

そこにもう雪村の姿はいなかった。

きっと、初めからこうなることを分かっていたかのように。

誰も何も指摘していなかったから、るりは何も言わなかった。

少しして、モブと雉本と他の団体のメンバーが、城島先生とるりとレオを見送る。

「せんせー!またねー!」

モブが元気に城島先生を呼ぶ。

「はいはいまたね!まったく元気なお猿さんなのは相変わらずなんだから」

城島先生とモブは今も定期的に連絡を取り合ってご飯に行く仲。蛍村でのるりの様子を見た城島先生が、先手を打ってモブに声をかけていたのだった。





*******





帰りの電車。

レオはるりに言う。

「ホタルちゃん」

「なに」

「俺も思えた」

「何を?」

「奇跡のこと。そーゆーのも良いなって思った」

「へぇ」

奇跡なんて、起こせるかは分からないけれど。

自分の信じたものの先で、誰かが見ていてくれたりする。

そんな話が照れ臭くなったが、るりは前から言いたかったことがあった。

もっと照れ臭くて。でも勇気を出してみたくて。

「レオって呼んでもいいですか」

そう言われて、レオは目を丸くした。まさかるりからそう言われると思っていなかった。

だがすぐに彼女が愛おしくて仕方なくなる。わざわざ彼女を気にかけてしまうのは、部活としての管理をする意もあるが、一人っ子であるレオにとって、おてんばな彼女が可愛くてしようがない。

「もちろん!愛してるぜ!ホタルちゃん!☆」

そうダル絡みのようなテンションで言われてるりはうぇぇと露骨に嫌そうな顔をする。それにアタフタするレオを見た城島先生は満足そうに笑んでいた。





*******





綺麗な川に、また蛍が一匹、二匹と舞う。

月が道を照らし、夏の夜風が吹き抜ける。

ポツンとけいが、その蛍の光景を眺めている。

隣に、雪村が並んだ。

「おばあちゃん、喜ぶと思うよ」

そう言うと、けいは小さく頷く。

「うん」

すると後ろからやかましい声が聞こえる。

「まーどーかーちゃーん!」

そう呼ばれて雪村は呆れたため息をついた。

「もううるさい。けいちゃんと今からフランクフルト食べて夏を満喫するんだからどっか行って」

「ちょっと!?酷くない!?そのフランクフルト、俺のおごりなんだけど!?」

「うるさいな、アンタは私のATMなんだから」

「厳しぃ〜!でもそんなまどかちゃんのこと、この雉本くんは大好きだぜ!」

「キモ」

「キモって言わないで!」

そんな会話をしながらも、雪村は笑って優しく呟いた。

「あなたのお父さんも、これで喜ぶんじゃない?」

それを聞いて彼は雪村の隣に座る。

「そうだなぁ。何もしてやれなかった息子だからなぁ」

3人は風鈴の音を楽しみながら、誰も邪魔されず3人だけで蛍の舞う綺麗な景色を眺めていた。

前回の続きのエピソードでした。

るりちゃんが交流部に入る前に瑛斗に言われた言葉。

ちょっと頑固で周りが見えなくなることもあるけれど、瑛斗からの言葉を大切にしていることが伝わるエピソードだったのではないでしょうか。

レオを今回この組み合わせにおいたのは、勿論これまでるりとあまり接点がないというのも理由の1つですが、現実主義者で常に余裕な人がるりの世界観に振り回される姿を描きたくて彼を選びました。

何だか正反対だけれど惹かれ合うところもある二人が今後交流部で仲良くしてくれたら、作者としては嬉しいですね。

さてさて、劇団!三角関数10周年記念スペシャルということで、今回は前著『それでも俺は、目の前の俺に詩う。』より、雪村まどかちゃん、雉本くんが出てくれました(雪村さんは『あーしたてんきになーれ!』という劇団作品のキャラでもありますね!)。雉本パパを出すのは、全く予定になかったので、まさか雉本くんのファミリーが見れるとは個人的に嬉しい限りでした。

そして何より『リアルに銃を撃て。』から大人になったモブくんの登場です。

リア銃の社会人編では飼育員さんとして過ごす彼が描かれていましたが、そこから環境保全の取り組みをし、動物たちの住処を守る方へ仕事をシフトしているというのも、生みの親としてはアツいです。

またどこかでモブくんを書くタイミングがあればと、今からワクワクします。またの登場がいつになるかは分かりませんが楽しみにしていて下さい!

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