五百年後の世界で
本編始まります。
拙いですがよろしくお願いします。
では、どうぞ('ω')ノ
カチッ、カチ。
時計の秒針が静かに時を刻んでいる。
その部屋で、一人の女性が黙々と書類を書いていた。
年齢は三十台前半、人によっては、二十台にも見えるだろう。
誰が見ても美しいと口を合わせるほどの美女だ。
銀髪に、コバルトブルーの目。仕事のためにかけている眼鏡
も彼女の魅力をより高めている。
すると、コンコンと、扉がノックされる。
「入り給え」
彼女が言うと、扉を開け一人の女性が入ってきた。
「失礼します。学園長」
「どうしたんだ。コーネルア君」
書いていた書類からペンを離し 眼鏡を外す。
こういう時は、彼女自身仕事モードで話したくはないのだ。
コーネルアと呼ばれた女性は彼女の机の前までやってくると、
「本日の会議で出された意見書です。主に生徒の遠征に関する
ものです」
彼女は受け取ると軽く目を通す。
「ふむ、わかった。検討しよう。ああ、ついででいいから、こ
れらの資料を持っていて、明日の朝礼で配っておいてくれ」
と、資料の山から、数枚を取り出し、コーネルアに渡した。
「はい、すみません学園長。このようなことは普通は我々がしな
ければいけないのですが」
申し訳なさそうに、話す学園長と呼ばれた女性は優しく笑う。
「別に問題ない。この学園の教師が忙しいことは重々承知のことだ。
そういうなら君のほうが忙しいだろう。教師の仕事だけじゃ
なく、私の秘書までやってもらっているのだから」
コーネルアは恥ずかしそうに、顔を赤くすると、
「それは、好きでやっていることですから。学園長にはかないません」
「なに、千年も生きていると、これくらいの忙しさは問題ないさ」
「学園長...」
「できれば、その学園長というのも辞めて欲しいな。公の場以外で
は、名前で呼んでくれ」
「え?いいんですか」
「ああ。昔ちょっとあってね。階級とか位とかで呼ばれたり、尊敬
されたりすることが苦手になってしまったんだ」
「わかりました。がく—」
じろっ
「ヴェロニカ様」
ヴェロニカは軽く微笑むと、頬杖をつく。
「どうだ?ここには慣れたか?」
突然の質問にコーネルアは驚き慌てえるが、顔と不釣り合わせ
な眼鏡をくいっと持ち上げると、
「はい、かなり大変ですがなんとか」
「それはよかった。当初、仕事がなくて泣きついてきたときは大
丈夫かと思ったが杞憂に終わりそうだ」
「はい、とは言っても、担当するクラスの子たちがいい子だから
ですよ」
「おまえはまだ若いからな。男どもには人気だろ」
「やめてください。確かに時々、変な視線を感じますが」
「それは、お前の体つきだろう」
と、ヴェロニカは彼女の胸部分を見る。そこにはスイカが二
つある。
「もう、ヴェロニカ様!!」
顔を真っ赤にして胸部を腕で隠し、声を張り上げる。
ヴェロニカはからからと楽しそうに笑った。
「いや~すまない。ついな」
「ついではすみませんよ」
「まあ、許せ許せ」
はあ、コーネルアはため息を吐くと、
「では、私はそろそろ失礼します」
「ああ、またなにかあったら連絡する。後―」
と、言いかけた瞬間。
ぞわり。
突然何かが。二人を襲った。
正体はわからない。ただ、とても強い〝何か〟が突き抜
けていったのだ。
「な、なんでしょうか?今の」
冷や汗が流れるほどの悪寒を感じたコーネルアは、すぐさ
ま、ヴェロニカに聞く。
しかし、ヴェロニカは、こちらの話が聞こえないかのよう
に呆然としていた。
「ヴェロニカ、様?」
心配して顔を伺おうとすると、バンッといきなり椅子から立
ち上がった。
そして、
「来た。ついに来た!!!」
「......へ?」
急なことについていけないコーネルアをしり目にヴェロニカは
一人で舞い上がっていた。
「待った。待ったぞ!!この五百年!!」
と、ここでやっとぽかんとしている彼女に気付き、ヴェロニカ
は恥ずかしそうに咳ばらいをする。
「すまない。一人舞い上がってしまった」
「いえ、大丈夫ですが、一体どうしたのですか」
「そうだな。コーネルア」
「は、はい!」
突然呼ばれ、声が裏返る。
「これからのことは全て他言無用だ。いいな?」
真面目な顔で少しばかり威圧が混じった声で言われ、ドキッ
とした。
「はい、絶対に話しません」
「よろしい。では、付いてきたまえ」
ヴェロニカは本棚の目の前までやってくると、その一冊を
ぐいっと奥に押し込んだ。
すると、本棚がスライドし、暗い通路が現れた。
「いくぞ」
一言だけ声をかけると、ヴェロニカはその中に入っていった。
コーネルアもあわてて、ついていく。
通路の先は螺旋階段になっていて、下に続いていた。
光魔法で光の球体を生み出し、辺りを照らしながら慎重に下
っていく。
「こんなところが、学園にあったんですね」
「いや、これは学園ができる前に私が創った」
「どうして創ったのですか?」
「大切なものを隠すためにね」
「大切な物?」
「ああ、大切な者さ」
何か食い違っているような気がしたコーネルアだが、気の
せいだろうと思い、下っていく。
まだまだ、先は長そうだ。
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三十分は歩いただろうか。
ようやく、階段が終わると、目の前に大きな扉があった。
扉の向こうからは、かなりの量の魔力を感じた。
ダンジョンのラスボス?いや、もっとありそうだ。
ぞくぞく、鳥肌が体中に浮き上がる感覚に襲われる。
いや、実際しているのだろう。
「この扉の向こう、ですか?」
「ああ、そうだ」
ヴェロニカは嬉しそうに、少し懐かしそうに答える。
「では、開ける。反対側を任せる」
「は、はい」
それぞれ扉に両手を当てる。そして頷きあうと。
「「せ~の」」
五百年も開けていなかったためか、かなり力が必要だった。
何とか扉を開けると、抑え込まれていた魔力がドッとあふれてきた。
その圧力に一瞬気を失いそうになる。
「大丈夫か!?」
隣にいたヴェロニカに肩を揺すられる。
「はっ。すみません」
大丈夫だとわかると、ヴェロニカはほっと息を吐いた。
「あまり無理はするなら、部屋の外で待っていてもいいぞ」
「いえ、大丈夫です」
何とか立ち、部屋を見る。
そこにあったのは―
「ほわ~~~」
思わず声が出る。そこにあったのは巨大な水晶の塊だった。
内部から放出される魔力が、水晶を通るたびに、幻想的な
輝きを放っている。
「すごい」
すると、ヴェロニカが水晶に近づいていく。慌ててつい
ていくと遠くからでは分からないことがあった。
(あれは?男の子?)
年齢は十代後半くらいの少年が水晶の中に閉じ込められ
ていたのだ。
ヴェロニカは、水晶の中の少年を愛おしそうに見つめると、
水晶の表面を優しくなでた。
「ヴェロニカ様。彼はいったい...」
コーネルアはその少年に魅入られながら。ヴェロニカに聞く。
「彼は...」
ヴェロニカが一端呼吸を整えて、再度口を開く。
「私の、息子だよ」
「...............へ?」
今日一番の驚きが思考停止させる。
「義子だがな」
付け加えで言った言葉で、思考が戻りホッとする。
(そうだよね。ヴェロニカ様。結婚したことないって言っ
ていたし)
「珍しいですね。ヴェロニカ様が」
「なに、単なる気まぐれだったよ。最初は、ね」
なつかしむように言葉を紡ぐヴェロニカに、思わ
ず緊張がゆるんでしまう。
「こいつだけだがな」
すると、さっきと同じように愛しそうに彼を見つめる。
「名前は、アルデバラン・クロスフォード。十二年間だけ
共に過ごし、封印された可哀そうな子だ」
「なぜ、封印されたのですか?」
「強かったからだよ。魔王を倒すくらいね」
「そうなんですか...ん?今何て言いました?」
「だから、魔王倒すくらい」
「魔王って、あの魔王ですか?」
「ああ、他に誰がいるんだ?」
「へ、でも倒したのは、当時の王国の王子だって、歴史や
絵本では言われていますよ?」
「そんなの真っ赤なウソに決まってるだろ。それは国王が
何の才能もないデブを何とか輝かせるために改竄したも
のさ」
「え、えーーーーーーーーーーーーーーーーーーー!?」
さらに驚きの真実?が出てきた。
「さっきも言ったが、誰にも言うなよ」
「は、はい」
こんなこと言えない。他でもないヴェロニカが言うのだ。
当時を生きた魔女が言うのだ。嘘なわけな いだろう。
ただここで、疑問が浮かぶ。
「でも、なんでヴェロニカ様これを秘匿するのですか?
ヴェロニカ様のことですから皆信じると思いますよ」
「言うものか。それで、そいつはどうなる。ましてや封印さ
れているんだ。彼の意志と関係なく様々なことが秘密裏に
決まる。さすがの私でもその一つ一つを完全潰すことはで
きない」
なるほど、そんなことが知られれば、政略結婚だの、爵位が
何のとてんてこ舞いだろう。
ヴェロニカの母親としての思いもあるだろう。
今まで見たことないヴェロニカの姿に、コーネルアは驚きな
がらも、つい、ほっこりしてしまう。
「立ち話が過ぎたな。ここへ来た最大の理由はこいつの封印が
解ける」
「!!?」
「といっても、つい先ほど私も気づいた。この封印術式は秘密裏に
開発されたものだろな。私でもこれを解呪することができないんだ。
よく調べると、少しでも手を加えると対象を殺すように。組見込ま
れていてね。気長に待つしかないんだ」
「中の彼は大丈夫なんですか?」
「ああ、そこは大丈夫だ。水晶内では、彼は死なないようにできている。
まあ、それは私とかが手を出すことを見越してしたそうだが、今回はそれが
裏目に出たのさ」
さて、とヴェロニカが視線を水晶に戻す。
「お、来るか。コーネルア、離れろ」
「はい」
二人はまた扉付近まで後退し事の次第を見届ける。
すると、水晶はこれまでよりも遥かに強い光を放ち始める。
ピキッピキピキ。
光の向こうで水晶にヒビが入る音が聞こえる。それは瞬く間に広がり。
ついに水晶は砕け散った。
ありがとうございました。
コーネルアはヒロインではありません。
これからも頑張ります。