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私と夫には下に兄弟がいる。それぞれ7歳下と9歳下にいるの。ただ、私は妹達、夫は弟達だったのよ。やはりお互いの家以外に近い歳の子供がいなかったから、それぞれの子達も仲が良かった。
でも、流石に私と夫みたいに夫婦になりはしなかったのだけど。
そんなことを思っていたら、陽菜がまた訊いてきた。
「ねえ、他の子供向け番組はなかったの?」
「あったわよ。『お母さんといっしょ』はもちろんあったし『ピンポンパン』と『ポンキッキ』かしら」
「そうだな~『できるかな』や・・・人形劇はどうだったかな」
「人形げき? な~に、それ?」
「NHKで夕方に放送していたのよ、陽菜。私は笛吹童子と紅孔雀、プリンプリン物語をみたわね」
「他に八犬伝と真田十勇士があったと聞いたよ」
「ひょっこりひょうたん島も人形劇に入るのかしら」
「入るんじゃないかな。最近だと三銃士とシャーロックホームズをやっていただろう」
「ええ、そうでした。三銃士の話が好きだったので、録画させてもらいましたねえ」
夫の言葉に私はにこりと笑った。
「だから、おじいちゃんとおばあちゃんの二人で解りあってずるいの~」
陽菜が口をとがらせながら言ってきた。それに私と夫は笑い掛けながら言った。
「すまないね、陽菜。だけどつい懐かしくなったんだよ」
「そうよ。この時代のことを知っているの私達と」
言葉を切って視線をアルバムに落とした。つられたように皆の視線がアルバムに集中した。
「このアルバムの中の写真達ね」
またまたニッコリと笑ったら、陽菜が叫ぶように言った。
「わかるけど、わかるけど~。さっきからおじいちゃんとおばあちゃんの恋バナになってない!」
「それは陽菜の誘導のせいでしょ。恋バナ以外のことを訊きたがるんだもの」
朱美さんが呆れたように言った。
「だって~、そっちも気になるんだもん。今と違うんだよー。私が産まれる前どころか、お父さん、お母さんが産まれる前の話なんだよ~。それにさ~、リカちゃん人形とおばあちゃんが遊んだなんて聞いたらさ~、今とおばあちゃんの子供の時と、一緒なこととか知りたくなるじゃ~ん!」
陽菜がプンスカ怒りながら朱美さんに言い返した。大人達は目を見交わしあった。
確かに陽菜の言う通りだ。現在と昔。変わったようで変わってないものも多い。
陽菜が突然立ち上がった。
「喉が渇いたから、ペットボトルのお茶を持ってくる」
そう宣言して、部屋を出て行った。すぐに大きいほうのペットボトルを持って戻ってきた。そうしてみんなの湯呑にお茶を注いでくれた。
「ぼく、おちゃよりジュースがよかった」
「裕翔、それなら自分でとってくれば」
そう言って陽菜は座って、お茶を一口飲んで続きを話してきた。
「じゃあ、おじいちゃんとおばあちゃんにかくにん! 二人はさっき言った番組を一緒に見ていたの?」
「まあ、大体はな」
「ええ。おじいちゃんの両親が仕事を終えて帰ってくるまではね」
それを聞いて陽菜がニンマリと笑った。
「じゃあね、いつ二人は手を始めてつないだの」
「それは・・・」
夫と目を合わせる。夫も私を見てきた。
「「幼稚園の時だ(よ)ね」」
言葉が重なった。
「はあ~?」
「だってね、園外に出かけた時には、隣の子と手を繋ぎましょうって、先生に言われたから」
陽菜がこぶしを握ってプルプル震えだした。
「だから~、違うでしょ。恋人としてよ!」
「恋人としてねえ~」
そう言った夫が意味ありげに私のことを見てきたので、私は慌ててアルバムに視線を向けて、次のページをめくったの。
「今度は小学校の運動会の写真か~。今と変わらないみたいだな。徒競走に玉入れ、綱引き。・・・これってなんだ」
息子が私が開いた写真を覗き込んで訊いてきた。平均台に跳び箱、あと網があった。
「ああ、障害物競争だよ。これは4年生がやったものだったな」
夫が答えた。
「これって・・・伝説のパン食い競争?」
朱美さんもパンに飛びついている子供の写真を見てそう言った。
「確かに。そうか、父さん達の頃にはあったんだ」
「そう言えばお前たちの頃には、パン食い競争はなくなっていたな」
「そうだよ。町内の運動会ならあったけど、小学校も中学もなかったんだよ」
「いまは障害物競走もないよ」
陽菜も写真を見ながら言ってきた。
「ねえ、これは? 棒を持って走っているみたいだけど?」
「これは台風の目という種目だよ。4人から5人で棒を持って走り、途中で右回りと左回りをするものだったんだ。内側になった子はその位置から動かないように皆が回る間、棒を押さえなくてはならなくてね。一番外側になった子は大回りする分、早く走らなければいけないというものだったんだ。なかなか足並みをそろえるのが大変だったんだよ」
「へえ~。あっ、こっちは二人三脚だ~。・・・リレーじゃないの」
「この時はリレーじゃなかったんだよ」
次のページをめくったら騎馬戦の写真でした。
「え~。女の子も騎馬戦したの?」
「そうよ。6年生の種目だったの。だから、男女混合だったの。でもね、おばあちゃんたちが6年の時には5、6年生の種目に変わって、それから男女別に行われたの」
「え~、なんで? 男女一緒でもいいじゃない」
「まあ、そこはいろいろあったのよ」
ほかにスプーンリレーと応援合戦、フォークダンスの写真があり、裕翔が不思議そうに訊いてきた。
「これなに? おとことおんなとわかれて、わになっているけど」
「これはフォークダンスをしているのよ。これは何を踊った時かしらね」
「マイムマイムかオクラホマミキサーではないかな。あとジェンカでじゃんけんゲームの年もあったよね」
「そうそう。フォークダンスも1年と6年じゃ背が違いすぎるから、学年ごとに輪を作ったのよね。じゃんけんゲームにしたら、学年関係なく出来て楽しかったわね。そう言えばあなた。5年の時に一番になりませんでした」
「あれはたまたま勝てただけだよ。6年では1年の子に早々に負けたから」
夫は謙遜しながら言ったけど、たしか6年の時は最後の4人に残ったはずだ。私は・・・最初に隣にいた夫とじゃんけんをして負けていたもの。
「ねえ、それってどういったゲームなの」
私は夫と目を見合わせた。そして二人で立ち上がって椅子の後ろに行った。
「手を腰に当てて、曲に合わせて動いていくのよ。足を、右、右、左、左、前、後ろ、チョンチョンチョン」
そう言いながら足を動かした。右足を出して引っ込めるのを2回、左足を出して引っ込めるのを2回、両足で前に飛んで、後ろに戻って、チョンチョンチョンの所で前にピョンピョンピョンと飛び、夫と向かい合ったところで、じゃんけんをした。
「また負けたわ」
そう言って、夫の後ろについて夫の腰に手を回して掴んだ。
そうしたら裕翔が夫の前にいた。夫の真似をして、足を出し3回のジャンプは前に進まずにそこでジャンプ。そしてじゃんけんをして、あいこだった。もう一度じゃんけんで、夫の負け。夫と私は裕翔の後ろについたの。
次は息子が裕翔の前に現れた。二人とも一生懸命に足を動かして、ジャンプで向き合ったら、じゃんけん。あっさり息子が負けて、息子は私の後ろに。
そして陽菜が目を輝かせて、裕翔の前に立った。足を動かしたのち、じゃんけん。あいこでしょ。あいこでしょ。陽菜の勝ち。裕翔は悔しそうに陽菜の後ろについたのでした。