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私はこの日、中々寝付けなかった。おつき合いを始めて4年。今までいい雰囲気にならなかったわけじゃない。それでも夫は私に触れようとはしなかった。友達の中には会って間もないのに、すべてを捧げてしまったと話していた子もいた。中には私達の付き合いを聞いてくる子もいた。そんな時いつも私は、曖昧に誤魔化していたの。


ある友人には私達の付き合いのことを正直に話していた。私は『魅力がないのかな』と言ったら『バカね』と言われたの。『とても大切にされているのよ』とも言ってくれた。


家に帰るまでの間に夫にその話をしてみた。もしかしたら軽蔑されるかと思ったけど、夫は驚いただけだった。そして夫の気持ちをポツリポツリと話してくれた。


夫の友人達にも武勇伝の様に自分の彼女とどういった付き合いをしているか話す人もいたそうだ。そういう人は夫にも聞いて来たそう。かなり不快になる言い方をされたのか、このことを話す夫は不機嫌そうだった。夫も適当に誤魔化したと言っていた。


夫も私とそういう関係になりたくないわけではなかったらしい。ただ、私のことを真剣に考えてくれた結果が、口づけも出来ない状態だったとか。一度口づけを交わしてしまったら、歯止めが効かなくなるのではないかと、思っていたそうだ。


・・・確かにさっき一度口づけをしてから、何度も口づけを交わした。お互いを求めるように何度も何度も口づけをした。やっと唇を離した時に夫は小さな声で呟いていた。『ここが家でなくてよかった』と。


私も夫の呟きに賛成だった。口づけだけで半分意識を飛ばしてしまっていたから、もしそれ以上を求められても拒むことは出来なかったと思ったの。


でも、その後も私達の付き合いは特に変わることがなかった。一緒に高校まで登下校して、テストの前は一緒に勉強をした。そしてそれぞれ部活に力を入れた。


アルバムをめくると最後の年の野球部を応援をする私の写真と、打つ、走る、守るの、夫の写真があった。この年は結局野球部はベスト4で終わってしまったのだったけど。


夏休みになると夫は猛勉強を始めた。今までも野球をしながら上位の成績をキープしていたの。それを全力で勉強に打ち込みだしたのよ。夏休み明けのテストで5位以内にはいっていたの。私はというと、成績は上の下くらい。逆立ちしたって夫と同じ大学にはいけないことはわかっていた。それよりも私にはやりたいことが出来ていた。なので、その勉強ができる短大を受験しようと思っていたの。


そう言ったら担任を始め両親にも反対された。短大ではなくてちゃんと大学を出ろといわれたの。でも、それでは私には意味がない。夫が受験する予定の大学に近い大学に私が希望する学部はなかったの。もしその学部のある大学に受かることがあったら、4年間離れ離れになってしまうの。それだけは嫌だった。


夫にこの話をしたら、夫が私の両親を説得してくれた。最初は渋っていた両親も終いには許してくれたの。担任も私の熱意に負けたのか、短大受験に何も言わなくなった。


そうそう、最後の体育祭は夫が応援団長に就任したの。伝統の白い学ランを着こんだ夫の応援する姿は、とてもかっこよかったわ。


文化祭はうちのクラスは縁日をテーマにしたミニアトラクションを用意した。輪投げ、射的、作り物の金魚釣りに水風船すくい。それからもう一つ、三角くじを作ったの。三角くじの景品はゲームセンターで大量にとったぬいぐるみが充てられた。ゲーセン好きの子がうちのクラスには何人かいて、クレーンゲームの攻略に燃えて、気がついたら部屋の中がすごいことになってしまったとか。それを提供してくれたの。

どれも1回100円にした。あと、どれもできるのは1回だけ。そうしないと多くの人が楽しめないからと夫が提案して、クラスメイトに受け入れられたの。

それから皆は縁日にちなんで浴衣を着たの。もちろん中にはTシャツと短パンは着たけどね。


その写真を陽菜が目を輝かせて見ていた。


ページをめくるとクリスマスの写真があった。その写真には今までと違うものが写っていた。それに気がついた朱美さんが声をあげた。


「お義母さん、もしかしてこれは婚約指輪ですか~」

「ええ、そうよ」


写真の中の私の左の薬指にはダイヤの指輪が光っていた。12月に入った最初の土曜に、両家の親に連れられて指輪を選びにいったの。私達はまだ脛をかじっている身だし小さな石でいいと言ったけど、うちの親が周りの目があるからとこの大きさの石を薦めてきたのよ。

この頃には私達が高校を卒業したら式を挙げることが決まっていたわ。大学に合格したら親元を離れて暮らすことになる。それならばもう籍を入れて一緒に暮らした方が安心だと、私の進学のことを夫に説得されたときに両親は思ったそうだ。

文化祭が終わった後、土日になると結婚式場通いが始まった。受験があるから入籍だけでいいと思っていたのに、本格的な挙式になりそうで戸惑ってしまったわ。


新年になり私は振袖を着付けられた。結婚したら振袖は着られないと着付けをされる時に聞いた。私はそれを聞いて残念に思ったの。成人式に振袖を着るのを楽しみにしていたのだから。


そして何故か大学共通第1次学力試験に向かう写真もあった。受験票を手に持って写真に写っていた。


次のページはドレスを着た私の写真だった。結婚式場に行くたびに、私はドレスの試着をさせられた。その写真がそのページにはいっぱいあった。


「うわ~。おばあちゃんがお姫様みた~い」

「でも時代ですかね。かわいいドレスですけれど、袖があるんですね」

「そう言われて見ればそうね。今のドレスの様に袖がないものは少なかったわね」


まるで中世ヨーロッパを思わせるような色とりどりのドレスから真っ白でフリルがふんだんに使われたものから、シンプルなマーメードラインを強調したドレスまで、本当に様々な物を試着させられたのよ。


ページをめくったら今度はチャペルでの結婚式の写真があった。他にも披露宴会場の入り口に立っている写真や、ひな壇に立ってお辞儀をしている写真。


その写真をみて、朱美さんが疑問の声をあげた。


「あの、お義母さん達はチャペルの式ではなかったと言っていませんでしたか?」


朱美さんは顔にいっぱいの疑問符が見えるような表情をして訊いてきた。


「ええそうよ。これは頼まれて模擬結婚式と披露宴を行ったのよ」



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