第3話 その少年、惹かれる
【3】
それから暇で仕方のない俺は毎日のように庭園に行き、ミズキが訪れるのを今か今かと待ち続けた。そのかいあってか、ミズキが王城を訪れる周期が分かった。
三日置きだ。
ミズキは三日置きに鍵縄を使って防壁をよじ登り、城に侵入していた。俺はその度にミズキが兵士達に捕まらないように周りに気を配り、内部には行かせず、ミズキと初めて会ったこの庭園で一緒に話をして過ごした。
「でね、昨日レモンで砂糖漬けを作ったんだけど…」
「砂糖漬け?」
なんだそりゃ、と思い聞き返すと、そんなものも知らないの? とミズキが教えてくれる。
「レモンを砂糖で漬けたものだよ。それに湯入れてホットレモンとかにするんよ」
「へ~……それって、レモン漬けじゃねぇの?」
何となく侍女たちが話していた内容を思い出す。しかし、確かそれは着ける為の材料のことは言わず、漬けたものの名前で呼んでいたような気がする。
「何言ってんの? レモンを砂糖で漬けてんだから砂糖漬けっしょ」
ミズキの反論に俺もむきになって反論する。
「いやいや、砂糖でレモンを漬けてるんだからレモン漬けだろ」
そんな俺の反論にさらにミズキが反論する。
「塩漬けだって、糠漬けだって、全部何で漬けたかの名前だろ!」
「つけ麺は付けつけたものの名前だ!」
「つけ‼」
「麺‼」
「つけ‼」
「麺‼」
切りのない言い争いにミズキがしびれを切らして両の拳を空に突き上げる。
「もう! “めん”を付けるなー‼」
「いやいや、麺は付けないと味がしねーって!」
「……あ! そういう意味じゃなくて、平仮名表記! 麺類のめんじゃないの‼ そっちが『めん』て言うとこっちの『つけ』で『つけ麺』になってるから‼」
ここまで話して、お互い何の言い争いをしていたのかよく分からなくなる。しかし、そのくだらない会話が世間知らずで暇を持て余している俺には楽しくて、楽しくて仕様がないのだ。
何より、今まで知らなかったことを知る事が出来るのだ。例えば、王宮と城下町との言い方の違い、とか。
一息つき、ミズキが俺の方に顔を向ける。
「なぁなぁ~、サニー・アルフォードって、どげな奴なん?」
そしてここに訪れる度にこの質問が来る。
俺にしてみれば自分自身のことを聞かれているわけだから、恥ずかしいことこの上もない。そこで有ること無いこと適当にミズキに話して聞かせた。
ミズキはその話を真に受けているのかいないのか、俺が話す度に大きく頷き、興味を示した。
ミズキが城に不法侵入し始めてから一ヶ月、その間にミズキについて分かったことは年齢だけだった。十代の前半かと思いきや、俺と同じ十六歳。
俺は日に日にミズキという存在に惹かれていくのを感じた。強く、気高く、大らかで、この世に存在する全ての悲しみを包み込むような笑顔、その全てが俺にとって目新しいもので、また大きく俺の興味を引いた。




