58章 発見―――六百七十五年・十月六日(七)
警察署を出たその足でキュー先生のアパート、メゾンラブレへと向かう。暗くなり始めた人工光の下、外付け階段を昇って三階へ。
三〇五号室のドアには、未だ立入禁止の黄色いテープが張られていた。通路に人影は無いので、しばらく考え事に耽っても大丈夫だろう。もし声を掛けられたら、試しに旅の武芸者ですとでも言ってみようか?
三節棍を脇に立て掛け、鞄を足元へ。コンクリート製の柵に肘を付き、顎に手を置く。その姿勢のまま、街灯がまるで星のように瞬くラブレをぼんやりと眺めた。
(ここから見ると結構綺麗だな、この街……)
下宿先は玄関が郊外の方を向いているので、今までちっとも気付かなかった。
(煙草を吸いながら、アラン先生も一人で毎晩見ていたんですよね?この景色を……)
一体、あの逞しい胸中をどんな思いが渦巻いていたのだろう。殺人者に頭を下げたまま生を終わらされ、さぞ無念だった筈だ。しかも、大切な幼馴染を目の前で連れ去られて……!
キーン、コーン、カーン、コーン……。「ああ、もう六時か」
何処か物悲しげに響く学園の鐘に促され、荷物を手に取る。小父さん達が心配しているかもしれない。名残惜しいがそろそろ帰ろう。親友から調査結果も聞かないと。
階段を降り始めた僕の視界の端で、ふと闇が動いた。反射的にそちら側を振り向く。
心臓が、止まったかと思った。
眼下の道路に佇む、全身に黒布を纏った不審者。―――間違い無い、殺人犯だ!まさかのこのこ現場に帰って来るなんて!?
(どうする?公衆電話まで走って、ジョウンさんを呼ぶか?あ!)
拙い、相手が移動し始めた!迷っている暇は無い。慌てて後を追う。
敵は時折振り返りながら、足早に船着場へ入っていく。別の星へ移動するつもりなのか?ええと、パスは……良かった、持ってる。
頭上の時刻表を確認し、改札を抜ける殺人犯。にしても随分背が低いな。僕より五センチ程度高いが、それでも百六十センチ前後だ。
突然敵は小走りになり、停泊中の定期船へ滑り込んだ。追跡者の僕も上を確認し、吃驚仰天。離陸まで後一分しかない!慌てて乗降口へ跳び込む。
一足先に入口近くへ陣取った奴の死角に立ち、息を整えつつじっくり様子を観察する。どうやら今日は例の武器を所持してないようだ。
(こんな時間に何処へ行く気、っ!?もしかしなくても、キュー先生の監禁場所か!!?)
だとすれば千載一遇のチャンスだ。子供一人で敵の本拠地へ乗り込むのは危険極まりないが、応援を呼ぼうにも生憎手段が無い。こんな事なら携帯電話を買っておけば良かった、と一人で一頻り後悔した。




