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48章 協力者―――六百七十五年・十月五日(四)



 映像を所々早送りしつつ、観賞する事三時間。リモコン片手に背伸びをする僕の隣で、ジョウンさんは見事に熟睡している。揺すって起こそうとすると、理不尽にも右フックが飛んで来た。辛うじて避ける。

「危ないですよ!」

「んぁ……あ、ごめんごめん。俺、いっつもこの時間は昼寝してるからさ……ふぁ~!」大欠伸。「えっと、今何時?―――あ、もう三時半か。そろそろ帰りの船に乗せなきゃな。質問は歩きながらで。ほら、行こう」

 『資料の放置厳禁!』の張り紙を完全無視し、観たばかりのテープをソファへ放り出す。そのまま廊下へ出、ロビーから屋外へ。閉鎖空間の“赤の星”では決して吹かない、少し冷たい秋風が頬を撫でた。

「エルシェンカさんは今と変わりませんね。ジョウンさんは小さかったのに」

「あいつは純血聖族とかでぜんっぜん年取らないからな。それに比べて俺は可愛かったろー!本当は魔術でナイスミドルの超絶イケメンに変身していたんだが、どうも機械に通すと素が映っちまうらしくてな。まぁそこだけ気を付けてれば問題無いんだけど」

 成程、だから少年『紳士』と呼ばれていたのか。

「で、どうだった『Dr.スカーレット』は?怖かったか?」

「ええ。確かに凄みのある女性ですね」

 画面に映る度、細い全身から放たれる迫力に圧倒された。あの感情は、恐怖……なのだろうか?でも、

(あの人が言っていた『子供達』……それが『呪われた子供達』を指すなら、学園に彼女の血を引く者が?)

「あの、ジョウンさん。『Dr』に子供は?」

「お、早速良い着眼点。けど残念。奴に娘と呼べる人間はいない」

「確かなんですか?」

「少なくとも戸籍上は、な」意味ありげに囁く。「エルに訊いても、記録が全ての一点張りだ」

 組んだ両手を後頭部にやる。

「キュー先生は彼女の姪、なんですよね?そして、アンダースン御夫妻の子供ではない。本当の御両親の事は何も覚えていないようでした」

「彼女の母親は『Dr』の妹、ルーシー・レイテッド。父親はバートン。二人は奴の開発した悪夢の病原菌、『スカーレット・ロンド』に感染して命を落とした」

「殺されたって事ですか!?実の妹を、何故……!?」

「さあね。けど奴は肉親以外にも、実に二百人近い人間を手前で開発した様々なウイルスで殺した。その結果裁判に掛けられる羽目になり、懲役五百年の判決を貰った。まあ、実際は一生研究設備の整った刑務所に置いてやるから、手前でワクチンを開発しろって処置だったんだが」

 溜息。

「どうも事件記録を見た限りじゃ、レイテッド先生は両親の殺害現場で保護されたらしい。恐らく見ちまったんだろうなぁ、可哀相に……」

「でも、それはおかしいです。先生は事件の記憶だけでなく、アンダースンさん達に引き取られる以前の十年間の全てを忘れていました」

「ああ、それも記録にあったよ。惨殺体を目撃し精神の崩壊しかけた彼女の記憶を保護者の、ルナ・アンダースンだったかな?彼女が夢療法で以って封印したんだ。当の本人でさえ簡単には開けられないように……」

「封印?」

「本来なら当人の許可無しにんな事やっちゃいかんのだが、とにかく異例の措置だったみたいだぜ。承諾書にエルのサインがあった。ところで夢療法士って知ってる?」

「いいえ。でも……厭な記憶が封じられていたのに、本人は凄く辛そうでした。治療は本当に成功したんでしょうか?」

 仮令他人には分からなくても、彼女にとってそこにはとても大事な記憶が埋もれていた。あの苦しみ方を見ていると、そんな気がしてならない。

「俺も同意見だ。幾ら拙い記憶があるからって、全消しはやり過ぎだ。しかも成人になっても未だに戻してない。怪しい事この上無いな」

「そう言う場合、普通はどのような治療を行うのですか?」

「夢療法の症例集を読む限り、トラウマ自体を無意識の底へ沈める処置はちょいちょいするみたいだな。ただ本人の回復具合を鑑みて、大抵は徐々に復帰させる。一生封印は殆ど無い。まして十五年もの長期間はな」

「ならどうして?」

 すると彼は頭を横に振り、やっぱりハイネ君をスカウトして正解だったな、と呟いた。

「?」

「頭の回転も早いし、何より先生を助けたいって強い意志がある。君ならエル達が隠した真実へも辿り着けるかもしれない」

 そう言うと突然手を差し出し、深く頷いた。


「―――アンダースン先生殺害事件の裏には、奴等の隠したいとんでもなく大きな秘密がある。俺からの情報提供は惜しまない。だから協力して、一緒にレイテッド先生を救出しよう」

「ええ。こちらこそ宜しくお願いします!」


 自信と決意に満ちたにやけ顔に、この人は味方だ、本能的信頼感からしっかりと握り返した。





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