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前編 昭和の怖い話

 これは俺のおじさんが体験した怖い話です。


 ある日、中学生の俺はおじさんの家にいました。

 夜、一緒に心霊番組を見た後、俺は聞きます。


「おじさんが小学生の時は昭和だよね?」

「うんそうだよ」

「じゃあ、口裂け女や人面犬が周りにいたの?」


 おじさんは、はははと笑って大きなお腹がゆれます。


「別に僕の周りにいなかったよ。テレビや雑誌には載っていたけどね」


 俺は少しがっかりしました。


「じゃあ怖い話は体験していないんだ」

「……いや、僕は1回だけ怖くて不気味な体験をした。話そうか?」

「それって人が死ぬ話?」

「そこまで恐い話じゃないよ」

「なら話してほしい」

「わかった」


 そして、おじさんは語り始めた。


 ◇◇◇


 僕が小学6年生の時の話だ。

 街はずれにさびれた神社があった。

 鳥居があり、奥には小さなやしろがあった。

 神社の周りはたくさんの木で囲まれていて、鳥居からしか入ることができない。中に街灯の光も入ってこない。

 だから夜に行くのはやめたほうが良いと思った。


 ある日の小学校の教室。

 同級生のケンジ君が友人たちの前でぎゃあぎゃあと騒いでいる。


「マジだって! あの神社やべよ。白い女の幽霊出るって!」


 僕は気になったので近づいて話を聞く。


「近所の男子高生達が話していたけど、あの神社は夜中に白装束の女が出る。その白い女は地面にかがんで何かやってるんだよ」

 ケンジ君は話を続ける。

「で、高校生がその白い女に声かけようとしたら、消えたんだ! 幽霊だよ幽霊、怖ええ」


 僕は騒いでいるケンジ君に言う。

「幽霊なんているわけねえだろ」

 ケンジ君は僕をにらみつける。

「じゃあなんで女は消えたんだ?」

「夜だから見失っただけだ」

「いいや消えた、幽霊だ」

「幽霊なんていねえ、幽霊じゃなくて変な女だ」


 ケンジ君は僕を見てにやにやと笑う。

「ははーん、さては怖いんだな。怖いから幽霊を信じないんだ」


 ケンジ君は挑発してきたので僕はムッとする。

「怖くねえよ、いねえから」

「怖くないなら、俺と夜中に神社行けるか?」


 その挑発に僕はたじろぐ。

「……うっ、行けるぞ。幽霊なんていないから」

「じゃあ、打ち合わせしようぜ」

 ケンジ君がそう言ったので僕らは2人で話し合うことにした。


 打ち合わせの結果、決行は今夜11時になった。

 両親が寝静まった後に、僕とケンジ君はこっそり家を出て神社に行く。

 そこに白装束の女がいれば声をかける。


「それで白い女が消えなければ幽霊じゃねえってことだな?」と僕はケンジ君に確認する。

「でも、その日は消えない気分かもしれない。だから幽霊じゃない証明にならないぞ」


 ケンジ君にそう言われた僕は考える。

 幽霊じゃない証明方法を。

 幽霊と人間を分けるもの、幽霊はさわることができない。


「僕がこけたふりをして白い女にさわる。さわることができればそれは幽霊ではない」

「なるほど」ケンジ君は納得したようだ。


「さわることができたら僕はその女に謝る。その後全力で逃げるぞ、ケンジ君。ヤバい人からはすぐに逃げたほうが良い」

「わかった」

「あと、神社に行くのは今日だけだ、白い女がいなければそれまでだ。親にバレずに外に出るのは大変だからな」

「オッケー、今日だけだな」


 打ち合わせは終わり、僕らは家に帰った。

 

 そして夜の11時になった。

 寝ている両親を起こさないように、僕は家の外に出る。

 外に出るとケンジ君が待っていた。


「僕が出てこなかったら、明日の学校で僕がチキン野郎だと言いふらす気だったのか?」

「当たり前だ、あたり前田のクラッカー」

「……」


 僕とケンジ君は歩く。

 幅が広く長い道を歩くと、左手に廃屋、右手に木々に囲まれた神社が現れる。

 2人で鳥居をくぐる。

 街灯の光は届かず、月明かりが照らすのみ。

 何もなければいいな、と思いながら奥に行く。


「……」


 ……いた。

 白装束を着た髪の長い女がいる。

 地面に両膝をつけて、素手で地面を掘っている。

 うつむいていて顔は見えない。

 こ、怖い。


 隣を見ると、ケンジ君もびびっている。

 でもこのまま逃げると、チキン野郎だと言われてしまうから計画通り声をかけてみる。

「あ、あの、こんばんは」


 女は顔を上げる。

 その顔は生気を感じさせない不気味な顔だ。肌が異常に白い。

 女は無言なので僕は聞く。


「あの……何しているんですか?」

 白い女は口を少し開いた。

「……がないの」

「えっ? なんて言いました?」

「私のくしがないの」

「あっ……大変、ですね」


 怖いよこの女。

 夜じゃなくて昼に探せよ。

 くしとか新しく買えよ。

 あと素手で地面掘らずにスコップ使えよ。

 なんてツッコミを僕は入れない。


 僕はケンジ君を見る。


「くしがあるかもしれないから……ちょっとまわり見てみようか?」

「う、うん」

 2人で周りを見るがそれらしいものは無い。


 期待を込めて、白い女から視線を外す。

 そして、しばらくしてから白い女を見るが消えない。 


 女は消えない。

 消えねえじゃねえか。

 今日は消える気分じゃないかもしれない。


 消えないので計画は次の段階へ行く。

「そこらへんに……あるかな?」

 そんなことを言って僕は白い女に少しずつ近づく。


 白い女は素手で地面を掘っている。

 そして、僕がある程度近づいたとき、こけたふりをして右手を伸ばす――しゃがんでいる白い女の左肩を白装束の上からふれる。

 ――そこにはたしかに肉体の感触があった。

 白い女は幽霊ではない。


 肩をさわられた白い女は無言で僕をにらみつける。

「ご、ごめんなさい!」

 僕は謝罪して後ずさる。

「おい、行くぞ」

 とケンジ君に声をかけて、2人で逃げ出した。

 

 2人で走って鳥居を通る。

 その後、左に曲がって来た道を走っていく。


 しばらく走っていると、後ろを走っているケンジ君が声をかけてくる。

「大丈夫だ、白い女は追ってこない。歩こう」


 僕は後ろを確認する。

 後ろにはケンジ君以外いない。

 あそこは木々が密集しているから鳥居から出るしかない。


 僕は走りをやめて歩くことにする。

 そして後ろを歩くケンジ君に声をかける。


「僕は白い女にさわったぞ。あれは幽霊じゃない」

「ああ、そうだな」そう答えるケンジ君は残念がっている。


「……」

 ここまでならただの変な話だ。

 だが、この後に不気味なことが起きた。

 

 僕たちがしばらく歩いたら十字路がある。

 左から、黒いセーラー服を着た女子高生が出てきた。


 彼女は十字路を右に曲がり、僕らのほうに向かって歩いてくる。

 僕は一瞬身構えて女子高生の顔をじっと見る。


 ……大丈夫だ、顔が違う。

 神社で会った白い女とは別人だ。

 僕は安心する。

 こんな夜中に女子高生が歩いていることは不気味だが、僕らも似たようなものだ。

 このまま歩いてすれ違えばいい。


 ところが突然、その女子高生がひざから地面に倒れこむ。

 左手で頭を抱えて、はあはあ息を切らしている。

 なんだ、病気か?


「えっ? 何?」ケンジ君は困惑の声を上げる。

「あ、あの、大丈夫ですか……?」

 僕は心配して彼女に声をかける。


 すると彼女は右手で僕たちの遥か後ろにある神社を指した。

(なんで神社を指さすんだ?)

 そして僕をにらみつけてこう言った。

「さっき神社で私の肩にさわったよね、痛かったわ……」


 な、なんでだ!?

 この女子高生は白い女ではない!

 なら、なぜ神社で起きたことを知っている!

 まさか!

 白い女の生霊が女子高生に憑依ひょういして意識を乗っ取ったのか!?

 怖い!


「う、うわああああ!!」


 僕とケンジ君は叫び声をあげる。

 そして2人で走り出す。

 女子高生の隣を走り抜ける。

 遠く遠くへと逃げて行った。



 ◇◇◇

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