表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
その爵位、剥奪する。~無能と蔑まれて追放された荷物持ち、実はお忍びで巡察中の最強皇太子でした~  作者: Pemo


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
10/10

10_貴様の爵位を剥奪する

巨大な吸血鬼となったヴィクトールの声が、地下祭祀場を震わせた。


全身から噴き出す《邪神の残光》が、黒い炎となって天井を焼く。


その巨体が一歩進んだ。


だが、白金の鎧をまとったテオドリックを正面に捉えた瞬間、ヴィクトールの足が止まる。


巨大な爪が、わずかに震えていた。


取り込んだ《邪神の残光》そのものが、《白金皇装》を恐れている。


ヴィクトールは無意識に半歩退いた。


やがて、その事実を打ち消すようにテオドリックを睨みつける。


赤い瞳が、白金の鎧の内側を探った。


「何を恐れたかと思えば……」


ヴィクトールの口元へ、笑みが戻る。


「貴様の魔力と闘気は、まだ別々に流れている。強大ではあっても、一つの力として完成しておらぬ」


テオドリックは答えなかった。


「なるほど。皇装に選ばれたことだけは認めよう」


巨大な吸血鬼が、牙を剥き出しにする。


「だが、貴様は皇装に着られているだけの赤子だ」


ヴィクトールが片腕を振るった。


五本の爪から放たれた黒い斬撃が、祭祀場を横切る。


テオドリックの片手剣が閃いた。


一度。


二度。


三度。


迫っていた斬撃が、触れるより早く切り裂かれて消える。


ヴィクトールが床へ腕を突き立てた。


黒い血が石の隙間へ流れ込む。


倒れていた眷属たちの身体が、一斉に痙攣した。


砕けた骨が戻り、切断された手足がつながっていく。


さらに、柱の陰や崩れた壁の奥から、新たな眷属が姿を現した。


赤い目を光らせ、祭壇の支配から解放された民へ殺到する。


「ケルベール!」


「御意!」


ケルベールが人々の前へ立った。


白金のカイトシールドを石床へ打ちつける。


何体もの眷属が同時に飛びかかったが、巨大な盾はわずかにも動かなかった。


右手一本で振るわれた大剣が、盾の左右から迫る眷属をまとめて薙ぎ払う。


「ここは通さん」


短い言葉とともに、ケルベールは一歩も退かず、人々を背に守った。


ニーナも、別方向から押し寄せる眷属へ直剣を向ける。


剣先から魔力が連射され、祭祀場へ白い光の弾幕が広がった。


眷属の肩を撃ち抜く。


脚を撃ち抜く。


人質へ届く寸前の爪だけを、正確に弾き飛ばす。


だが、倒しても眷属は再び立ち上がる。


ヴィクトールの血がある限り、何度でも身体をつなぎ直していた。


ケルベールとニーナは、押し寄せる眷属を二人だけで食い止めている。


テオドリックのもとへ援護に回る余力はない。


巨大なヴィクトールが、両腕を広げた。


「近衛を民の守りへ割いたか。実に皇太子らしい選択だ」


無数の黒い槍が、ヴィクトールの背後へ現れる。


「そして、実に愚かだ」


槍が一斉に放たれた。


テオドリックは正面から剣を振るう。


最初の一閃で、前方の槍がまとめて断たれた。


身体を半歩ずらし、左右から迫る二本をかわす。


最後の一本を剣の腹で弾き返すと、それはヴィクトールの肩へ深く突き刺さった。


巨大な肩が吹き飛ぶ。


しかし、傷口から黒い血が盛り上がり、失われた肉を瞬く間に作り直した。


「無駄だ」


ヴィクトールが笑う。


「いまの私は、邪神の残光すべてを取り込んだ。斬ろうが、砕こうが、何度でも再生する」


ニーナは眷属を撃ちながら、ヴィクトールへ視線を向けていた。


安定した両眼の聖痕が、巨体を巡る魔力の流れを追う。


再生するたび、黒い力が身体のどこかへ集まり、再び全身へ送り出されている。


その起点がある。


だが、《邪神の残光》が幾重にも重なり、正確な位置を隠していた。


「私に刃を向けた人間は、貴様が初めてではない」


ヴィクトールは、テオドリックへ黒い炎を放つ。


炎は剣に断たれ、左右の石壁を焼いた。


「数え切れぬほどの騎士が、英雄が、私を倒そうとした。全員、私の血となった」


ヴィクトールは楽しそうに語り続ける。


「貴様が救ったつもりの見習いどもも、ほんの一部にすぎぬ。すでに多くを実験へ使った。聖痕に適合しなかった者がどうなったか、知りたいか?」


テオドリックは、何も答えなかった。


「飢えた村から奪った金も役に立った。民は自分の畑と家畜を差し出しながら、それが邪神を迎える儀式へ使われるとは思いもしなかっただろう」


ヴィクトールの笑い声が大きくなる。


「墓に眠っていた者たちも同じだ。死んだ後まで兵として働けたのだ。むしろ感謝してもらいたいものだな」


テオドリックの剣先が、静かに下がった。


ヴィクトールは、それを怯えと受け取った。


「貴様の臣民は、実によく働いたぞ。奴隷は実験材料に、飢えた村は財布に、墓の死者は兵にした。死んだ数など、いちいち覚えておらぬ」


テオドリックは顔を上げた。


翡翠色の瞳が、ヴィクトールを見据える。


怒鳴り声は上げなかった。


表情も大きく変わらない。


それでも祭祀場から、音が消えたように感じられた。


「いま、貴様は――余の臣民に何をしたと、言った?」


低い声だった。


ヴィクトールの笑いが止まる。


テオドリックは片手剣を鞘へ収めた。


そして、ヴィクトールへ向かって歩き始める。


「人の世では侯爵。悪魔の世では伯爵、か」


「そうだ」


ヴィクトールが巨大な胸を張った。


「人の皇子が、いずれの地位も持たぬ私をどう裁く。貴様の権限が届くのは、脆弱な人間どもの国だけだ」


テオドリックは歩みを止めない。


「……頭が高いぞ」


ヴィクトールの顔から笑みが消えた。


「何?」


「余の臣民を踏みつけ、その命を玩具にしながら、二つの爵位を誇った」


白金の鎧へ、テオドリックの怒りが伝わっていく。


「聞いたか、《皇装》」


詠唱ではない。


再び皇装を発動するための命令でもない。


テオドリックは、意思を持つ白金の鎧へ呼びかけていた。


一拍の静寂。


次の瞬間、白金の鎧が答えるように鳴った。


テオドリックの内側を、それまで別々に流れていた二つの力がある。


研ぎ澄まされた魔力。


鍛え上げられた闘気。


二つの流れが白金の鎧を巡り、初めて一つに重なった。


これまで一瞬だけ現れては消えていた白金の光が、今度は消えなかった。


白金のオーラが、テオドリックの全身から立ち上る。


その中で黄金の火花が散った。


青白い稲妻が時折走り、足元の石床へ細い亀裂を刻む。


魔力と闘気が一体となった、《聖皇気》。


ヴィクトールの赤い瞳が大きく見開かれた。


「その力は……まさか、完成したというのか!」


黒い炎が放たれる。


テオドリックは剣へ手をかけなかった。


炎が白金のオーラへ触れた瞬間、正面から弾け飛ぶ。


ヴィクトールが黒い槍を生み出す。


数十本。


数百本。


祭祀場を覆い尽くすほどの槍が、あらゆる方向からテオドリックへ殺到する。


一本も届かなかった。


白金のオーラへ触れた槍が、すべて粉々に砕け散る。


「来るな!」


ヴィクトールが巨大な爪を振り下ろした。


爪はテオドリックの頭上で止まった。


見えない壁へ叩きつけたように弾かれ、ヴィクトールの指が逆方向へ折れ曲がる。


「来るな! 人間が、悪魔界の伯爵へ近づくな!」


ヴィクトールは必死に攻撃を繰り返す。


炎も、槍も、爪も、血から作られた刃も。


すべてが白金のオーラに弾かれた。


テオドリックは一度も歩みを止めない。


いつの間にか、その足元から一筋の光が伸びていた。


光はヴィクトールまで続く道となる。


その左右に、淡い人影が現れた。


白金の鎧をまとった、歴代の皇装使用者。


彼らに付き従った、二人の従者たち。


墓域で支配から解放された英霊ではない。


《白金皇装》そのものに刻まれた、かつての主と近衛たちの残影だった。


残影は攻撃しない。


一人、また一人と、剣を顔の前へ捧げる。


テオドリックが進む光の道を挟み、静かに整列していく。


ヴィクトールは、自分へ近づく皇統の列を前に後ずさった。


「あり得ぬ……私は不死だ! 核がある限り、何度でも再生する!」


「殿下!」


眷属を撃ち抜きながら、ニーナが叫んだ。


彼女の両眼は、ヴィクトールの再生に使われる力を捉えている。


散らされていた黒い流れが、一点へ集まった。


「見つけました!」


ニーナが直剣の切っ先で、ヴィクトールの胸を示す。


「胸の中央です! 残光の奥に、再生を支える黒い核があります!」


ヴィクトールが両腕で胸を隠した。


だが、もう遅い。


テオドリックは歩みを止めなかった。


光の道の左右で、歴代の残影が剣を捧げている。


白金のオーラが、鞘に収めた片手剣へ集まった。


ヴィクトールが最後の咆哮を上げる。


残光のすべてが、胸の前へ巨大な壁を作る。


テオドリックが剣を抜いた。


一筋の白金の光が、祭祀場を横切る。


残光の壁が裂けた。


胸を守っていた両腕が断たれた。


その奥に隠されていた黒い再生核ごと、ヴィクトールの巨体が一刀両断される。


巨大な身体が、左右へ分かれた。


ヴィクトールは人の姿へ戻らない。


胸の中央から灰へ変わり、その巨体が少しずつ風に散り始める。


赤い瞳だけが、信じられないものを見るようにテオドリックを見つめていた。


まだ、言葉は届く。


奴隷売買の記録。


違法徴税による送金。


教団運営と人工聖痕実験の自白。


血印で封じられた命令書。


そして、いま目の前で行われた邪神復活の儀式。


証拠も、命令系統も、ヴィクトール本人の責任も、すべてそろっている。


テオドリックは、灰になって消えゆく《悪魔伯爵》へ最後の宣告を下した。


「ヴィクトール・ノクス。皇帝陛下より預かりし巡察大権に基づき――貴様の爵位を剥奪する」


ーーーーFin?


お読みいただきありがとうございます。

全10話予定のテンプレもりもり実験作です。面白いと思っていただいたらブックマークよろしくお願いします。いっぱいいただけると続編出すかも?

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ