絆はいつでも手のひらサイズで(2)
その日の夜、騎士団長さんは父さんや母さんと話があるとのことで、母屋に缶詰になっていた。
そのため、離れには僕たち子供たちの時間が流れていた。
僕はファーミーコングと白いキューブを並べる。
常日頃の農作業で関節部分には細かい泥や小石が入り込んでいる。普通ならブラシや専用の薬剤で丁寧にメンテナンスするところだが、僕の場合は少し違う。
『錬成開始』
コングは白いキューブに吸い込まれ、カシャンカシャンとキューブの面が動き始め、数秒ほど回転したキューブからペッ!と、パーツが吐き出される。
あとは僕が慣れた手つきで組み立てれば、なんと言うことでしょう!土だらけだったコングが新品同様に生まれ変わったではありませんか!
「へぇぇ…見事な手際ですわ…」
コタツの斜め前からルネッタ王女が僕の作業に釘付けになっている。
「錬金術で作り直していますの?」
「えぇ。普通にバラして掃除するより早くて楽ですからね」
すっかり元気になった彼女は離れの敷地内から出ないことを約束に、離れで自由に過ごしていいことになったのだ。
ちなみにイリスは相変わらず鼻息を鳴らしながら漫画を読み、アルフ兄はイリスが読み終わった後の漫画を読みながらコチラを時々『観察』している。
キッド兄とソラ姉はコタツの外ではあるが、2人でトランプをして楽しんでいる。
「ホワイトソルジャー様とファーミーコング様…本当に不思議な何かを感じますわ…。
定義上、命はないゴーレムに近しいはずなのに、確かな意思と温かみを感じますの。」
「えぇ。 ロボットとはロマンの塊ですから。」
「触らせていただいても?」
「いいですよ」
頬を赤らめながら、指先でツンツンしたり、遠慮がちに頭を撫でたりする。
長年ベッドから動けなかった彼女にとって、この村の全てが、そして僕の生み出した物がこれまで王宮で見たものより輝いて見えるのだろう。
「クロスエイド様」
「はい?」
「少しだけ……視させていただいてもよろしいでしょうか」
僕が言葉の意味を理解する間もなく、彼女の片目が魔力の光を帯びた。
「…異世界…人…?」
僕の魂の奥深くを何かが通った感覚と共に、ルネッタ王女…いや、ルネッタの口からボソッと単語がこぼれた。
カラン…!
僕の手からコングの鍬が滑り落ち、テーブルにぶつかる。
ドクンッ!!
心臓の音が跳ね上がる。 全身が強張り、冷や汗がドッと吹き出す。
バレた。
家族ですら、アルフ兄と母さんしか知らない僕の秘密が。
僕の…いや、俺の目が鋭くなり、無意識のうちに目の前の少女を敵対認定しようとしたその時。
パタンっ
「イリス」
読みかけの本を閉じたアルフ兄が短く呼び、声圧を感じて顔を上げたイリスに目と顎でクイっと合図を送る。
「やれやれ、今日は我の出番が少し多いであるな」
ため息の後に、コタツで死角になっている方からパチンッと指を鳴らす。
微かな音と共に、コタツの周りを囲う半透明の結界が覆った。
「これでそっちの2人には聞こえぬである」
「ありがと」
アルフ兄はルネッタをジィッと見つめた後、肩の力を抜く。
「クロス、大丈夫だよ。 彼女に悪意はない、ただの知的好奇心だよ」
アルフ兄は静かに、それでいて僕に安心させる優しい目を向ける。
目の前の少女はアルフ兄の発言から、ハッとして自分の口を覆い、こたつから飛び出て立ち上がり、深く頭を下げた。
「ご、ごめんなさい! わたくし、小さいころから強い興味や疑念を抱くと抑えられなくなり、わたくしのスキルである『魔眼』を発動してしまって…
決して貴方様の秘密を暴いたりするつもりはなかったんですの…!」
震える声で必死に謝る彼女の姿に、俺は静かに口を開く。
「視えたなら隠す必要もないね」
「…」
「そうだよ、俺は別の世界で生きていた前世の記憶を持ってる。
今となっては過ぎた過去だけど、ベッドの上で大量の管に繋がれた元人間不信だよ。」
「その…実はわたくしも、病と王家の生まれ、そしてなんでも奥底まで見てしまうこの魔眼のせいで…表向きでは哀れまれながらも、心の奥底では『いつ死ぬのか』『どう政治利用できるか』などと打算の目で見られる毎日で…周りの偽りの笑顔から目を逸らしていないと全て黒く映るばかりで…人間の温かさなんて、ずっと感じられませんでしたの。」
彼女の瞳からポロリと涙がこぼれ落ちる。
「あなたと初めてお会いした時、衝撃を受けましたの。
今まで暗い灰色だったわたくしの世界に差し込んだ優しくて暖かくて、鮮やかな光が、わたくしの闇を照らしてくれた。
わたくしを救ってくれた光をもっと見たい、知りたいって…こんな思い、久しぶりで…嬉しくって…」
言葉が詰まって途切れ途切れになる。
そんな彼女を警戒する気など、どうでも良くなっていた。
「俺も、社会から切り離されて、自分の無力さも周りの幸せも…全てを恨んでた。」
慰めでも偽善でもない。 奥底から湧き上がる想いをそっと言葉に乗せて渡した。
「でも俺は…僕はこの村に生まれて、この家族に出会って、村のみんなと同じ釜の飯を食べて、やっと知れたんです。
何の打算もない本当の温かさに。 いつしか誰かの幸せのために頑張ってる自分に。」
「…はい。 わたくしも、今日この村に訪れて、あなたが淹れてくれたお茶を飲んで、救われましたの」
「お茶に関しては事故だけどね…」
似たような孤独と人間不信の過去を共有したことで、『ベジッタ村の温かさ』に触れて救われた者同士、固い何かが結ばれた気がした。
「うぅぅ……主よぉぉ……そんな悲しい過去があったのであるかぁぁ……!!」
「うわっ!? イリス、泣いてたの!?」
コタツの向こうから聞こえる声が、湿っぽい雰囲気を少し和らげ、僕たちは自然と吹き出して笑っていた。
「そうだ、君の魔眼でこれも見れたりする?」
「これは先ほどファーミーコング様を再錬成していた不思議な箱…」
「錬金術をサポートしてくれてる不思議な箱なんだけど、まだ分からないことが多いんだ。 お願いできるかな?」
「やってみます。」
ルネッタが瞬きをし、再び魔眼を発動させる。
数秒後、彼女の目が大きく見開かれた。
「……白い、お部屋が見えます。お薬の匂いがする、殺風景なお部屋。……そこに、小さな女の子が微笑んでいます。」
「えっ…」
前世の…病室…小さな女の子って…
「わたくしに…? あっ、ちょっと!」
「どうしたの?」
「魔眼の効果が切れました。わたくしに一言だけおっしゃったすぐ後に。」
「…何て言ってたか聞いてもいいかな」
「『お兄ちゃんをお願いね』」
「!」
僕の胸の奥が熱くなる。
アドバイスをしてくれる時に聞こえるあの声、あれがどうして僕にだけ聞こえ、どうして僕には理解できたのか…
それはただの道具じゃなかったから。
このキューブは、冷めきった前世の俺の心に初めて温かいものをくれたあの子からの贈り物。
どういう原理かまでは分からなかったけど、近くで僕と世界を繋いで支えてくれているんだ。
「ありがとう…」
キィィィィン……!!
『…~~~~…』
『…~~~~…』
『…~~~~…』
その時、白いキューブからいつもの声が響いた。
今までとはどこか違う、背中を押してくれている優しく、やる気に満ちた声だった。
米の時は聞き取れなかった僕でも、『あの形』なら3つ同時でも受け取ることができた。
「イリス」
「うぅぅ…我はこれからも主を守るであるぞ…」
「そうじゃなくて、結界を解いて。 みんなの力が必要だ。」
「よしきたである!」
結界がスッと消える間に僕はクロスエイドとしての顔に戻る。
「ソラ姉、キッド兄 手を貸してください」
「なになに~?」
「なんかおもしろいことでも始めんのか?」
僕の呼びかけにトランプカードを投げ出し、集まってくる。
ルネッタ、アルフ兄、ソラ姉、キッド兄、イリス、そして僕。
全員の手をキューブの周りにかざしてもらい、そこに僕の魔力をありったけ注ぎ込む。
「いきます。 錬成開始!」




