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第六十九章 童僕

メロウの死はオリオンマンに致命的ダメージを与えた。土砂降りの中、傘も差さずメロウを見ていた。見る以外に行動が思い付かない。


「メロウ…………」


やっと………やっと足並みを揃えられたばかりだというのに。


「誰がこんな事を……!」


よもや自殺ではないだろう。誰かが悪意を持ってメロウを殺したのだ。


「博士だよ」


ふと、声がした。


「お前は………二ノ宮!」


一つの傘を差し、ロザリアと二人でいた。


「嫌な気配がしたと思ってはいたが………まさかガーディアンが殺されるとは」


「…………今、博士だと言ったか?」


「ああ。言った」


「ガーディアン・ガールの創造主。そいつがなぜメロウを………殺さねばならんのだ」


「博士は世界を崩壊させて、新たな理想郷を創るつもりなんだ」


「それとメロウと………何の関係がある」


怒りと悲しみを堪える。


「メロウはひょっとして記憶があったんじゃないか?違うか?」


「………ああ、博士の顔だけは覚えてなかったみたいだが………それ以外は記憶が残っていると言っていた」


「なら理由はそれだ。博士が一番恐れているのはガーディアンに記憶が蘇る事だ」


「都合が悪いと言う事か?」


「おそらく………な」


「だがメロウに記憶が残っているなど知るわけがないだろう?知っていればガーディアン・ガールとして私の元に送り込まずにもっと早く殺したはずだ」


「そこまでは知らんよ。だがレプリカガールといい、博士が本気で動き出してるのは間違いない」


オリオンマンはしゃがみ込み、メロウに上着を脱いで掛けてやった。無惨な姿を晒したくなかった。


「オリオンマン、俺から眠れる獅子という組織に連絡をしておく。そこなら何事もなかったように対処してくれるだろう。お前の事もな」


二ノ宮はロザリアの手を取る。万が一にもメロウのようにはさせたくないからだ。


「ガーディアン・ガールを失った以上、お前はこの戦いには無関係だ。おとなしく故郷へ帰れ。それがお前の為だ」


二ノ宮にそう言われたが、


「待て。お前はなぜそこまで事情に詳しい?」


反論した。


「…………聞こえなかったのか?お前はもう選定の儀とは関係がない。首を突っ込むな」


答える事なく、二ノ宮とロザリアは消えた。


「何事もなく………か」


初めて………オリオンマンはメロウの手を握った。これから運命を共にするはずだったパートナーへの別れを惜しむように。


「メロウ…………お前は何の為に生まれて来たんだ………」










眠れる獅子の一室。真音は石田から報告を受け言葉を失った。


「そんな…………ジルが………?」


「意識不明の状態だ。犯人は多分、彼女のガーディアン。ダージリンだ」


明確な証拠は無いが、状況を聞く限りはガーディアンであるダージリンとしか考えられない。事実、ダージリンは行方がわからない。


「ダージリンがそんな事するわけないじゃない!あんなにジルを慕ってたのに!」


ユキはダージリンを庇う。気持ちは石田も一緒だ。ダージリンはジルに懐いていた。信じられない。


「だがダージリンは行方不明だ。それにジルの屋敷には何十人と使用人がいる。それらが全員殺されたんだ」


「だからって!ダージリンがやったとは限らないわ!」


「ユキ、俺の言いたい事はわかるはずだ。俺達は非日常の世界にいる。推測される事はほとんど間違いないんだ」


「気安く呼ばないで!」


ユキは石田が嫌いだ。名前を呼ばれるだけでも悪寒が走る。


「石田さん、フランスの警察は動いてるんですか?」


「ああ。残念だがフランスに眠れる獅子の支部はないからな。俺達は介入出来ない状態だ。ただ、ダージリンの存在は知られてない。彼女は既に眠れる獅子で捜索してるよ」


石田は真音を安心させるように言った。それが安心に繋がるかは問題ではなく、穏やかな会話で少しでも不安を取り除いてやりたいからだ。


「そうですか」


「それと………もう一つ最悪な報告がある」


真音とユキは黙り込んだ。


「第5選定者のオリオンマン、彼のガーディアンが死んだ」


不安を取り除いてやったのには、ショックを少しでも和らげたい気持ちがあった。


「メロウが………?」


ユキは信じられないといった表情を見せた。


「誰に殺られたんですか!?」


真音が責っ付いた。


「わからない」


「わからないって………」


「上からの連絡で昨夜遺体を回収して来た。オリオンマンはホテルで待機してもらってる。とにかく、オリオンマンも何も語らない状態でね、上からも指示がないままなんだ。オリオンマンには見張りを付けてるが…………かなり落ち込んでいた。あれでは見張らなくてもどこにも行かないだろうな」


「本当に何もわからないんですか?」


「本当に………何もわからないんだ」


石田が真音とユキに状況を逐一報告するのは、二人を組織から守る為。ジルもトーマスもいない今、守ってやらねばと使命感がある。


「何もわからない情報をよく伝えられるわね。あんた情報収集が仕事とか言ってなかった?呆れるわ」


「すまない」


ユキの口撃にも耐える。そこへ石田を救うべく冴子がやって来た。


「そのくらいにしてあげて」


「本部長……」


「彼は一生懸命やってるわ」


真音とユキの気持ちは考慮してるが、あまり好き勝手言われるのは面白くない。自分事じゃなくても。


「誰………ですか?」


真音は面識のない冴子を前におとなしくなった。女でありながら、威圧感に近い何かを感じるからだ。それは単に人の上に立つ者特有の雰囲気なのだろうが、社会経験のない真音には威圧感に感じるのだ。


「はじめましてね。私は眠れる獅子の本部長、中川冴子。普段の指揮は私がとってるわ」


キツイ口調ではあるが、反対に綺麗な声をしている。


「本部長………どうかしたんですか?」


最初は女性が指揮?とも思った真音だが、石田が敬語を使うのを見て嘘でない事は確認した。


「たった今、上からの連絡でレジスタンスのアジトがわかったようよ」


「レジスタンスの?」


石田は相槌を打ったが、内心はタイミングが良すぎると思っていた。


「ええ。それで、あなた達に紹介したい人がいるの」


冴子が言うと、廊下から身長の高い男と銀色の髪をした少女が入って来た。


「お前………!」


「よう」


驚く石田に男はウインクで挨拶した。


「二ノ宮さん!」


「ロザリア!」


真音とユキが二人の正体を告げた。


「第6選定者の二ノ宮誠一さんとガーディアンのロザリアちゃんよ」


それでも一応冴子が紹介する。


「なんでお前が………!」


石田は今にも掴みかかりそうな勢いだが、二ノ宮は気にする風でもなく、


「決まってる。時が来たんだよ」


「時だと?」


「そうだ。レジスタンスと決着を着ける時だ」


石田に言い切った。


「バカな………アジトがわかったからと言って奴らは軍隊と同じだ、簡単に言うな。乗り込めば戦争になるぞ」


「ならんさ。レジスタンスには俺とロザリア、真音とユキが行く」


承諾も得ずに、もう決めているようだった。


「行くだろ?」


二ノ宮は真音とユキを見て問う。しかし石田がそうさせない。


「ふざけるな!いかに選定者とガーディアンと言え、ディボルトすればたった二人。無理だ!」


「無理でも行くしかないんだよ。行かなきゃ戦いは終わらない。どうする、真音。強制はしない。お前の意志で決めろ」


二ノ宮に言われユキと顔を合わせる。二人は想いを確認するように頷いた。


「行きます」


「如月君!」


二ノ宮が何を考えてるかわからない以上、真音を預けたくないというのが石田の本音だ。


「石田さん、レジスタンスは俺達にとって最後の敵じゃないんです。でも世界を脅かす存在ならば、ガーディアンの力を使って戦うしかないでしょう。石田さんだって俺達の力は見たはずです。信じて下さい」


「しかしだな、喧嘩をするのとはわけが違う。死ぬ事だって……」


石田が言い終える前に、


「石田、俺と真音で行けば余計な犠牲を出さずに済む。一日もあればカタが着く」


二ノ宮が口を挟み、


「それが終わればマスターブレーンのところに行く」


そう付け加えた。

それを聞いて真音達は、マスターブレーンの存在する場所を知っているのかと二ノ宮に群がる。


「博士は消さねばならない。メロウを殺したのも、ダージリンをおかしくさせてジルを殺そうとしたのも全部、博士の仕業だ。レジスタンスなど問題じゃないんだよ」


二ノ宮は説明をするが、石田には気に入らなかったようだ。


「何でも知ってるんだな。そこまで詳しいと、お前も怪しく思えて来る」


「何でも知ってるさ………怪しいくらいにな」


二ノ宮はすれ違うように石田の横に並び、


「大切なのは誰が最後に笑うかだ。泣いて終わるのだけはごめんだからな」


「お前が笑う事はない。お前が何を企もうと、絶対俺が止めてやる」


一触即発の雰囲気に真音もユキも、冴子も息を呑む。唯一ロザリアだけがキョトンとしている。


「くく。そいつは楽しみだ」


忘れてはならない。二人は追う者と追われる者。いつか決着を着けるはず。


「真音、俺達選定者は避けては通れぬ運命の中で生きている。お前も例外ではない。ディボルトした力で人を傷つける時、常に胸に刻み込め。自分は誰かの犠牲の上で生きているのだと」


意味深な言い方をし、冴子の肩を叩く。


「後はよろしく」


笑顔を見せたが、ロザリアに怒られる。


「私の前で浮気?」


なんでそうなるのかは知らないが、半分以上本気で言うのでないがしろには出来ないのが痛い。


「そんなんじゃないって」


ため息をついてロザリアと出て行った。


「ったく………ああいう言い回ししかデキネーのか」


親友だからこその皮肉。石田はどこを見るわけでもなく視線を泳がせた。


「彼があなたの友人だなんて知らなかったわ。上司の私になぜ言わなかったのかしら?」


「仕事に私情は挟まない主義でして」


「そういう問題じゃないわね。今の会話、推測に値すると思うけど?」


「………………………。」


冴子は石田から目を離さない。上司だけはある。


「言いたくないとは言わせない。でも今はレジスタンスが先ね」


冴子は真音とユキにスケジュールを伝える。たった一言。


「出発はあさって。朝一の飛行機でイギリスに飛んで」


「あの………中川さんか石田さんも同行してくれるんですよね?」


真音は言い方が気になって聞き返す。


「残念、レジスタンスに乗り込むのはあなた達と彼らだけよ」


「待ってくれ。あいつと如月君達だけで行かせるのか?」


石田がまた口を挟んだ。


「私達には別の仕事があるの」


「冗談じゃない。どんな組織かもわからないのに少年を…………本部長!」


「黙りなさい!あなたは組織の一員でしょ!眠れる獅子ここにいる限りは組織に従ってもらいます!」


こんなに強く言い聞かせる冴子は初めて見た。冴子は組織に疑問を抱いていたはずだ。

石田は何も言えなかった。言わなかったと言った方が正しいだろう。二ノ宮が現れると必ず空気が変わる。昔からそうだ。こうなると何を言ったところで変わりはしない。


「如月真音君」


「はい」


冴子が厳しい目を真音に向けた。

反射的に真音は直立不動になる。


「逃げる事は許さないわよ」


石田は驚いた。厳しくも愛嬌のある冴子はいない。

そこにいたのは、組織に従順な幹部だった。


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