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第六十三章 アントワネット一族(前編)

帰郷して四日。ダージリンの体調は快方には向かわない。悪くもならないが、苦しんでる姿を見てるとアントワネット一族の闇を調べる気にはなれなかった。


「ダージリン…………」


そして不安が一つ。確か青薔薇が錯乱状態になる時は体温が39℃を超えた時。ヒヒイロノカネが融解した時だ。

ダージリンの現体温は38.7℃。今以上に熱が上がらない事を望んでいる。

傍らで熱にうなされるダージリン。ジルは成す術がなかった。

ジルがミルクを膝に置いて看病をしてると、フリオが軽い食事をワゴンに乗せ持って来た。


「まだよくはなりませんか」


「ええ………変な病気じゃなきゃいいんだけど………」


「先日の医者は疲れだと言っておりましたが………」


「名医なんでしょ?」


「そうなんですが…………どうでしょう、私個人的に知ってる医者がおりますが…………よろしければ呼び付けましょうか?その際、海外から呼び付ける事になりますが」


海外でも地球外でもなんでもいい。ダージリンを助けたい。金だって惜しむつもりはない。

一刻も早くダージリンを治してやりたい。


「腕は確かなの?」


「はい。まだ若いですが、私が保証致します」


迷う暇はなかった。自分がダージリンの立場なら、やはり一秒でも早い治療を望むだろう。


「わかったわ。今すぐ呼んで」


「かしこまりました」


フリオは深々と一礼すると、ワゴンを置いて出て行った。


「待っててね。すぐに治してあげるから」


一人っ子のジルにとってダージリンは妹同然。命を引き換えにしたとしてもなんとかしてやりたい。

額の汗を拭いてやる。ミルクも不安そうに見守る。そんな中、携帯電話が沈黙を裂くように鳴る。どんなシチュエーションであっても、携帯電話の鳴るタイミングというのはそんなもんだ。


「はい」


ジルはパカッと二つ折りの本体を開いて出た。

相手はアントワネット一族に詳しいと言われるジャーナリスト。にわか、どぶねずみのような輩でアントワネット一族の記事で一攫千金を得ようとして、何度か一族から圧力を受けた事もある。ジルも嫌いだったが、頼らねばならないとは……。

自分で調べるには時間がかかると思い、一か八かで依頼したのだ。アントワネット一族の闇の歴史を知りたいと。

次期頭首であるジルからの依頼に、どぶねずみは『快諾』した。


「…………わかったわ。明後日ね」


身内が信用出来ない今、利用出来るものはなんでも利用するつもりだ。










−二日後−

アントワネット家の前に黒い高級車が止まる。

フリオと数人のメイドが玄関先で待っていて、後ろのドアを開ける。


「お待ちしておりました」


フリオに促され降りて来たのは、日本で眠れる獅子に呼ばれていた男。メビウスだった。


「急だったんで疲れたよ」


相変わらず顔を隠すようにサングラスとキャップを深く被っている。


「申し訳ございません。緊急でしたので」


「いいけどね。じゃあ早速案内してくれ。『患者』の元に」


「どうぞ。こちらでございます」


メビウスはフリオに着いてメイド達と中へ入ると、近年見ないような屋敷の広さに感心する。

金持ちの象徴、西洋騎士の鎧の置物。鹿の頭の剥製。足りないものが無いくらい金持ちの象徴がある。

趣味が悪いとは思うのだが、金持ちになると目指すところは同じなのだろうか。由緒正しいアントワネット一族の本元。目指される側であるに間違いはない。


「おや?」


メビウスは階段を少し昇ったところで、慌ただしく降りて来る女性を見る。


「お嬢様、どちらへ?」


フリオがジルを止める。


「少し出て来る!……………あら?」


フリオとメイド達の中に、屋敷には似合わない少年を見る。


「どうも」


メビウスはニヤリと挨拶をした。

不気味にさえ感じたが、彼が誰なのかは察しがついた。


「お話した医者でございます」


フリオが手短に紹介すると、ジルはフリオの手を引っ張り耳元で囁く。


「(まさかでしょ?どう見たって医者には見えないわ)」


「ですが、れっきとした医者でございます」


「(大丈夫なわけ?ロック歌手の間違いなんじゃ……)」


「『医者だから』という鎖を嫌うお方でして。ただ腕は確かでございます」


自信に満ちたフリオに、ジルはメビウスをじっと見る。本来ならふざけるなと門前払いされるだろう。診察に訪れた医者がロックンロールの格好をしてるのだから。

だが、型に嵌まらないところがジルは気に入った。腕はどうだか知らないが、手術されるわけではない。今一度ダージリンの熱の原因を探ってもらうだけだ。とやかく言う事もない。ダメならまた違う医者を世界から探すだけ。


「………ダージリンの事よろしく頼むわ」


ジルは保護者としてメビウスに言った。


「わかりました」


メビウスはキャップのつばに手を添えて答えた。


「夕方には戻るから」


今度はフリオに言うと、階段を駆け降りて行った。

その姿に、フリオとメイド達が頭を下げる。


「彼女がアントワネット家の次期頭首かい?」


金持ちのお嬢様には見えないジルに気をよくしたらしい。


「さようで。では参りましょうか」


フリオとメイド達が歩き出す。

メビウスは意味深に口角を上げた。氷のような冷たさを漂わせて。


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