第六十二章 復讐に燃えて
「帰って来て早々お騒がせしてすいません」
ジルは父親にダージリンの件を謝罪した。
ダージリンはジルの部屋で寝ているも、熱が下がらず苦しんでいる。だからと言って付き添っているわけにはいかない。そういう家なのだ。
「お前の友達なら仕方ない。しばらく休んでもらうといい」
いかにもグループ企業をまとめあげる社長といった感が出てる。ネクタイも身体の中心を表すようにビシッと真ん中にある。
「ありがとうございます」
親に敬語なんて使ってる姿なんか見られたら、真音達はなんて言うだろう?笑いはしないだろうが、目は丸くするんだろうなと、そう思うとおかしくなる。
「ん?何がおかしい?」
無意識で微笑んでいたようで、
「い、いえ、パパが相変わらずな様子なので安心して……」
苦し紛れだったが、一応を言い訳しておく。
無駄な話はしない性格だ、ツッコまれる事はない。
「変な奴だ」
他人から見れば裕福で羨ましい限りの家庭かもしれない。しかしフタを開ければ親子の雰囲気すらない。
「まあいい。久々に愛する一人娘の顔が見れたのだ。遅くなったが、お帰りジル」
「ただいま………パパ」
また笑顔を見せたが、所詮フェイクの笑顔だ。
「せっかく帰って来たところ悪いが、これから仕事でね。今夜は帰らない。母さんも友達と旅行で明日の午後でなければ戻らん。悪いが今日の夕食は一人で食べてくれ」
これはチャンスだった。いろいろ調べるには好都合。
「わかりました。お気をつけて」
24時間もないだろうが、何か手掛かりを掴むには少しでも時間が惜しい。
アントワネット一族の闇の部分。触れる事に躊躇いはない。
夜。ジルは屋敷が静まり返ると、行動を開始する。
「ゆっくり休んでてね、ダージリン」
一向に良くならないダージリンだが、医者の話だと疲労だと言う。よくよく考えれば引っ張り回し過ぎだ。ガーディアンとは言え生身の人間。無理もない。
幸い、看護には白衣の天使ならぬ白毛の忠犬がいる。
「ミルク、頼んだわよ」
ジルの言葉がわかったのか、尻尾を大きく一回振った。
そして向かう場所は屋敷の地下にある書庫。古い文献がある。そこに何かあるかは断言出来ないが、重要なものは決まってそこにある事を幼い頃から知っている。
闇をかい潜るように歩き、なるべく音を立てず書庫へ入る。
懐中電灯を点け、中を物色し始める。明日には母親も帰って来る。そうすればこんなスパイみたいな真似は、我が家とは言え不可能になる。
奥にある机まで辿り着くと、手当たり次第にひきだしを開け中のものを調べる。
だがそんなに簡単に見つかる代物でもない。
「書庫にはパパしか来ないから、ここかと思ったんだけどなぁ………」
直に聞く事も考えてはいるが、そうなれば穏やかな話ではなくなる。一族を巻き込む事になるだろう。
一時間、二時間と探しに探してはみたが、結局時間だけが無駄に過ぎた。
「どうやらここじゃないようね………となると………」
手掛かりになるようなものがあるかどうかもわからない。やっぱり直に聞くのが一番か………そう思っていると、
「お嬢様」
渋い男の声がした。
「フリオ!」
屋敷を取り仕切る執事のフリオだった。歳はもう七十はいってる。それでも品のよさが歳を思わせない。
「何やら物音がしましたもので」
「あ、ああ……ごめんなさい。寝付けなくて本を探してたの」
フリオは長年アントワネット家に仕えていて、ジルが唯一本当の自分を見せられる相手でもある。とてもよく出来た執事で、何をやるにも卒がない。もう老体なのだが、彼に代わる執事が見つからず引退させてやれないでいる。
「ここにある本はお嬢様が読まれるようなものはございませぬが?」
私が生まれる前からいる。アントワネット家の事ならなんでも熟知している。
「あら、私だって難しい本くらい読むわよ」
焦りを隠しながら何気なく書庫を出ようとする。
「お嬢様」
フリオに呼び止められた。
「な、何?」
「お友達………ダージリン様の具合はいかがですか?」
「え………あ、まだ熱が下がらないけど、ぐっすり寝てるわ」
心臓に悪い。何を言われるのかと思いびくっとした。
「じゃあ、おやすみぃ〜」
適当に取った本を一冊抱える。
しかしジルは足を止めてふと考えた。フリオなら必ず何か知っている。両親だけでなく一族からの信頼も厚い。フリオに聞いてみるのが一番か。言う可能性は低いだろうが、知っているのであればダージリンがガーディアン・ガールである事を知っていてもおかしくない。
「ねぇ、フリオ………」
「なんでございましょう?」
聞け。聞いてしまえ。もう一人の自分が囁く。
「あの子が何者なのか…………知ってる?」
「…………ダージリン様でございますか?さて?」
すんなり言うわけがない。わかってはいた。
「ごめん、なんでもない。忘れて」
どちらかと言えばフリオはアントワネット家の味方だ。知っていてもジルに語るかどうかは疑問。
ジルはそれ以上聞かず部屋へ戻った。
一夜明け、メロウはガーネイアを帰した。正直、真実を知れば精神崩壊するかと思っていたのだが、意外にも泣くだけだった。となれば後はウザイだけ。
「帰したのか?」
オリオンマンが言った。
「なんとかしろって言ったのはあなたよ」
メロウの赤い瞳は遠くを見つめていた。
「メロウ」
「ん〜?」
メロウは口にストローを加えてストロベリージュースを飲む。
「ガーディアンの創造主を知っているのではないか?」
「誰が?」
「お前だ」
「…………。」
一晩考え出した結論。オリオンマンはメロウがやろうとしてる事に気付いた。
「お前がガーネイアに話してるのを聞いた。ガーディアンは人間なんだと。そしてそれは他のガーディアンの記憶から消された事実。だがお前はそれを知っている。推測でしか話せないが、ガーディアンの創造主が記憶から消したのではないか?お前は復讐するつもりなんだろう?自分達を玩具のように扱った奴らに」
「…………凄い想像力ね」
「まだ隠すのか?」
メロウの心の傷だと知りながら触れる。痛みを感じてるはずなのに、目を反らしてるのはメロウ自身。彼女が自分の心の傷と向き合わなければ先へは進めない。
「隠してないし」
「なぜ逃げる?」
「はあ?私が逃げる?何からよ」
「自分自身だ」
「フン………バカバカしい」
「怖いのか?自分の心に向き合うのが」
「うるさいなあ!私のどこが逃げてるって言うのよ!私はちゃんと見てる!私自身を!大体、あなたに何がわかるっていうのよ!私達ガーディアンがどんな事をされてきたのか知らないくせにっ!毎日毎日、不安と恐怖と孤独に犯されて…………耐えられず死んだ者だっている。本当なら私の記憶も消されてるはずだった………嫌な事を忘れて、ガーネイア達のようにただ貸せられた役目を果たすはずだったのよ…………」
メロウが涙を見せる。もちろん取り乱したのも始めてだ。
オリオンマンはわざと煽ったのだ。メロウの為に。
「なのになぜかお前の記憶は消えてなかった」
「………怖かった。ガーネイアもエメラも、みんな自分達が人間である事を忘れてるのに、私だけが覚えている。全部じゃないけど。みんなと同じように記憶がちゃんと消えてたなら…………」
「二ノ宮のガーディアンはどうだ?奴も何か握っている。それは奴のガーディアンが教えたのではないか?だとすれば…………」
「ロザリアはもっと曖昧。知ってる真実もあるのに、忘れた真実もある。エメラ達よりは知っているのかもしれないけど」
「マスターブレーンの場所は知らないのか?」
メロウは首を振った。
「全ての記憶があるわけじゃないわ。マスターブレーンの場所もわからないし、博士の顔も記憶から消されてる。一番重要なのに…………」
「なるほど。だからヒヒイロノカネが必要だったのか。博士とやらへの復讐をするには、まずマスターブレーンというわけだな」
「そう。私は復讐の為だけに生きてるの」
「いいだろう、付き合ってやる」
「え………?」
「元は選定の儀を止める為に村から出て来たんだ。だが二ノ宮達が選定の儀をやってるようには思えない。それに、いつの間にか志しを忘れ、二ノ宮達を倒さねばならないと勘違いしていたようだ。選定の儀をしていないのなら、奴らを倒す理由はない」
所詮は自分も人なのだと、苦笑いさえ浮かぶ。
「腹は決まった。博士とやらを探そうじゃないか。全ての元凶はそいつだろう」
「でも………博士には青薔薇がいる」
「青薔薇?」
「最強最悪伝説のガーディアン・ガール。一度だけ会った事あるけど…………ろくでもない女よ」
「伝説のガーディアン・ガールか…………フン、俺とお前の前ではどんな奴も敵わないさ」
「二ノ宮は?青薔薇は二ノ宮より強いわよ?」
メロウはオリオンマンを頼っていいのか………信じきっていいのかを確認したい。誰も信じられずここまで来たのだ、パートナーとは言えたやすく信じられない。でも矛盾して、オリオンマンを信じたい気持ちもある。
だから………
「弱い奴に本気は出せんからな、その方が都合がいい」
なんともオリオンマンらしい答えだった。
ようやく、スタートラインに立てた気がする。メロウは足りないと感じていたものを手に入れた。




