第五十七章 訪れる試練
本当なら、ガーディアン同士それぞれの居場所を特定する事は可能だ。距離は限られるが、決して狭くない。
空港でガーネイアが近くにいたユキ達を見つけられなかったのは、李を想うばかりに不安定な精神状況にあるからだった。
ホテルにチェックインすると、ビリアンから条件付きで拘束を解かれた。
まず、
・選定者達との接触を避ける事。
・万が一の戦闘行為も認めない。
・滞在する三日のうち二日を自由とし、二ノ宮に会いに行く日は警護任務に就く事。
軍隊みたいな言い回しでビリアンに言われ、多少不快だったが二日はゆっくり休める事を思えば我慢出来た。
鍛えぬかれた李の肉体は少年とは思えない筋肉で、スマートな容姿からは想像出来ない。だが、その肉体のおかげで全身の骨のひびに耐える事が出来ている。
「ふぅ〜………」
ベッドに横たわり息を抜く。
「何か食べるぅ?」
怪我をしてから、ガーネイアはやたらと気を遣ってくれる。
「いや………少し眠りたい」
「わ、わかったのぉ………ガ、ガーネイアはちょっとお散歩行きたいのぉ………いい〜?」
「あんまり遠くに行くなよ」
「う、うん」
そう言うと、李はすぐに眠りについた。
ガーネイアは寝息を確認してから、静かに部屋を出る。ユキ達を探しに街へ行く為。
「はい、トーマスです」
携帯電話が鳴り出たはいいが、いつものトーマスとは違った印象をエメラは受けていた。
妙に暗く、真剣過ぎる顔付きで話している相手が気になった。
「……………わかりました。明日にでも向かいます」
トーマスは携帯電話をテーブルに置くと、ソファにもたれ俯いて何やら考える。
「明日………どこ行くの?」
トーマスが行くところへはおのずとエメラも行く事になる。
「二ノ宮が大統領を暗殺しただろ?その後任の大統領が決まったらしく、俺に会いたいそうだ」
「トーマスに?」
「俺が選定者になって、まだヒヒイロノカネを手に入れたって報告がないから直接聞きたいんだろ。妹の件もあるからな」
「妹さんは関係ないでしょ?」
「あるさ。最高の医療を受けられてるのは国の金。言い換えれば税金だ。国は俺がマスターブレーンの元へ行って神になる事を望んでる。それが…………」
「真音達といるところを見られた」
「ああ。選定者は他の選定者を倒さねばならないのに、一緒に行動してるんだ、面白くないだろうな」
いつかは向こうから連絡が来る事は予想出来た。だがよりによってジルが発った後とは。
「明日だなんて………真音達に相談するべきよ」
「黙って行くような事はしないさ。事情は真音に話してある。わかってくれるよ………真音なら」
行かないわけにはいかないのだ。妹の状況は人質なのだから。
「行くぞ、エメラ」
「ど、どこに行くの?」
「真音のとこだ」
コートを取り地味に纏う。
「トーマス!」
国へ帰れば、ただでは戻って来れない。妹の命と真音達との約束。そもそも同じ重さじゃあない。エメラはそれを心配している。
「声を上げて叫ぶなんてお前らしくないな」
「国はあなたに有利な条件を出さないわ。行けばまた………」
「逃げるわけにはいかないんだよ。リンダの事はなんとかするつもりだ」
「でも!」
普段は熱くなりやすいトーマスが冷静で、冷静なエメラがせめぎ立てる。
「お前は俺のパートナーだろ?力を貸してくれ、エメラ」
ジルが帰郷した理由はわからないが、何かを決意していた事くらいはトーマスにもわかっていた。ならば、自分も鎖を断ち切る時が来たのだと、決意したのだ。
「やるべき事はやるべき時にやるものだ」
「………フフ。成長したじゃない」
「茶化すな」
「いいわ。選定者とガーディアンは一心同体。とことん付き合ってあげる」