第五十六章 Mixture
予定ではニ週間を見ている。だから見送りなんて大袈裟だと思っていた。ジルとダージリンは空港のロビーで自分達より早く来ていた真音達に苦笑いした。
「いつから来てたの?」
呆れたようにジルが言うと、
「まあ………朝早くから」
真音が答える。
「暇な人達ねぇ」
内心は嬉しかった。でもそれを全面に出すほど子供じゃない。
「そう言わないで。これから一緒に戦う仲間なんだもの、見送りくらいさせてよ」
ユキが珍しく(?)優しい言葉をかける。
「無事に帰って来いよな」
「トーマス………」
帰るわけを知られてる?しかし石田が話したとは思えない。
「なんかもう帰って来ねーよな気がしてよ。飛行機もよく墜落するから………」
言った矢先、エメラにひっぱたかれた。
「イテテ…………」
「縁起でもない」
トーマス流の挨拶なのだろうが、エメラには理解してもらえなかったようだ。
その様子を見て真音達は笑った。
他人の笑顔が、こんなに気持ちいいと思った事はない。これが仲間なのかと、旅立つと決めてからたったの三日程度で何回勇気をもらっただろうか。
「アハハハ。その調子じゃまだ先かしら」
「な、何がだよ!」
意味ありげなジルにトーマスが食ってかかる。
「まあまあ。それよりもうすぐ搭乗時間なんじゃないの?」
二人………というよりはどちらかと言えばトーマスを宥め、真音は時刻をジルに伝える。
「あ、ホントだ。じゃ行くわね」
「お〜い!」
その時、石田が慌ただしく走って来た。
「石田さん!来てくれたんですね!」
真音が呼んだのだ。
「はぁ……はぁ……ひ、人が悪いじゃないか、ジル。せめて電話だけでもしてくれよ」
「あんたまで来たわけ?全く………こんなに惜しまれたんじゃあ、お土産買って来ないとね」
嬉し涙まで見送りに来そうになり、今度はジルが慌てて背を向け歩き出した。
「期待して待ってなさ〜い」
「ジルはお金持ち」
「またあんたは余計な事を!」
二人の漫才も、しばしの見納めになる。
「ジル!」
遠ざかるジルに石田が声をかけると、二人はゆっくり振り返る。
「必ず……必ず戻って来い!みんな待ってるからな!」
真剣に叫ぶ石田の深意など真音達にはわからない。
ジルが自分を取り戻す為の戦いに、勝って帰って来る事を石田は祈っていた。
ジルは微笑んでいた。
ジルが真音達の視覚から隠れるまで離れた時、その脇を通り、そして仲間を見送る真音達の脇を少し離れて通り過ぎる者達。
「ここが君の故郷か………めぐみ君」
「はい、ビリアン様」
英国紳士の代名詞のような出で立ちで颯爽と歩くビリアン。その数歩後ろをめぐみが。さらにその後ろを李とガーネイアが歩く。
「李奨劉、ホテルに着いてもビリアン様の警護を怠らないように」
軍人並の口調でめぐみが李に指示する。
「わかってる」
ぶっきらぼうにそれを返す。
「ま、待ってほしいのぉ。リーはまだ傷が癒えてないのぉ………お願いだから少し休ませて………」
李の身体を気遣いガーネイアが懇願する。
「黙りなさいガーネイア。あなたには言ってない」
「で、でもぉ!」
「黙りなさいと言ったのがわからないの!」
「ひっ!」
聞き分ける素直さなどガーネイアにあるわけがない。李は気力だけでいるのだ。レジスタンスから貰った痛み止めなど、気休めにしかならない。
「やめろガーネイア」
「でもリー………」
「俺なら心配ない」
自分達には人としての権利はない。選定者とガーディアンという立場だけ。
「めぐみ君、せっかくの帰郷、そんなに気を張り詰めなくても誰も私がレジスタンスだとは思わんよ」
「しかし………」
「それに、私は観光に来たのだ。彼らにはむしろホテルでゆっくり休んで欲しい。君も、久々の故郷を満喫したまえ」
「………はい」
二ノ宮に会いに来たビリアン。リオの秘密を聞く為、リオの心を知る為に。
だが、ガーネイアにも目的があった。日本にいるユキ達に会い、李を…………レジスタンスから救ってもらおうと思っている。
(リー………ガーネイアが絶対助けてあげるのぉ………)
その小さな胸の痛み。犠牲にしてもいいもの一つ………そんな痛みがあってもいい。




