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第五十五章 時に優しく

翌日、ジルは一度フランスへの帰郷を決めた事を真音達に告げる為、ホテルのカフェに呼び出していた。


「そういうわけだから、しばらくはさよならね」


「そういうわけだから………じゃねーよ。レジスタンスはどうすんだよ。まさか逃げる気じゃないだろうな?」


突っ掛かるのは当然トーマスだ。

一緒にレジスタンスを倒す。などと結束した事は一度もないが、彼の中ではいつの間にかジルは共に戦う仲間だ。


「あらあら、逃げるも何もいつから打倒レジスタンスになったのさ?それとも何?真音に説得されちゃったとか?」


ジルはジルでフランスに帰ってからの事を思うと気が重い。それでもトーマスを構ってると気が紛れるのだ。


「そんなんじゃねーけどよ、どのみちお前だって選定の儀をやる気はないんだろ?正義の味方気取るつもりはねーけど、辿り着く場所まで辿り着かなきゃどうにもなんねーだろ」


「マスターブレーンの事言ってんの?」


内心ジルは嬉しかった。二ノ宮が言った通り、トーマスは………きっと真音達も自分を友人だと思ってくれている気がするからだ。例え戦いの間だけだったとしても、その間は嘘ではない。

そんな想いを、ジルとは別の理由で喜ぶ者もいる。


「私も同じ意見よ、ジル」


エメラだ。

トーマスの一番近くで彼を見て来たからこそ、真音やジルに会い変わって行くトーマスが誇らしい。妹を盾にする国への苛立ちより、自分らしくあろうとする姿は、やはり男の子なのだと思わずにいられない。


「レジスタンスも放ってはおけないし、私達はマスターブレーンのところへ行き真実を見なければならないわ」


はっきりと意志表示するエメラを援護するように、


「レプリカ・ガールだって放っておけないよ」


真音が口を開いた。


「なんだか予想以上に『やる気』みたいね」


「レジスタンスは石田さん達に任せたとしても、レプリカ・ガールには俺達しか対抗出来ない。厄介な事にオリオンマンも相手しなきゃなんない。やる事はたくさんあるんだよ。ジルがいなくちゃ俺達だけじゃ勝てないよ」


真音はジルならわかってくれると信じてる。もっとも、気の回しすぎだ。


「バカね。誰が逃げるなんて言ったのよ。ちょっと野暮用で帰るだけ。すぐ戻って来るって」


「じゃあ…………」


「私が帰って来るまで、なるべくおとなしくしてなさい。オリオンマンに絡まれても無視無視。ああいうタイプは正面から行くと図に乗るから」


真音の顔が華やかになる。バラバラだった気持ちが一つになったのだから無理もない。


「心配しないで野暮用とやらを済ませて早く戻って来てよね。それまでせいぜい休ませてもらうから」


ユキもジルが戻って来る事を期待している。

みんなの気持ちを察したのか、


「ジルは絶対戻って来る」


ダージリンが言った。


「ダージリン、あんた………」


ダージリンの言葉にジルは感動した。


「男に会いに」


でもオチはついた。それも笑えないオチ。ジルの頬がひくひくと引きつる。

それを聞いたらみんな黙ってるわけがない。真音もトーマスもユキもエメラも、口を揃えて、


「男ぉ〜〜〜〜っ!??」


「ち、ちが………な………違うって……」


なんでダージリンが二ノ宮との事を知ってるのか不思議だったが、この場で聞けるわけがない。

だが真音達がやり過ごすわけもなく、ユキがダージリンを問い詰める。


「誰よ、男って?」


「知らない」


「は?」


「雰囲気」


「…………………………。」


ジルを気遣ったのかどうかは誰にもわからないが、何かをジルから感じとったのは間違いないらしい。


「と、とにかく、ダージリンあんたも一緒に行くんだからね!」


何が飛び出すかわからないダージリンの口を封じるように声の音量を上げた。

やっぱり温泉に行ったのが一番の理由なのだろう。同じ境遇でも解り合えなかった真音とトーマスとジル。今は絆があった。


「で、出発はいつ?」


ユキが聞くと、


「明日」


少し淋しそうにジルが答えた。


「また急ね」


「まあね。あ、見送りはいらないから。どうせ戻って来るんだし」


全て片付いたら、ちゃんと話そうと思う。それまでは言いたくないのだ。ガーディアンが人間であり、酷い目に合って来た事。それにアントワネット一族が関わっていた事。


「さ、今日は私が奢るから、なんでも頼みなさい!」


ジルが言うと、やはりまだ子供なのか、歓声にも劣らない歓喜の声が満ちた。

仲間………また会いたいと、ジルは心の底から思っていた。










昼ドラというものは案外過激だ。昼時の退屈な主婦を狙うのだから穏やかでは視聴率は取れないのだろうが、ロザリアにはかなり悪影響だ。


「誰ともいなかったって言ってるだろ」


恋人を説得するように…………ではなく、疲れ果てながら言った。このセリフは今日だけで何回言ったかわからない。


「嘘っぱち!女の匂いしたもん!」


「満員電車に乗ったからだよ」


「人のいるとこ嫌いなくせに!」


「ロザリア…………」


出会った頃は二ノ宮にでさえびくついていたのに、今ではああ言えばこう言うで気付けば『女』に成りつつある。幸い、真似事で往生してくれてるからなんとか対応出来るが、将来が思いやられる。


「でもどっかで嗅いだ事のある香水なのよね」


ロザリアは右に左に、顎に手を当てて探偵のように歩いている。


「き、気のせいじゃないか?最近の女は香水がキツイから」


「そんなにありふれたのじゃない。香水なのに淡い匂いなの。でもしっかり香る…………多分超高級品ね」


ぎくっとする。なんて勘のいい………雨に濡れて大丈夫だと思ってた。戦いの時ならば手を叩いて褒めてやるところなのだが。


「そうだロザリア!ケーキ食べに行かないか?おいしいケーキ屋見つけたんだ!」


甘いものに目がないロザリアにはこれが一番。


「……………他の女と行ったとこには行かな〜い」


逆効果だった。軽蔑する眼差しで睨む。


「だから行ってないって」


「どうだか。フンッ!」


これでは埒があかない。しょうがないから奥の手を使う事にする。


「ロザリア…………」


真剣な表情でロザリアに迫り、壁際まで追い詰める。


「ど、どどどうしたの?とつ、突然…………」


怒られるのかとびくびくする。


「……………可愛いよ」


「セイイチ…………」


ロザリアがなにより望むのはこういうパターン。いつもは面倒だから鈍感なフリをして済ませてしまうのだが、今回は特別。

やましい事は無い…………事も無いが、変な感情でジルを抱きしめたわけじゃない。勘繰られても困る。

二ノ宮はロザリアの銀色の髪を優しく撫で、


「お前意外の女に興味はないよ」


そのセリフでロザリアのテンションはオーバーヒート寸前。真っ赤な顔で唇を『3』の形にしておねだりをする。

その唇に指を当て、頬にしてやる。


「もうちょっと、大人になったらな」


「ぶぅ〜」


でもまだ心臓はドキドキしてる。


「さて、少し昼寝するよ」


一仕事の後の欠伸をして部屋へ行こうとする。


「セイイチ!」


「ん?」


「ケーキは?」


ため息を漏らした。


「行くの………か?」


「行く」


余計な事を言ったと後悔した。


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