第百五十五話 吾輩な吾輩
黒棺様の洞窟に戻ってみたが、吾輩(元)はまだ戻っていないようだった。
煉瓦窯や畑の方にも居なかったな。
吾輩のことだから遊び呆けているとは思えないが、ちょっと村にかまけ過ぎている気がしないでもないな。
本来の強くならねばという目的を、忘れがちになっているようで心配である。
「今日はお疲れ様でした、師匠。誘って貰って嬉しかったです」
『うむ。たかがネズミでも、殺すというのは大変だったろう?』
「…………はい。予想以上でした」
『今日はもう疲れただろうし、帰ってゆっくりと――いや、ちょっと待て』
ふとあることを思い出した吾輩は、少年を引き止める。
良い機会だし、確認しておくか。
『すまんが、ちょっと付いてきてくれ』
黒棺様の側までアルを連れてきた吾輩は、先に側面の文字をチェックする。
<能力>
『反響定位』 段階4→5
『頭頂眼』 段階4→5
『幻覚毒生成』 段階0→3
『方向探知』 段階0→2
『体幹再生』 段階0→1
『分裂』 段階0→1
『気配感知』5『末端再生』5『平衡制御』5
『聴覚鋭敏』5『集団統制』3『危険伝播』3
『麻痺毒生成』2『視界共有』2『臭気選別』1
『腕力増強』1『肉体頑強』1『賭運』1
『角骨生成』1『暗視眼』1『多肢制御』1
『再生促進』1『生命感知』1
『火の精霊憑き』1『水の精霊憑き』1
『精霊眼』1『地精契約』1
<技能>
『短剣熟達度』 段階2→3
『片手剣熟達度』 段階2→3
『回避熟練度』 段階9→10→『回避熟達度』 段階0→1
『受け流し熟練度』 段階8→10→『受け流し熟達度』 段階0→1
『片手棍熟練度』 段階8→10→『片手棍熟達度』 段階0→1
『水の精霊術熟練度』 段階6→10→『水の精霊術熟達度』 段階0→1
『投剣熟練度』 段階7→9
『指揮熟練度』 段階7→8
『軽足熟練度』 段階2→4
『骨通信熟練度』 段階2→3
『見破り熟練度』 段階1→3
『盾捌き熟達度』5『両手剣熟達度』5『土の精霊術熟達度』5
『弓術熟達度』5『騎乗熟達度』3『両手槍熟達度』3
『火の精霊術熟達度』1
『火の精霊術熟練度』10『鑑定熟練度』6
『罠感知熟練度』6『罠設置熟練度』6
『射撃熟練度』5『片手斧熟練度』5『投擲熟練度』4
『両手棍熟練度』3『両手斧熟練度』2『投斧熟練度』1
『投槍熟練度』1『動物使役熟練度』1
<特性>
『刺突防御』 段階8→9
『圧撃防御』 段階6→8
『斬撃耐性』 段階9→10→『斬撃防御』 段階0→1
『溶解耐性』 段階0→3
『毒害無効』10『打撃防御』6
『聖光耐性』6『炎熱耐性』5『腐敗耐性』3
『呪紋耐性』1
<技>
片手剣・短剣
『三段突き』 段階8→9
『三回斬り』 段階7→8
『地走り』 段階2→3
『鋏切り』 段階3→4
片手斧・片手棍
『強打』 段階4→5
『裏打ち』 段階4→5
両手剣
『弾き飛ばし』 段階6→8
『兜割り』 段階5→6
『水平突き』 段階4
弓
『精密射撃』 段階1→2
『重ね矢』 段階4
『早撃ち』 段階8
『二連射』 段階5
盾
『盾撃』 段階7→8
精霊術
『地段波』 段階9
『地壁』 段階6
『地牙』 段階2
『火燐』 段階3→4
『水凝』 段階4→6
『水膜』 段階0→2
近接技
『痺れ噛み付き』 段階3
『齧る』 段階3
その他
『怒角天』 段階0→1
『飛び跳ね』 段階9→10→『跳躍』 段階0→1
『脱力』 段階9
『威嚇』 段階5
『魂糸結合』 段階1
未分類
『聖光』0『頭突き』0『爪引っ掻き』0
『体当たり』0『くちばし突き』0『棘嵐』0
『突進突き』0『乱心』0『水槍』0『水浄』0
『凶音旋風』0『回転突進』0『吸着』0
『水縮』0『水弾雨』0
<戦闘形態>
『双剣士』 段階3→5
『射手』 段階2→3
『盾持』 段階3→4
『戦士』 段階3→4
『精霊使い』 段階7
総命数 3015→3995
まずは能力だが、とうとう反響定位と頭頂眼が5に達した。
変化としては反響定位は、精度が上がったようだ。
以前にもまして、音像が細かく浮かぶようになった。
頭頂眼も性能が上がり、映像の色彩がより深くなった。
新規能力も一気に四つ増えて、滝裏の洞窟には感謝しきりだな。
特に体幹再生と分裂は、大いに役に立ちそうである。
なのにまだ段階1とは……。
赤カマキリの能力も便利だから増やすとか言っといて、全然倒しに行ってないし!
技能は対戦稽古をまた始めたおかげで、こちらも動きは良いな。
ニーナが片手剣を使ったり、タイタスも槍を使ったりと、各自の使用武器のバリエーションも増やしているのもまずまずだ。
それと地味に水の精霊熟練度が10に達して、熟達度になってしまった。
だが火と同じで、熟達度は1で止まったようである。
どうやらそれ以上にするには、精霊の契約とやらがどうにも必要っぽいな。
他には同じく地味だが、指揮と骨通信が上がったくらいか。
最後の見破りは、大ミミズのおかげだろう。
ふむ、技能に関しては文句はあまりないな。
次に耐性だが、これも稽古の成果が出てきたか。
本物の武器を使っているせいで、斬撃もようやく防御に出来たしな。
圧撃が2も上がったのか白ワニのせいか……。
ま、おおむね良い上がり具合である。
たが同じくここにも不満がある。
溶解耐性や聖光耐性なんかは、使用相手が分かっているのだから、どんどん上げるべきであろう。
特に聖光は春来節にくるピカー光線どもに対し、とても有効な対策だぞ。
サボってる場合じゃない!
次は技だが…………。
うむ、練習の成果は著しいな。
ロクちゃん、ニーナ、タイタスの頑張りがよく出ている。
弓の伸びが悪いのは、対戦の稽古に向いてないから仕方がない。
あとは精霊術で、火燐は人を燃やすと上がるようだ。
それと水系は水凝に加え、水膜という防御技も増えたな。
ちょっと笑えたのがニーナの怒りモードが、怒角天で登録されていた件だ。
もしかして、何かの役に立つのか? あの角だらけ頭。
他は白ワニの精霊攻撃は、水縮と水弾雨という名前か。
これも早めに使ってみたいものだ。
最後に戦闘形態は地味に上がったが、吾輩の精霊使いだけ変化なしか。
滝裏の洞窟じゃ、何も活躍してなかったしな。
総命数は3995と思ったら、4002になってる。
チェックしてる間にネズミが数匹殺されたようだ。
霊域内での生き物の魂を自動回収してくれるのは、本当にありがたい。
だからこそ、もっと命数を積極的に増やすべきだろう!
4000になっても霊域拡大の二段階目解放は出ていない。
これも早く開放するべきだと思うのだが、どうにも吾輩(元)は腰が重いように感じる。
農奴あたりを一気に捧げれば、1000は余裕で増やせるだろうに。
これは吾輩(元)が帰ってきたら、是が非でも説教してやらねばならんな!
「あの……師匠、さっきから何をされているんですか?」
『おっと、すまん。つい夢中になっていたな』
慌てて振り向いた吾輩は、不思議そうにこちらを見下ろす少年に視線を合わせる。
その瞳には、黒棺様の側面がバッチリ映っている。
しかしアルの表情は、訝しげなままである。
つまり少年は、本当に吾輩が何をしていたか分かってないのだ。
先日、村で文字の読み書きを出来る人間を尋ねた時、アルの名前も上がっていた。
それと以前にも少年は、黒棺様を目撃している。
だがこの側面に書かれた文字については、これまで何も訊いてこなかった。
文字が読めないのかと思っていたが、そうでないことは父親が教えてくれた。
そこで吾輩の記憶の底から呼び起こされたのは、とある古い事件だ。
と言っても、まだ一年も経ってないが。
まだ丘の反対側から黒棺様に通じる洞窟があった頃、侵入者どもがいきなりやってきた出来事があった。
ただしあの時のロナは侵入ではなく、無理やりだったようだが。
確か入り込んだ賊の名前は、ボンゴとリド。
そのうちのリドという小男が、黒棺様の側面をじっくり見て言い放ったのだ――ただのシミのようだなと。
そしてアル少年の目にも、この文字たちは文字として認識されていない。
む、出たか!
どうやら、吾輩の推論は正解だったようだ。
黒棺様の側面には、新たな文字が出現していた。
技のとこにあった文字は"幻惑"。
これによって人間どもには、棺の文字が読めないよう偽装してあったのだ。
そしてその事実に吾輩が気づいた瞬間、新たに技として現れたと。
うむ、流石は優秀な吾輩である。
『実験は終了だ。よし、もう帰って良いぞ、アル』
「えっ? はい、分かりました」
キョトンとした顔のまま、アルは洞窟を出て行く。
と、入り口のところで誰かに出会ったのか、話し声が聞こえてきた。
「こんにちわ、師匠。あ、ロナも一緒だったんですね」
『いいところ居たな、アル。ロナで試そうかと思っていたが、ちょうど良い。お前も少し付き合ってくれ』
他の気配と一緒に、アルが引き返してくる足音が伝わってくる。
どうやら吾輩(元)と、ロナが一緒のようだな。
ふむ、考えることは同じだったか。吾輩のほうが一足、先んじてしまったが。
『おや、戻っていたのか、吾輩』
『遅かったな。何をして居たんだ? 吾輩』
「あら、こちらの方は新しい御使い様ですか?」
そういえば、ロナとは初対面だったな。
簡潔に説明しようと吾輩が考え込んだ瞬間、吾輩(元)が先に顎骨を開く。
『こいつは吾輩が生み出したものだ。よろしくしてやってくれ』
その言葉を聞いた瞬間、少女の表情がいきなり明るく変化した。
「えっ、他の御使い様とのお子様ですか?! あの大きなお体の人とか?」
『なぜ吾輩がタイタスと子骨を作らねばならん』
「じゃあ緑の服の方ですか? うん、前から凄くお似合いだと思ってました」
『五十三番のことか? いや、それもあり得んだろう』
「そうだよ、ロナ。師匠とお似合いなのは、ニーナ先生だって」
アルまで何を言っている。
全く吾輩(元)が、下手くそな説明をするからややこしくなるのだ。
『吾輩は吾輩だ。そっちも吾輩だが、こっちも吾輩だ』
「えっ? はい、吾輩な吾輩様ですね。これからもどうぞよろしくです」
少女はミトンを外して、吾輩へ手を差し出してくる。
全くもって理解していないようだ。
どうやれば分かりやすく伝わるだろうかと、思案しながら少女の手を握る。
うむ、今思い出したが、この分身の体には耐性が何一つ付いてなかったな。
消えていく吾輩が最後に見た光景は、悲鳴を上げ続ける少女の姿だった。
うむむ、すまんが後の説明は任せたぞ、吾輩(元)。