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第百四十九話 七転び八起き


 さて、どうすべきかと考えていると、ロクちゃんが通路の奥からヒョイと顔を出した。

 足音を完全に消したままトコトコ近付いてきたので、頭骨を覆っていた水の膜を解く。


『倒した?』

『うむ、見事に倒されたな。すまんが吾輩を運んでくれるか?』

『倒す!』


 素直に返事をしたロクちゃんは、脇腹から出した予備の手で吾輩を持ち上げてくれた。

 腕が四本あると、こういう時は便利だな。

 吾輩も面倒臭がらずに、探索に行く際はつけておくべきか。


『おーい、そっちはどうだ?』 

『今、吾輩先輩の体を集めてます。ちょっと厳しいですね』

『ニーナはどうなった?』

『頭が半分になってるから、残りの半分を探し中だ。お、これか?』

『あ、おっさん、踏んでますって! ほら、足の下』


 枯れ木を踏むような音が聞こえてきた。

 現場にはかなり骨が散乱しているようだ。


『装備と使えそうな骨だけ集めて、一旦、通路の方へ避難しよう。また白ワニが出てくると洒落にならんしな』

『分かりました。なるべく音は立てない方が良いですね』

『倒す!』


 動ける三体は黙々と荷物を集め、地底湖の広間から少し離れた通路に運んでくれた。

 

 幸いにも下僕骨の背骨が、比較的綺麗に残っていたので早速合体する。

 あとはカゴをばらして、組み込んであった腕の骨を取り出してくっつける。


 以前に少し調べたのだが、どうやら再生は残った体の部位が多いほど早いようだ。

 肋骨あたりも拾ってきて貰い、伸びてきてた部分とくっつけて体の体積を増やしていく。


『しかし、とんだ災難だったな。まさかあんな奴が出てくるとは』

『すみません、僕が余計な提案をしたばかりに』

『気にすることはねぇよ、ゴーさん。あれは予想の外過ぎたぜ。それにどんなに用心してたって、想定以上のことは起こっちまうもんだ』

『倒す!』

『そうだな、現実が吾輩たちより一枚上手なのはいつものことだ。今回はむしろ、この程度の被害で済んで喜ばしいぞ』


 吾輩の提案の小舟なりで地底湖を渡ってる最中にあのワニに襲われていたら、全員、水の底で溶かされて消えていた可能性もありえる。

 だから事前に知ることが出来て、運が良いと――いや、これこそ賭運の効果かもしれんな。

  

『尻尾の一振りで、壊滅状態か……。水上で戦うのは、絶対に避けたい相手だな』

『土の精霊もアレだったが、水も強烈だったな。なんで、只の水にあんな威力が出るんだ?』


 タイタスの疑問ももっともだ。

 手桶で汲んだ水をぶつけられても、吾輩たちの体が砕けるというのはまずあり得ない。


『多分、濃度の違いだろう。あの水球には水の精霊どもが、これでもかってくらい詰め込んであったからな』


 大量の精霊が圧縮された水の塊だと、速度や重量も当然違ってくる。

 あの距離からの攻撃で鉄鎧をへこませたのも、納得出来る強さである。


 ハッキリと確認しきれたわけではないが、水棲馬の水槍を濃度一とすればその三倍以上はあったかと思われる。

 それが数十個、紛うことなき化け物という奴だ。


『…………あれが居座ってる限り、地底湖の奥の探索は当分、無理そうだな』


 吾輩の呟きに、誰も反論の歯音を漏らさない。

 それほどまでに、白ワニの暴威は強烈過ぎた。


 だが吾輩たち骨は、折られれば折られるほど強くなる。

 決してくたびれ儲けにはならないのだ。


『ま、諦めたわけではない。いつか必ず倒すのは確定事項だからな』

『倒す!』

『ひょうっふ! この借りはへったいにかえひてやるっふよ!』

『お、ニーナも喋れるほど治ったか。どうだ? バラバラにされて』

『ほれっちの怒ひが、はふれ返ってやばひっふよ!!』


 下顎が半分しか再生されてないせいで、歯が抜けた老人のような歯音になっている。

 それとヤバイと言った言葉通り、その頭蓋骨の部分には変わった変化が起きていた。


 伸ばした中指ほどの角が数本、天を衝くように生えていたのだ。


『これ怒髪天というやつですかね。いや、この場合は怒骨天が正しいか』

『ほれっちにぶつかった水っ玉、ななこ分のひかりっふ!』

『これ、八本生えてるぞ。頭骨の損傷は深刻そうだな。紋章にヒビでも入ったか?』

『ひっ本は、ほれっちの骨を踏んづけたデッカヒはんの分っふ!』 

『ありゃ不可抗力だろ。勘弁してくれ』


 うーむ、思惑通り敗北を知ってもらったが、逆効果だった気が……。

 ニーナのようなタイプは、痛い目にあってもあまり学ばないということか。

 一つ、学ばせてもらったな。


 その後、一時間ほど休憩して、吾輩は動けるまでに回復した。

 もっとも足はまだ一本しかないので、歩くのには杖が必須であるが。

 ニーナの方はようやく顎の再生が終わり、普通に話せるほどにはなった。


『たおーす!』

『ただいまです。そろそろ移動できそうですね』


 ちょうど偵察に行っていたロクちゃんと五十三番も戻ってくる。


『どうだった、東の通路は?』

『思ったよりも脇道が多かったですね。南北の道はほぼ一本道だったので、そこが意外でした』


 五十三番が書いた地図を、早速見せてもらう。

 黒樹林方向へ伸びていた東の洞窟だが、ところどころで枝分かれしていた。


 どうも木で例えると本道である幹から、枝に当たる間道が多く伸びているといった感じか。

 脇道の方は最初の二本以外は、入り口だけしか描かれていない。


『軽い偵察でしたので、そこ以外は調べてません。二つとも小さな部屋になってまして、キノコがみっしり生えてましたよ』

『本道の方の、このハッキリ書かれてない部分はなんだ?』

『それなんですが――』


 通路の壁や天井のあちこちが、灰色の大きな塊に覆われていたそうだ。

 細い糸が集まって出来たソレは、以前にも見覚えがあったと。 


『灰色の糸の塊……、まさか?!』

『ええ、おそらく蜘蛛の巣ですね』

『こんなところに居たのか……』


 あの時以来、ツルツルの木に全く巣を張る様子がなく諦めかけていたのだが。

 しかも嬉しいことに巣の大きさは小蜘蛛ではなく、大蜘蛛級だったらしい。

 

『巣の奥に隠れていたせいで、気配はきちんと読み取れませんでしたけどね。それと最後のこの部分なんですが』


 五三番が指差す石盤の右端は、道の先に何も描かれず終わっている。


『この先は蜘蛛の巣だらけで進めませんでした。何らかの対策がないと厳しいです』

『倒す?』

『いや、今日は引き上げるとしよう。無理は十分に味わったからな』


 タイタスは健在だが、攻めつつ守りも行けるニーナを欠いたままでは防御面で不安が残る。

 というか、吾輩がほぼ役に立ってない方が問題だな。

 

 キノコ八本とダンゴ虫三体、トカゲ六匹を捕まえてから滝の裏を抜け外へ出る。

 とうに時刻は日暮れを迎えており、辺りは真っ暗になっていた。



 こんな感じで、二回目の滝裏洞窟の探索は終了した。

 

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