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第百三十九話 地底に潜むもの その一



 洞窟の内壁は、外と同じようにゴツゴツとした岩に一面覆われていた。

 ところどころ、横向けに筋が入ってる箇所も見える。


 杖で天井を軽く押してみたが、刺さる気配は全くない。

 床も同様な上、小さなデコボコが多く予想以上に動きにくい。


『この岩は、かなり堅いな……』  

『誰かが掘ったって感じはしねぇな。うん、何してんだ?』


 革袋に滝の水を汲む吾輩の様子に、タイタスは訝しげな声を上げる。

 まぁ、吾輩たちに飲料水などは全く不要だからな。


『うむ、ちょっとした備えだ。それじゃあ進むとするか』


 入る時には少し身を屈めていたタイタスだが、背を伸ばしても余裕なほど中は広くなっていた。

 背後から差し込む光のおかげで、視界に不自由はない。

 

 のっそりと歩きだした巨骨の背に隠れるように、吾輩も通路の奥へと歩を進めた。

 洞窟はまっすぐ北へ向かっているようだ。

 地面は少し下り坂気味である。


 二十三歩目で、タイタスが足を止めた。

 通路はそこで二叉に分かれていた。

 先行していた二体の骨も、その分岐点で立ち止まっている。


『ロクちゃんはどうした?』

『今、右の方を探ってもらってます』

『なんか左の方、すっごく臭いっすよ! 滅茶苦茶怪しいっす!』


 頭の後ろで手を組んでいたニーナが、追い付いた吾輩たちに振り返り興奮気味に語ってきた。

 その嗅ぎ慣れた臭いに、顔を合わせた吾輩と五十三番は苦笑いを浮かべる。


『そっちはコウモリのねぐらだろう。帰りに寄ればいい』

『……あまり食欲の湧かん臭いだな。後回しには賛成だ』

『弱っちい生き物っすか。お、チッサイさん、お帰りっす。って、何すか、それ!』

『倒した!』


 右通路から足音もさせず戻ってきたロクちゃんだが、その手にはまたも見慣れた生き物がぶら下げられていた。

 尻尾を掴まれてジタバタともがく灰色の細長い形姿――トカゲだ。

 

『おお。コウモリが居るので期待していたが……、これで食料がかなり助かるな』

『ロクちゃん、トカゲどれくらい居た?』

『倒す、倒す、倒す…………倒す!』

『かなり居るみたいですね』


 ロクちゃんの後について、ゾロゾロと右の通路へ進む。

 こちらの道はやや蛇行しており、地面や壁のあちこちから岩が突き出ている。

 吾輩たちの足音が響いた途端、数体の影がその突起の裏へと身を潜めた。


『隠れても気配でバレバレっすよ。こいつら、あんまり強くないっすね』

『もう少し先も確認しておこう。トカゲは帰りに捕まえれば良いしな』


 下僕骨が居ないため、運べる荷物の量は限られている。

 吾輩の言葉に、ロクちゃんはトカゲをポイッと床に投げ捨てた。

 そのまま暗闇に溶け込むように、小柄な骨の体が消え失せる。

 

 信頼できる斥候に偵察を任せた吾輩たちは、逃げ惑うトカゲを無視して通路を歩む。

 しばらく道を進むと、今度は三叉路に行き当たった。


 一番左の道は傾斜がきつく、さらに地の底へ下るように続いている。

 右はこれまでと道幅の変化はないが、こっちは緩い上り坂だ。


 そして真ん中の通路は、道と呼ぶには少々広すぎた。

 亀裂のような入り口は骨一体分ほどしかないが、中は吾輩たち五体が横に並んでも余裕なほど大きい。

  

 そこは通路と言うよりも、広間と呼んだほうがふさわしい空間であった。


 広間を覗き込んでいたロクちゃんが、吾輩たちへ振り向くと中を指差した。

 近付くまでもなく、吾輩たちも即座にその変化に気づく。


 広々とした場所からは、大量の生き物の気配が溢れ出していた。

 それともう一つ、緑がかった光も。


『壁が光ってますよ、吾輩先輩』

『苔のようだな。どういう仕組みか分からんが、これは有り難い』


 壁や一部の天井を覆っていたのは、薄い光を放つ緑色の植物の群れだった。

 淡い光に照らし出され、洞窟の内部が吾輩たちの視界に浮かび上がる。 


 同時に苔の輝きは、地面を隙間なく埋め尽くす生き物の姿までもハッキリと見せてくれた。 

 白い胴体部分の太さは、ほぼ人間の子供と同じほどだ。

 背丈は大きいものは吾輩の腰元まで。

 赤茶けた色の笠をかぶる、その生き物は――。


『キノコですか?』

『にしては、やけにデカいな。森に生えてたのは、もっとちっさい奴だったろ』

『ガッカリっす。こんなの相手じゃ、勝負のしようがないっすよ』

『いや、これは凄く助かるぞ。食べられるとなれば、一気に問題解決だ』


 広場の奥はかなり遠いが、その床一面にビッシリとキノコたちは生え揃っていた。

 沈んだ歯音を立てながら、ニーナは警戒もせずあっさりと広場へと入っていく。

 仕方がないので、吾輩たちも続いて足を踏み入れた。


『そうだ。豚ちゃん連れてきて、食わせれば良かったっすね』

『あいつらは何食ってもケロっとしてそうだがら、毒見役にはあまり向いてないと思うぞ。そうだ、お前たちの乗ってきた一角猪が居たな』

『おい、二代目に変な物食わす気じゃねぇだろうな?! それは流石に見逃せねぇぞ、吾輩さん』

『一角猪は貴重な戦力ですから、僕もあまりオススメしませんね。薬師のエイサンに聞くのはどうですか』

『ああ、それが良いな。じゃあ早速、収穫するか』


 とりあえずキノコに近付いて観察してみる。

 ちゃんと命数が1あるな。魂力も同数ほど感じ取れる。

 しかし先ほどから吾輩たちを取り囲む気配は、もっと濃厚な感じでもあるようだが……。

 キノコが多すぎて、よく分からんな。


『倒す?』 

『こんなのサクッと一撃っすっよ』 

『あ、待て、ニーナ!』

 

 振りかぶった片手剣を、薪を割るかのように振り下ろす長身の骨。

 吾輩の制止は間に合わず、キノコは傘ごと真っ二つになる。


 一瞬の間が空いた直後、半分に裂かれたキノコから真っ黒な煙が吹き出した。


『なっ!』

『ニーナ、下がれ!』

 

 キノコの傘の部分がブルブルと震え、細かい煙のような物を何度も吹き上げる。

 それは至近距離にいたニーナの上半身を、あっという間に包み込む。


 動いたのは、キノコだけではなかった。

 煙が飛び散ると同時に、丸みを帯びた黒い何かがキノコの下から飛び出してくる。

 それは凄まじい勢いで、視界を塞がれたニーナに飛び掛かった。


 だが同時に三つの骨が動いていた。

 大きな骨が、強い風圧を伴いながら長方形の盾を突き出す。

 小柄な骨は、しゃがみ込みながらニーナの足を蹴り飛ばす。

 そして弓を構えた骨は、すでに弓弦を鳴らし終えていた。


 両手に余るほどの大きさのソレは、撃ち込まれた矢を跳ね飛ばし、さらにタイタスの盾にぶつかりながらも大きく弾む。

 向きを変えられつつも、黒い球形はニーナの頭部めがけて突き進んだ。


 しかし膝の裏を蹴られたことで背を仰け反らした長身の骨は、間一髪でその攻撃を避ける。

 ホッと安堵した吾輩は、素晴らしい動きで奇襲で躱した三体へ声をかけようとして――。 


 壁に跳ね返ったその真っ黒な球体が、吾輩目掛けて一直線に迫ってくる事実に気付いた。 

 えっ!



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