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第百三十六話 新しい年の始まり


 この世界の神々は、永遠の夜の向こうからやってきたらしい。

 万象の父であり、この世界の法を定めた護法の男神。

 万物の母であり、この世界を創り出した創世の女神。

 二柱の子供であり、父とは真逆の神性を持つ混沌の幼神。

 二柱の元型であり、滅びを司る終末の老神。


 この四大神とその派生である小神たちは、王国の民の信仰の対象となっている。

 面白いのはまず神の力が顕現し、それに合わせて教義が作られたという話だ。


 先人の信徒たちは試行錯誤を繰り返し、それぞれの神の意に沿う儀礼を見出してきたらしい。

 だから時に宗旨や教法が矛盾したり、非合理的であっても仕方がないのだそうだ。 

 ……力は与えるが、言葉は授けない神々か。


 そういえば吾輩たちの生みの存在である黒棺様も、その目的などは一切語ってくれていないな。

 ただ魂を集めろという使命を下したのみで、その後は放ったらかしである。

 育児放棄と言い切っても良い。

 いや、たまに機能を開放してくれるので、完全に放置ではないのか。


 話が逸れたので戻すと、この神々たちは年末になると里帰りしてしまうらしい。

 具体的にどこに戻るのかは分からないが、一年の最後の夜、神の恩恵は一切途絶えてしまう。


 そしてその夜、人々が真摯な祈りを捧げることで神々が再臨し、その御力により夜明けが訪れ新たな年が始まるのだという。

 この新年の朔を祝う祭りが、新奉祭である。


 別に祈らなくても勝手に夜は明けるし新年も始まるとは思うが、そう意味付けることで信仰心を高めているのだろう。

 上手いやり方である。


 今年最後の夜、村人たちは蒸し風呂で汗を流して身を清めたあと、教会に集まり祈りと酒盛りを始めた。

 もっとも全員が入れるほど広くはないので、さっと祈りだけ済ませて自宅へ帰るのも多かったが。


 子供たちもこの日だけは夜更かしが許されるらしく、目をキラキラさせて大はしゃぎである。


「だんちょ、今日はずっといっしょ!」

「お祈りするよぉ」

「たおす!」

「僕、たぶん寝ちゃうよ……」

 

 と勢い込んでいた幼子たちは、日が落ちて間もなく吾輩の膝の上であっさりと寝息を立て始めてしまった。

 普段は日が落ちたら、すぐに眠っているようだし仕方ないか。


「団長様、あの蒸し風呂ってのは最高だな! 今日はもう二度も入っちまったぜ」

「いやはや、本当に良いものですな。特にこの風呂上がりの酒の美味いことと言ったら」

「新しい服ですが、皆、大変喜んでおりました。本当にありがとうございます」


 仲良く肩を組みながら、吾輩に挨拶に来た村長とウンドとダルトンだった。

 ホカホカと頭から湯気が上がっているのを見るに、一蒸し風呂浴びてきたばかりのようだ。

 麦酒を煽りながら盛り上がっていた三人だが、真夜中過ぎには床に転がっていびきをかいて寝入ってしまった。


「飯、美味い!」

「風呂、気持ちいい!」

「最高です、ホネ様!」


 夜半過ぎに女どもを引き連れてきたのは、グニル、ゾト、ルグの三人組であった。

 鼻の頭が真っ赤になっているので、相当飲んでいるようだ。

 ここが俺たちの新しい故郷だなどと叫びながら、豚鬼たちは意気揚々と煉瓦の家へ戻っていった。


 そして皆が寝静まり夜明けが近くなった頃、くたびれた顔で現れたのは教母シュラーと娘のロナであった。


「御使い様、おはようございます」

「おはよう……ございます」


 ほぼ一晩中、祈りを捧げながら料理を作り給仕をしていたのだ。

 かなり大変だったであろう。

 それでも二人は最後の仕上げとばかり、疲れきった体を動かして酒場の奥にある祭壇へ向かう。


 ちょうどその時、明かり取りの小窓から眩しい光が差し込んできた。

 それは真っ直ぐに祭壇を照らし、白い祭服を来た二人を浮かび上がらせる。


 歌が始まった。

 夜明けと神々を讃える麗しい歌声が、教会中に鳴り響く。

 高く低く流れる歌声に、目を覚ました村人たちは無言で聞き入る。


 旋律は単調であったが、彼女たちの歌はとても厳かで心が洗われるような響きを伴っていた。

 

 聖なる歌が終わると、聴衆から拍手が巻き起こる。

 気がつくと吾輩の横にはアルが座っており、腕が千切れそうなほど両の手を叩き合わせていた。

 一体、いつから居たんだ……?


「新年おめでとうございます、師匠」

『うむ、新しい年か』

「去年は……、色々ありました。師匠に出会ってから、本当に色々と……」


 少年は視線を前に向けたまま、呟くように言葉を続ける。


「あれだけ貧しかった村が、こんな立派な場所になりました。それも全部、師匠のおかげです」


 そこからしばらく黙り込む少年。

 軽く息を吸い込んだアルは、再び吾輩を見ずに話し始めた。


「建物も畑もいっぱい増えて、橋とかお風呂とかまで。みんなもとても元気になって、父さんなんかすごくやる気で逆に心配になるくらいです。それにロナが毎日、笑顔で笑ってくれてます。言うだけじゃ全然足りないと思いますが、ずっと……ありがとうって心から思っています。だから――」


 アルはようやく吾輩へと顔を向ける。

 その眼差しには、前にも見たことがある表情が浮かんでいた。

 たった一人で恐れられていた森を抜け、吾輩たちの元へやってきた時の顔だ。

 

「もし僕の命が入り用でしたら、いつでも仰ってください。それくらいしか、差し上げるものはないですが」


 しばし視線を合わせる吾輩と少年。

 覚悟を宿らせた魂か。これは成長が楽しみで仕方ないな。


『ああ、期待しているぞ。その時まで存分に鍛えておいてくれ』

「…………はい」


 立ち上がった吾輩は、教会を抜け村を後にする。

 それなりに有意義な夜だった気もしないではないな。

 

 黒棺様の洞窟に戻ると、四体の骨が揃って待ってくれていた。


『戻ったぞ』

『お帰りなさい、吾輩先輩』

『倒す?』

『よう、腹が減ったが、何か土産はねぇのか?』

『お帰りっす! どこで遊んできたっすか?』

『残念ながら遊んできたわけでもないし、手土産もないぞ。あと倒すような相手もだ』


 黒棺様に近付いた吾輩は、その側面をじっくりと眺める。

 

<能力>


『多肢制御』 段階0→1

『再生促進』 段階0→1


『気配感知』5『末端再生』5『平衡制御』5

『聴覚鋭敏』5『頭頂眼』4『反響定位』4

『集団統制』3『危険伝播』3『麻痺毒生成』2

『視界共有』2『臭気選別』1『腕力増強』1

『賭運』1『暗視眼』1『角骨生成』1

『生命感知』1『火の精霊憑き』1『水の精霊憑き』1

『精霊眼』1『地精契約』1『肉体頑強』1


<技能>


『軽足熟練度』 段階1→2

『受け流し熟練度』 段階7→8

『片手棍熟練度』 段階7→8

『水の精霊術熟練度』 段階0→6


『盾捌き熟達度』5『両手剣熟達度』5『土の精霊術熟達度』5

『弓術熟達度』5『騎乗熟達度』3『片手剣熟達度』2

『短剣熟達度』2『火の精霊術熟達度』1


『火の精霊術熟練度』10『回避熟練度』9『指揮熟練度』7

『投剣熟練度』7『鑑定熟練度』6『罠感知熟練度』6

『罠設置熟練度』6『射撃熟練度』5『片手斧熟練度』5

『投擲熟練度』4『両手棍熟練度』3『両手斧熟練度』2

『両手槍熟達度』2『骨通信熟練度』2『投斧熟練度』1

『投槍熟練度』1『見破り熟練度』1『動物使役熟練度』1


<特性>


『刺突防御』 段階7→8

『斬撃耐性』 段階6→9


『毒害無効』10『打撃防御』6『圧撃防御』6

『聖光耐性』6『炎熱耐性』5『腐敗耐性』3

『呪紋耐性』1


<技>


片手剣・短剣

『三回斬り』 段階7

『三段突き』 段階8

『地走り』 段階2

『鋏切り』 段階2→3


片手斧・片手棍

『強打』 段階4

『裏打ち』 段階3→4


両手剣

『弾き飛ばし』 段階4→6

『兜割り』 段階5

『水平突き』 段階4


『精密射撃』 段階1

『重ね矢』 段階4

『早撃ち』 段階8

『二連射』 段階5


『盾撃』 段階7→8


精霊術

『地段波』 段階9

『地壁』 段階5→6

『地槍』 段階2→10→『地牙』 段階0→2

『火燐』 段階0→3

『水凝』 段階0→4


近接技

『痺れ噛み付き』 段階3

『齧る』 段階3


その他

『飛び跳ね』 段階9

『脱力』 段階8→9

『魂糸結合』 段階1

『威嚇』 段階4→5


未分類

『聖光』0『頭突き』0『爪引っ掻き』0

『体当たり』0『くちばし突き』0『棘嵐』0

『突進突き』0『乱心』0『水槍』0『水浄』0

『凶音旋風』0


<戦闘形態>


『双剣士』 段階2→3

『射手』 段階2

『盾持』 段階2→3

『戦士』 段階2→3

『精霊使い』 段階6→7


 総命数 2404→3015



 今年一年が始まった段階での数値を記しておこう。

  

『……赤カマキリ戦から、全く上がってないな』

『最近は少し、戦闘から遠ざかってましたからね』


 新技能は多肢制御と再生促進か。

 もうちょっと数値を増やしおくべきかな。極めると凄そうだし。


 技能や特性には、ほぼ変化が見られないな。


『大きく上がったのは吾輩が煉瓦作りで使いまくった水の精霊術だけか。サボってたな、ニーナ』

『俺っちも煉瓦の組み立てで忙しかったっすよ。あとチッサイさんと遊ぶのも忙しかったし』

『倒す!』

『やっぱり遊んでたんじゃないか。タイタス、しっかり引き締めてくれよ』

『えっ、俺か? まぁ本格的な冬が来れば、小鬼どももそうそう動けんだろうし、見回りを減らして訓練に回すってのも有りか』

『そうですね。おっさんがやるって言うなら、付き合ってやっても良いですよ。ちょっとだけならですが』

『助かるぜ、ゴーさん』

『だから、ちょっとだけですよ!』


 技は新規が少しだけ増えているな。

 

『地槍が消えて、地牙になったか。上位に当たる技だったんだな』

『この火燐ってのは、こないだの尋問の時に出てましたよ』

『生き物をじっくり丁寧に焼いたせいか。しかし成果がこれだけだとはな……』


 十五人の男女を捧げたが、残念ながら新しい能力や技能は現れなかったのだ。

 

『水分を集めるのは水凝か。水壁が消えてるということは、下位にあたるのか。しかし技もほとん増えていないな』

『もっと強い相手と遊ぶと、技もたくさんヒラメくっす。強敵が欲しいっすよ!』

『うむ、最近少しばかり、村作りにかまけ過ぎて本質を見失っていたな』


 二度の小鬼戦や水棲馬、大カマキリとの戦いを通して、吾輩たちは大きく成長した。

 そこら辺の訓練した兵隊なら、まず負けはしないだろう。


 だが、そこで満足して立ち止まる訳にはいかない。

 もっともっと強くなる必要があるはずだ。

 そうでないと安心できないからな。


『よし、今年の春までの目標を立てておくか』

『俺っちは武器の扱いを極めるっすよ!』

『僕は技を増やしたいですね』

『倒す!』

『俺は耐性を増やすか、もっと鍛えておきたいな』

『では、吾輩は新能力を獲得できるよう努力しよう』


 よし、新たな目標も出来たことだし、今年も気分一新で頑張っていこう。

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