第百二十二話 激闘の成果
洞窟に入ると、ちょうどタイタスが小鬼たちの死体を黒棺様に捧げているところだった。
黒棺様の支配する霊域内で生き物が死ぬと、その魂は総命数に加算され、特別な力を持っていると能力や技能として棺に刻まれる。
だが霊域の外で死んだ場合は、魂は回収されず能力も手に入らない。
しかしその死体の一部を棺に直接捧げることで、所有する力や技を吾輩たちにも使えるようになるのだ。
今回、霊域外で手に入った死体は小鬼五体と豚鬼三体。
それに一角猪が一頭。
タイタスは装備を全て引き剥がした死体を、黙々と投げ入れていく。
そして最後に猪の体の下に手を差し込み、一息に持ち上げる。
いや、息継ぎなどしていないから、一気に持ち上げたか。
躊躇う素振りもなく猪を棺に押し込もうとする大きな骨を見て、吾輩は思わず歯音を立てた。
「なあ、タイタス。その猪なんだが……」
「うん、どうした? 吾輩さん」
「そのままじゃ入らないぞ」
黒棺様は意外と小さかったりする。
「それもそうだな。足を切り落とすか」
「かなり気に入ってたのか? その一角猪」
「ああ、良い乗り心地だったし、生気も美味かったしな。何よりも俺によく懐いてくれていた」
吾輩には理解しにくいが、タイタスは使役する生き物に対して、やや感傷的な部分を持ち合わせているようだ。
そう言えばロクちゃんも昔、愛用してた鉈をなくして落ち込んでいたことがあったな。
ふむ、ここで元気付けてやるのも、上司である吾輩の役目か。
「そうだ、タイタス。その猪で装備を作るのはどうだ?」
「む、装備か。……どうだろうな」
「嫌なのか?」
「こいつは俺が強引に戦いに巻き込んだようなもんだ。だがそんな俺を助けるために、最後まで力を貸してくれた。このまま安らかに眠らせてやったほうが良い気がしてな」
「いや、その猪もお前と一緒に戦うのは、好きだったと思うぞ」
一角猪自体、普段からかなり好戦的だしな。
あと黒棺様に捧げるのは、安らかな眠りとは程遠いと思うが。
「そもそも今回の戦闘で、鎧の必要性は十分に分かっただろ」
「それを言われると厳しいぜ。まあ、確かにこいつの皮なら、俺の体をすっぽり覆えそうだしな」
「あと多分だが、またお前と一緒に戦えるのなら、その猪も嬉しいんじゃないか」
「ふっ、似合わないこと言ってるな、吾輩さん」
「たまには良いだろう。どうだ、タイタス?」
吾輩の言葉に大きな骨は、黙ったまま首を巡らせて棺を眺める。
そして視線を吾輩に戻すと、担いでいた猪を静かに地面におろした。
「そうだな、頼んでいいか?」
「うむ、任せておけ。素晴らしい鎧に仕上げてやるぞ」
これで少しは、タイタスの気も晴れればいいがな。
それに革鎧にしておけば破損しても棺に入れれば、後からでも能力を回収できる点は美味しい。
「よし気持ちを切り替えて、タイタスと五十三番の頑張ってくれた成果を確認するか」
<能力>
『水の精霊憑き』 段階0→1
『気配感知』5『末端再生』5『平衡制御』5
『聴覚鋭敏』5『頭頂眼』4『反響定位』4
『集団統制』3『危険伝播』3『麻痺毒生成』2
『視界共有』2『臭気選別』1『腕力増強』1
『賭運』1『暗視眼』1『角骨生成』1
『生命感知』1『火の精霊憑き』1『精霊眼』1
『地精契約』1『肉体頑強』1
<技能>
『忍び足熟練度』 段階9→10→『軽足熟練度』 段階0→1
『動物調教熟練度』 段階8→10→『動物使役熟練度』 段階0→1
『回避熟練度』 段階8→9
『指揮熟練度』 段階6→7
『受け流し熟練度』 段階6→7
『片手棍熟練度』 段階6→7
『弓術熟達度』 段階4→5
『盾捌き熟達度』5『両手剣熟達度』5『土の精霊術熟達度』5
『騎乗熟達度』3『片手剣熟達度』2『短剣熟達度』2
『両手槍熟達度』2『火の精霊術熟達度』1
『火の精霊術熟練度』10『投剣熟練度』7『鑑定熟練度』6
『罠感知熟練度』6『罠設置熟練度』6『射撃熟練度』5
『片手斧熟練度』5『投擲熟練度』4『両手棍熟練度』3
『両手斧熟練度』2『骨通信熟練度』2
『投斧熟練度』1『投槍熟練度』1『見破り熟練度』1
<特性>
『刺突防御』 段階6→7
『圧撃防御』 段階5→6
『呪紋耐性』 段階0→1
『毒害無効』10『打撃防御』6『斬撃耐性』6
『聖光耐性』6『炎熱耐性』5『腐敗耐性』3
<技>
片手剣・短剣
『三回斬り』 段階6→7
『三段突き』 段階8
『地走り』 段階2
『鋏切り』 段階2
片手斧・片手棍
『強打』 段階3→4
『裏打ち』 段階2→3
両手剣
『弾き飛ばし』 段階3→4
『兜割り』 段階5
『水平突き』 段階4
弓
『狙い撃ち』 段階9→10→『精密射撃』 段階0→1
『重ね矢』 段階2→4
『早撃ち』 段階8
『二連射』 段階5
盾
『盾撃』 段階7
精霊術
『地段波』 段階9
『地壁』 段階5
『地槍』 段階2
近接技
『痺れ噛み付き』 段階3
『齧る』 段階3
その他
『飛び跳ね』 段階8→9
『脱力』 段階6→8
『念糸』 段階9→10→『魂糸結合』 段階0→1
『威嚇』 段階3→4
未分類
『聖光』0『頭突き』0『爪引っ掻き』0
『体当たり』0『くちばし突き』0『棘嵐』0
『突進突き』0『乱心』0『水壁』0
『水槍』0『水浄』0『地双牙』
<戦闘形態>
『双剣士』 段階1→2
『射手』 段階1→2
『盾持』 段階1→2
『戦士』 段階2
『精霊使い』 段階6
総命数 3191→2404
このところ下僕骨をちょいちょい増やしていたので、総命数はまたも減少してしまった。
一応、目標値の3000に達してみたが、機能の追加や開放はなかったしな。
能力は水の精霊憑きのみか。
これは水棲馬の能力で確定していたので、こう来たぞって嬉しさがないのが残念だ。
「小鬼や豚鬼は何もなしか。残念だったな、吾輩さん」
「いや、もしかしてだが、地精契約が増えている可能性もある。前向きに考えていこう」
能力のカウントは表示されないからな。この辺りも、融通を効かせてほしいところだ。
「水に棲む馬って、また楽しそうなのと遊んでいたんだな。で、水の精霊はどんな感じなんだ?」
「忙しくてまだ手付かずだ。水を操れるのは、色々と応用出来そうなので楽しみではあるな」
続いて技能か。
前回の確認からあまり時間が経ってないので、一気に上がったのはないな。
「忍び足が軽足に、動物調教が使役になったか」
「ロク助のやつか。俺、どうもあの足音消す奴は苦手でな」
大体は黒鬼どもとの戦闘の成果のようだ。
地味に指揮熟練度が上がっているのは、頑張って中隊を行軍させたおかげか。
「刺突と圧撃の耐性が上がったのは、小鬼と豚鬼のせいか。苦労したからなぁ」
「なぁタイタス、この呪紋ってなんだ?」
「吾輩さんが知らないものを、何で俺が知ってんだ?」
「また気づかぬ間に、耐性が増えたのか……」
考えてもよく分からない物は、一旦、横に置いていこう。
最近、置きっぱなしの疑問が、増える一方な気もするが。
気を取り直して、次は技の確認だ。
「それぞれ良い感じに上がっているな。特に今回は弓が良いな」
「ああ、ゴーさんが頑張ったからな」
「精密射撃に魂糸結合と、一度に二つも上級技にするとはな」
しんみりとした眼窩で、五十三番の破片が埋まった頭骨を眺める吾輩とタイタス。
「ところで、今日は無口だな。ゴーさん」
「ふむむ、そろそろくっついた頃合いかと思ったんだが」
頭蓋骨を持ち上げると、ポロンと欠片が落ちてしまう。
「あれ?!」
「おいおい、外れちまったぞ」
持ち上げて見てみたが、五十三番の魂力は明らかに感じ取れる。
割れた縁の部分も、じわじわと再生はしているのだが。
「もしかして、魂力が足りないから結合しきれないのか……」
「それっぽいな、吾輩さん。こんな小さい状態じゃ、たいした糸も作れんだろ」
こいつは困った。
微妙に骨片の体積は増えていっているので、そのうち元に戻れるのは確実だと思うのだが……。
「五十三番がこのまま不在だと、吾輩の負担が凄く大きくなってしまうぞ」
「骨自体は再生してるんだし、そこを何とかしてやるのはどうだ?」
「再生の強化か? だが末端再生はもうこれ以上は上がらんしな」
「新しい再生を追加すれば良いだろう」
「能力自体を増やすのも大変なのに、狙って取れる訳が――そうか!」
前に物凄く回復してみせた未回収の生き物が居たな。
だが、アイツは――。
「ゴーさんには借りがあるんでな。多少の無茶は呑ませて貰うぜ」
「……そうか。吾輩も腹の骨をくくるとするか」
「あと貸しもあるんで、さっさと戻って貰わんとな」
そう言いながらタイタスは、太い指で五十三番をコツンと弾いてみせた。
その途端、破片が小さく身動ぎする。
吾輩にはそれが、五十三番が嫌がって顔を背けたようにも思えた。