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第百二十一話 戦利品の選別


 

 森の洞窟に引き返した吾輩は、早速、畑の横の小屋に急いだ。

 扉を開けると、そこには地下へ伸びる階段が見える。

 この地下通路と複数の部屋は、前に男爵の騎士たちを生き埋めにしてから作り直したものであった。


 今回は出来れば崩したくないので、割りとしっかり目に作っている。

 やや深めに掘ってあるし、坑木もちゃんと組んで天井が落ちにくい工夫もしてみた。


 以前の洞窟は小山の中だったので、あまり広げるわけにもいかず全体的に小じんまりとした規模だった。

 しかし今の地下通路は制限がないので、色々と作りたい放題である。

 

 と考えていたのだが、以外なところで問題が発生した。

 地下通路は暗すぎて不便だったのだ。


 もちろん吾輩たちには暗視眼があるが、この眼は小さな光を増幅することで成り立っている。

 光源が全くない状態では、流石に役に立たないのである。


 打開策としてまず考えたのは、偽魂創生で生み出した火吹きトンボを通路に徘徊させるアイデアだった。

 偽の魂である彼らは食事も排泄も行わず、ただ燃える翅で飛び回ってくれる非常に便利な灯りである。

 ――はずだった。


 そう、しばらくもしない内に、吾輩はある恐ろしい出来事を思い出したのだ。

 空気が濁りやすい地下で、火を延々と燃やし続けるとどうなるか? 

 あやうく盗賊砦の惨劇を再現しかけたため、この案は取りやめになった。

 

 空気の循環も兼ねた明かり取りの穴を開ければ解決するが、そうなると地下通路は構造的に脆くなってしまう。

 誰かに見破られる可能性も上がるだろう。

 火の精霊を呼び込まない灯りがあれば解決するのだが…………。


 仕方がないので実用のための部屋は増やさず、通路の拡張工事だけを続けることにした。

 穴を掘るだけなら、反響定位でも十分に事は足りるからな。


 現在はかなり掘り進んでおり、近いうちに村への地下通路が開通する予定だったりする。

 完成すれば森の中を行き来する回数が減るので、目撃される危険性も下がるはずだ。


 地下へ潜った吾輩は、骨たちに武装を外して通路の採掘作業の続きを命じた。

 短期間で大規模な土木工事が進められたのも、全て下僕骨たちのおかげである。

 不眠不休で作業できるのは、本当に骨の強みだな。


 それと重装骨兵たちは、そのまま各部屋の警備を命じる。

 こいつらの装備は一度外すと、次に着けるのが非常に面倒なのだ。

 鎧を着せたまま穴掘りさせると、色々と傷んでしまうしな。

 今回の運用で足の遅さも露呈したし、重い装備はどうにも使い所が難しい。

 

 予備骨部屋に駆け込んだ吾輩は、急いで余っている頭骨を手に取った。

 この部屋は階段に近いので、視界に不自由はない。


 五十三番の破片を、頭蓋骨の丸みに当てて大体の場所の見当をつける。

 あとは黒曜石の欠片でカリカリと削って、ぴったりとハマる穴を彫っていくだけだ。

 

 時間が少しかかったが希望通りの穴が開けれたので、五十三番を嵌めてみる

 ピッタリとほぼ隙間なく収まってくれた。

 しばらく眺めてみたが反応はない。

 もしかしたら馴染むのに時間が要るのかと思い、小脇に抱えたまま外に出る。


 次の目的地は黒棺様だ。

 洞窟に近付いていくと、すでに色々と作業は進んでいた。


「捗ってるか、ニーナ?」

「こっちはもうすぐ終わるっすよ」


 下僕骨たちが取り掛かっていたのは、水棲馬の解体だった。

 何とか生きたまま圏内に運び込めたので、黒棺様に肉体を捧げずに魂と能力は回収できたようだ。


「こいつらの肉はかなり美味いらしいぞ。燻製にするとか言ってたな」

「新年のお祭りのご馳走にするらしいっす。またお祭り、行ってみたいっすね」

「倒す!」

「そうだな、次も一緒に行くか。ああ、皮の方は剥ぎ終わったら、川で洗うよう命令しといてくれ」

「うう、この黒いネバネバにはゾッとするっすよ!」


 水棲馬の青い皮も貴重な物らしい。

 それにたてがみも、毛織物に加工出来るとか。

 最初は腹も立ったが、終わってみれば男爵の贈り物は中々の品だったな。

 

「しばらくは大人しいとは思うが、そろそろこちらも何か手を打つべきか……」

「黙って殴られているのは、性に合わないっす!」

「倒す!」

「うむ、その時が来たら存分に倒しててくれ、ロクちゃん」

 

 馬は二体に任せて、次は村長と鍛冶屋の側へ行く。

 

『何かわかったか? 村長』

「これは骨王様。色々と聞いてみたのですが、あまり詳しくは知らないようですね」


 村長の前には、黒い鎧を外され質素な服だけになった豚鼻の男たちが座り込んでいた。

 拘束具でもあった鎧から開放されたせいか、気の抜けた顔で空を見上げている。

 ただ時折、血走った目を、カラスたちが漁っている馬の臓物へ走らせていたが。


「彼らは豚鬼オークと呼ばれる種族です。ここからもっと西の方に棲んでいると聞いたことがあります」

小鬼ゴブリンとはどういった関係なんだ?』

「彼らの話では氏族の長から捧げ物として、小鬼に引き渡されたと言ってますね」

『ふむ、どういった経緯であそこに居たのか分かるか?』

「よく分からないと言ってました」


 本当にただ命令に従うだけの戦奴のようなモノか。

 村長の表情を窺うと、眉根が微妙に寄っているのが見えた。

 やはり角を持つ存在に関しては、嫌悪感を隠しきれないようだ。


『ウンドは何かわかったか?』 

「いやはや、こんな金物は初めて見やしたよ。造りも随分と手の込んだ品で」


 鍛冶屋が調べていたのは、死体から剥ぎ取った分を含めた六体分の黒い鎧だった。

 かなりの重さがあるのだが、硬さに関しては並の鉄を上回っているらしい。


『打ち直しは出来そうか?』

「どうでしょう。持って帰って試してみないと、どうにもこうにも」

『そうか、あとで運ばせておこう』


 今回の戦利品は、かなり数となった。

 水棲馬六頭分の魂と能力、それと肉と皮。

 小鬼の持っていた細い杖。

 短弓と黒い鏃の矢、寸法が小さいので着れないが皮鎧四着。

 それと黒い鎧と大きな長盾が六揃い。


 最後に豚鬼の捕虜三名と。

 

『ありがとう、助かった。こいつらの処分は保留するので、また通訳を頼むかもしれん』

「わかりました」

『橋の工事は明日の朝には再開すると、親父殿に伝えておいてくれるか。そう言えば村の様子はどうだ?』

「もうすっかり落ち着いてます。今は手の空いた村人で、柵の周りを見回りしておりますね」

『そうか。御苦労だったな』

 

 頷きながら村長は、吾輩が抱える骸骨へちらりと視線を向ける。

 何かしらの事情を察したのか、顔を上げた村長は真っ直ぐに吾輩を見据えてきた。


「俺に出来ることでしたら、なんでも命じて下さい。骨王様」

「あ、俺も頑張らせて貰いますぜ、王様。どんどん言い付けてくだせぇ」

『ああ、頼りにしてるぞ』


 吾輩の一言に、村長と鍛冶屋は屈託のない笑みを浮かべてみせた。



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