勧誘
昔のクラスメートの連れから電話があって。
久しぶりに会おうよ、てな話で、出掛けていったら。
新興宗教の勧誘だった。
普通のファミレスで、「この世には六つの世界が…」、「全てを捨て去り…」とか。
あの時かいた汗の冷たさったらなかったね。
しかも、適当にお茶を濁して帰ろうとしたら、「地獄に堕ちてもいいのか!」とか言いながら、どこまでも追っかけてくるんだぞ?
軽くホラーだったよ。
ふう。
かくして。
また今日もこの部屋で、なんだかへんてこな日常のひとこまが綴られたりするのである。
甚だ不本意ながら。
★
ある日の放課後。
「よーむいんさーん!たーすーけーてー!」
「お助けくださいませ!用務員様!」
「………」
今日のぽちと姫は、やけに慌てた様子で、どたばたとやって来た。
またまた厄介ごとの気配ですな。
「どうしたんだ」
「へんなひとに追われてんだよー」
「訳のわからないことを延々と喚きながら、ずーっと、追っかけてきますの!」
はあ。
そりゃまたずいぶんとアグレッシブなストーカーだねえ。
む。
廊下に人の気配が。
がらりと引き戸が開けられたかと思ったら、
「どぅあ!」
両手を広げ、両足をぴしっと揃えたポーズで、ぴょいんと、二十センチくらい?跳びあがった謎の人物が、無駄に開脚して、へんてこなポーズで着地を決める。
ば!
ば、ば!
さらに、無駄なポーズをずぴし、ずぴしと決めながら、最後に、抱き合って様子を見ていたぽちと姫にずびっしい!と右手の人差し指を突き付けた。
「さあ!君達も!俺と一緒に地球の平和を守らないか!」
「………」
「………」
「………」
えーと。
この人?てなニュアンスをこめてぽちと姫を見やると、二人は、ぶんぶんぶんと激しく首を縦に振った。
その間にも、目の前の彼は忙しくポーズを変えていたりする。
そろそろ暑くなってきてるのに、着こんだ茶色の分厚い革ジャケットの袖を半分捲り上げ、白い革製の指ぬきグローブに、白のジーパン。
靴だけは学校指定の上履きなのが、妙にもの悲しい。
「………あー、その、地球の平和を守る、てのは、何?」
今度は俺に対してずぴし、と指差す。
こらこら。
「よくぞ聞いてくれた!」
いきなりタメ口ですか?男子生徒君。
「説明しよう!恐ろしい陰謀により結成された悪の組織部に対抗すべく!この俺!大天道弾が!あらゆるヒーローが結集するヒーロー部を結成したのだ!」
「………はあ」
それはあれ?
五人のところも、メタリックなところも、改造人間なところも、みんな一緒くたになってるってこと?
それはどうなの?アイデンティティ的に。
あとさあ。
“部”ってなんだよ、“部”って。
部活動なの?それ。
「………」
んー。
悪の組織部の方も非常に気になるところであるが、まずは目の前の彼から処理するとしようかね。
「この二人を、君の作った部活に勧誘したいと、そういうこと?」
ずぴし。
「ああ!その通りだ!地球の平和を守るためにな!」
ば!
台詞の切れ目切れ目にポーズ変えるのやめてくれないかなあ。
暑苦しいんですけど、梅雨もまだあけてないし。
「さあ!共に行こう!」
ふむ。
「なるほどなあ。メタリックなヒーローさんには、美人の相棒が欠かせないもんな」
びくん、と。
おや、大天道君が固まってしまったぞ。
「五人のところとか、今の定番は可愛い女の子が二人だもんな。せめて一人は欲しいところだよね、最低でも」
びびくん、と。
おや、動き過ぎたのかな?大天道君の額に汗が。
「夢を抱き続ける熱い男達はたくさん集まった。でも、女の子は一人もいない」
びくびくん、と。
おや、風邪かな?小刻みに震えてるね、大天道君。
「ちなみに、大天道君は、察するところ、メタリック系かな?それとも改造人間系?」
「め、メタリックなあれで、それです」
お、丁寧語になったねえ。
「コンバットスーツはどうしたの?」
「え、鋭意製作中でして、その」
「そうなの。つまり君、ただの人、だよねえ、今」
「う、ううう」
ようやく学生らしい殊勝な態度になったねえ。
「帰ろうか、今日のところは、さ」
「………はい」
最初の勢いはどこへやら、トボトボと出ていく大天道君。
「あ、それと」
「は、はい?」
「本名はなんていうの?」
「っ………た、田中ですう~!失礼しました~!」
ハハハハハ。
だと思ったよ。
「あの、九条様?」
「なんだいセナちゃん?」
「用務員様と、えと、大天、じゃなくて、た、田中様?とのやり取り、私、全く理解出来なかったのですが」
「あたしも半分くらいしかわからなかったー」
「半分はわかるのですか…」
★
おやつを食べたぽちと姫が帰ったあと。
「しつこいんだよお前ら!散れ!去ね!しっ!しっ!」
愛加辺先生か。
珍しくお怒りモードですな。
「用務員さーん、ちょっと避難させてよー」
「失礼致します」
あらら、羽原木先生も一緒に?なんだか困惑顔ですね。
「どうしたんですか?お揃いで」
「いやー、なんかさっきから生徒がしつこくてー。「是非とも我が組織の女幹部に!女将軍に!」とか訳のわからないことを延々と喚きながら、まとわりついてきやがるんもんで」
「………」
あー。
うん。
おお。
ま、気持ちはわからんでもない。
素材的にはばっちりだよね、二人とも。
愛加辺先生はその手の衣装とか見栄えするだろうし、羽原木先生はそれに加えて戦闘力も抜群だしな。
「なんで用務員さんはそんな納得した顔してんの?しかも、じろじろ舐めまわすように見詰めてくれちゃってさ。何?欲情でもした?」
いやいやいや。
「しかし女幹部だの女将軍だの。あの男子達は何を言っていたんだ」
多分だが。
顧問という言葉が、彼らの中で、活動に相応しい言葉に脳内変換されたんじゃなかろうか。
なんにしても。
また変な部活が増えたな、この学校。
こちらは48話、6月15日更新分の差し換えの新48話となります。




