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勧誘

 昔のクラスメートの連れから電話があって。


 久しぶりに会おうよ、てな話で、出掛けていったら。


 新興宗教の勧誘だった。


 普通のファミレスで、「この世には六つの世界が…」、「全てを捨て去り…」とか。


 あの時かいた汗の冷たさったらなかったね。


 しかも、適当にお茶を濁して帰ろうとしたら、「地獄に堕ちてもいいのか!」とか言いながら、どこまでも追っかけてくるんだぞ?


 軽くホラーだったよ。


 ふう。


 かくして。


 また今日もこの部屋で、なんだかへんてこな日常のひとこまが綴られたりするのである。


 甚だ不本意ながら。





 ある日の放課後。


「よーむいんさーん!たーすーけーてー!」


「お助けくださいませ!用務員様!」


「………」


 今日のぽちと姫は、やけに慌てた様子で、どたばたとやって来た。


 またまた厄介ごとの気配ですな。


「どうしたんだ」


「へんなひとに追われてんだよー」


「訳のわからないことを延々と喚きながら、ずーっと、追っかけてきますの!」


 はあ。


 そりゃまたずいぶんとアグレッシブなストーカーだねえ。


 む。


 廊下に人の気配が。


 がらりと引き戸が開けられたかと思ったら、


「どぅあ!」


 両手を広げ、両足をぴしっと揃えたポーズで、ぴょいんと、二十センチくらい?跳びあがった謎の人物が、無駄に開脚して、へんてこなポーズで着地を決める。


 ば!


 ば、ば!


 さらに、無駄なポーズをずぴし、ずぴしと決めながら、最後に、抱き合って様子を見ていたぽちと姫にずびっしい!と右手の人差し指を突き付けた。


「さあ!君達も!俺と一緒に地球の平和を守らないか!」


「………」


「………」


「………」


 えーと。


 この人?てなニュアンスをこめてぽちと姫を見やると、二人は、ぶんぶんぶんと激しく首を縦に振った。


 その間にも、目の前の彼は忙しくポーズを変えていたりする。


 そろそろ暑くなってきてるのに、着こんだ茶色の分厚い革ジャケットの袖を半分捲り上げ、白い革製の指ぬきグローブに、白のジーパン。

 靴だけは学校指定の上履きなのが、妙にもの悲しい。


「………あー、その、地球の平和を守る、てのは、何?」


 今度は俺に対してずぴし、と指差す。


 こらこら。


「よくぞ聞いてくれた!」


 いきなりタメ口ですか?男子生徒君。


「説明しよう!恐ろしい陰謀により結成された悪の組織部に対抗すべく!この俺!大天道弾が!あらゆるヒーローが結集するヒーロー部を結成したのだ!」


「………はあ」


 それはあれ?

 五人のところも、メタリックなところも、改造人間なところも、みんな一緒くたになってるってこと?

 それはどうなの?アイデンティティ的に。


 あとさあ。


 “部”ってなんだよ、“部”って。

 部活動なの?それ。


「………」


 んー。


 悪の組織部の方も非常に気になるところであるが、まずは目の前の彼から処理するとしようかね。


「この二人を、君の作った部活に勧誘したいと、そういうこと?」


 ずぴし。


「ああ!その通りだ!地球の平和を守るためにな!」


 ば!


 台詞の切れ目切れ目にポーズ変えるのやめてくれないかなあ。

 暑苦しいんですけど、梅雨もまだあけてないし。


「さあ!共に行こう!」


 ふむ。


「なるほどなあ。メタリックなヒーローさんには、美人の相棒が欠かせないもんな」


 びくん、と。


 おや、大天道君が固まってしまったぞ。


「五人のところとか、今の定番は可愛い女の子が二人だもんな。せめて一人は欲しいところだよね、最低でも」


 びびくん、と。


 おや、動き過ぎたのかな?大天道君の額に汗が。


「夢を抱き続ける熱い男達はたくさん集まった。でも、女の子は一人もいない」


 びくびくん、と。


 おや、風邪かな?小刻みに震えてるね、大天道君。


「ちなみに、大天道君は、察するところ、メタリック系かな?それとも改造人間系?」


「め、メタリックなあれで、それです」


 お、丁寧語になったねえ。


「コンバットスーツはどうしたの?」


「え、鋭意製作中でして、その」


「そうなの。つまり君、ただの人、だよねえ、今」


「う、ううう」


 ようやく学生らしい殊勝な態度になったねえ。


「帰ろうか、今日のところは、さ」


「………はい」


 最初の勢いはどこへやら、トボトボと出ていく大天道君。


「あ、それと」


「は、はい?」


「本名はなんていうの?」


「っ………た、田中ですう~!失礼しました~!」


 ハハハハハ。


 だと思ったよ。


「あの、九条様?」


「なんだいセナちゃん?」


「用務員様と、えと、大天、じゃなくて、た、田中様?とのやり取り、私、全く理解出来なかったのですが」


「あたしも半分くらいしかわからなかったー」


「半分はわかるのですか…」





 おやつを食べたぽちと姫が帰ったあと。


「しつこいんだよお前ら!散れ!去ね!しっ!しっ!」


 愛加辺先生か。

 珍しくお怒りモードですな。


「用務員さーん、ちょっと避難させてよー」


「失礼致します」


 あらら、羽原木先生も一緒に?なんだか困惑顔ですね。


「どうしたんですか?お揃いで」


「いやー、なんかさっきから生徒がしつこくてー。「是非とも我が組織の女幹部に!女将軍に!」とか訳のわからないことを延々と喚きながら、まとわりついてきやがるんもんで」


「………」


 あー。


 うん。


 おお。


 ま、気持ちはわからんでもない。


 素材的にはばっちりだよね、二人とも。


 愛加辺先生はその手の衣装とか見栄えするだろうし、羽原木先生はそれに加えて戦闘力も抜群だしな。


「なんで用務員さんはそんな納得した顔してんの?しかも、じろじろ舐めまわすように見詰めてくれちゃってさ。何?欲情でもした?」


 いやいやいや。


「しかし女幹部だの女将軍だの。あの男子達は何を言っていたんだ」


 多分だが。


 顧問という言葉が、彼らの中で、活動に相応しい言葉に脳内変換されたんじゃなかろうか。


 なんにしても。


 また変な部活が増えたな、この学校。


 こちらは48話、6月15日更新分の差し換えの新48話となります。


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