6章 未来
私には未来がわかる。
未来がみえてしまうのだ。
小さいときからそうだった。
皆もあたりまえのように見えているものだと思っていた。
それが私だけだとわかった。
私だけが特別だった。
私は私が怖くなった。
病気だと本気で思い、幼い私は未来が見えるたびに泣き叫んでいた。
どんなに普通というのがうらやましかっただろう。
人は未来がわかったほうがうらやましいとおもうかもしれないが、いいことなんかひとつも無い。
未来がわかるってことは、楽しいことが半減するということ。
悦びが減っちゃうんだ。
驚きもないし。
そのくせ悲しい未来は、より悲しくなる。
悲しむ時間が長くなるのだ。
悲しみは前もってわかっていても悲しい。
薄れることはない。
そして、その悲しい未来を変えることもできない。
いままでどんなにチャレンジしてきたか。
悲しい未来を変えようと必死にもがいたが、結局はそのとおりになるのだ。
未来は変えられない。
変えることが出来ない。
ただ黙ってその時を待つしかないのだ。
どんなに悲しいことが待ち受けているとしても。
子供の頃、未来がわかる私は、小学校でちょっとした有名人だった。
見えたことを友達に話してしまったからだ。
それが全て的中してしまった、いいことも悪いことも。
そんな出来事から、私はいじめにあった。
悪いことが当たればおまえがやったんだとか、おまえのせいだとか、言われたし、白い目でみられたりもした。
それからは決して人に自分の力を言わないと誓った。
いままで、悲しみや、それを回避する術もない自分の不甲斐なさ、そして絶望に一人で耐えてきたことか。
祖父が死ぬのなんて5年もまえからわかっていた。
当時まだ元気だった祖父に、未来がわかっていた私はどう接していいのかわからなく苦悩した。
祖母のときは1週間前にわかった。
1週間涙を流しつづけた。
なんて声をかけたらいいのかわからなかった。
言ったところで、未来はかわらないのだから。
いつもいつも未来がみえるわけでなく、ランダムなのだ。
5年後の未来だったり、1ヶ月後の未来だったり。
場所も、人も、時も、どんなことかもすべて突然私の頭の中に映像として飛び込んでくる。
あのときも私は未来をみた。
あの流れ星をみたあと、そう見てしまったのだ。
1日に2回未来をみたことなどいままでなかった。
1回目はクリスマスが雪になるということ。
そして2回目は・・・。
確かにあれは彼だった。
どんなにこれが見間違いならいいと思ったことか。
これほど自分の力をうらんだことはない。
これほど自分の無力さ、不甲斐なさを痛感したことはない。
私は見てしまった。
一番みたくないものを。
彼の死を・・・。
そこは病院だった。
いつもの様に、私の頭の中に突然入ってきた映像。
それは古いビデオテープを再生しているような感じで、所々ノイズが入っていたが、十分にわかる映像だった。
暗い感じの線香の匂いが立ち込める個室。
その個室の端っこのほうで声をだして泣いて座っている私がいた。
目は真っ赤になっていて腫れていた。
その私の視線の先には1つのベッドがある。
その上には誰かが横になっていた。
彼だった。
私は声にならない声をあげた。
なぜ?
なんでこんなものをみせるの?
私がなにかした?
なぜこんなことに・・。
今までで一番つらい未来。
心底この力をうらんだ。
神様を恨んだ。
どうして私だけが。
涙がとまらなかった。
とめることが出来なかった。
ただただ涙があふれてきた。
となりにいる彼が、いま、私のとなりに座っている彼が、死ぬ・・。
たまらず私は彼を抱きしめてしまった。
強く強く、離さないようにと。
大好きな彼が死ぬ・・。
残酷な未来。
さっき星に願いをかけたばかりなのに・・。
なんでこんなことに・・。