長かったね、長かったよ。
どれだけ飛び回っても四方八方から次々に攻撃される。
私はそれを避け続けていた。
怪我こそしていないが、息は上がりきっていて頭がくらくらする。
酸欠状態になってしまってるんだろう。
「はっ…はぁ……」
「まだまだこれからですよ!」
にも関わらず、花恋は全然疲れた様子を見せない。
動き回ってないにしても能力を使うこと自体体力を消耗するはずなのに。
。。。
ーーすごく前。
「そろそろしますか?」
します……?
あ、あら?
もうそんな時間かしら。
まだ夜は更けてなくってよ?
もちろん私は、いつでも準備万端だべさ!
「かーれんっ、ちゅっ」
ウィンク付きの大サービスで投げキッスする。
すると目の前の花恋の顔が怪訝なものに変わった。
「わかっていると思いますが練習ですよ?」
「うっ、わかってるやい!!」
ちょっとぐらい現実から逃げたっていいじゃないか!
渋々花恋から離れて遠めに距離を取る。
「さっきも言ったように今度はもう少し厳しく掛かりますねー!」
「お手柔らかにお願いしまーす!!!」
叫び返すと、それを合図に一本のツルが高速で飛んできた。
「まずはレベル1ですっ!」
「この程度!!!!」
軽々と避けて蹴り飛ばす。
それはみるみるうちに遥か彼方へと消えていった。
いやー、さすがにこれくらい余裕になったよ!
自分の成長に乾杯。
「この調子ですっ!」
遠くで嬉しそうな声が聞こえた。「どんどん増やしていきますよ!!」
どんどん増え………ん?
「レベル2!!」
今度は二本に増えて挟み撃ちに迫ってくる。
あーん
私、二人にそんなに情熱的に迫られたら体が保たなぁい
♡
なんてふざけてる暇もなく、
急いで飛び立つ。
次の瞬間、さっきまでいた所には2つの深い窪みが出来ていた。
こいつ、危ないぜ…。
「まだ余裕ですね!! もう一本増やしますよ!」
なぜかそう判断されて、それからどんどん増やされていった。
「どこをどう見て余裕だよおおおおお!!」
。。。
こうして今に至る。
あ、また増えた。
苦しさを抑えつつ飛び回る。
「……っ」
右肩に軽く痛みが走る。
少しだけ血が出ていて切り傷のようになっていた。
それでも全く大したことがない怪我だ。
花恋はわざと場所をずらしてくれたのかもしれない。
「美羽さん?」
なんで攻撃が迫ってたのに気づけなかったんだろ。
五感まで鈍ってきたのかな。
ほんとにそろそろーー
「そこまで!!」
空間中に大きな声が響き渡る。
声がした方を見ると姫がいた。
二人のところに飛んで行く。
「終っても……いいの?」
「ええ! 二人ともよく頑張ったわね!!」
その言葉を聞いてその場にへたり込んだ。
能力を解く。
やっと、緊迫感やら重労働やらから開放された。
「あ、やっぱり右肩……。」
花恋が私の右肩を見てそう呟いた。
ストイック花恋から元の状態に戻ってる。
悲しそうに見えるのは、責任とか感じちゃってるのかな?
「これ? ちょっと掠っただけだよ?」
「私が怪我をさせてしまったのは同じです、ごめんなさい。」
花恋が制服のカッターシャツの胸ポケットをゴソゴソし始めた。
私はその様子に釘付けになった。
ポケットで手を動かす度にシャツが引っ張られて露出部分が少し多くなっている。
さらによく見ると、首筋から汗が流れていて、素肌にシャツがぴっちり張り付いているではないか!!
ーーピコーン
その途端に、私の中の何かが満タンまでチャージされた。
疲れが一気に飛び去っていく。
「ありました! 美羽さん、これをーーー」
「花恋!!!」
感極まってギュッと抱きついた。
柔軟剤かシャンプーの匂いかわかんないけど良い香りがする。
これはローズかな?
花恋の匂いも好きなんだよねー。
「はぁ~~~」
甘い香りをたっぷり堪能する。
「あーもう!! 暑苦しいわね!!!」
姫にベリベリ剥がされた。
「花恋も何照れてんのよっ」
「わ、私は照れてなんて…」
「花恋照れてんの?? マジで!?」
「あんたは黙ってなさいっ」
「ふぎゃっ」
空手チョップを喰らった。
うぅ…
結構痛いし、変な声出たし。
「少しじっとしていてくださいね。」
ーーシュッ
「うわっ!?」
液体の飛沫がかかって傷口が染みる。
花恋が消毒液をかけてくれていた。
「念には念を、ですよ………はい、出来ました!」
「おーっ、ありがとう!!」
液をティッシュで拭き取ると最後に絆創膏を貼ってくれた。
え、これって胸ポケットから出したんだよね?
消毒液にティッシュに絆創膏、こんなにいっぱい入るものなの?
「本当の戦闘になったら、これくらいの傷なら日常茶飯事だから早く慣れなさいね。
私達能力者は基礎運動能力とか回復力は、一般人よりずっと高いんだけど。」
傷を慣れろって言われてもなー。
あんまり酷かったら痕とか残っちゃったりするしねー。
乙女に傷跡は厳禁だと何度言わせれば……うんたらかんたら。
「で、時々外からあんた達の様子を見てたんだけど、最初でそれだけ使いこなせるようになったなら十分、むしろ十分過ぎるくらいよ。」
「そうなんですか?!
私はてっきりまだまだ不合格ラインと…」
いやいや、それおかしい。
「あんたは上を向きすぎなのよ。」
「そうだったんですか…。」
どうやら納得したらしい。
うん、それがいい。
「ってことは私達、合格!?」
「そうよ!
もう寮に帰ってもいいわよ。」
「やったねっっ」
「はい!! やりました!」
顔を見合わせて笑い合う。
こういうひと時っていいよね。
。。。
「ーー最後に、隔離空間の外では無闇に能力を使わないこと。
以上で解散!!」
終わったー!!
ひと仕事した後の疲労感だよ…。
結局不合格者は出ずに済み、さっき隔離空間の展開の仕方を教えてもらった。
授業外でも自主練がしたい時に使えばいいらしい。
なんとなくみんなが帰っていくのを眺める。
来る時に使った白い扉を開けて、真暗のトンネルみたいなところにどんどん生徒達の姿が消えていく。
「ところで、美羽。」
「何でしょう!」
「忘れてないわよね?」
「何を?」
ーーニヤリ。
なんだよぅ
人が黄昏れてたってのに!!
「罰よ。あんたが約束破って能力を使った!」
あははー、そんなこともあったねー。
すっかり忘れてたに決まってるよ!!
「次の土曜日に校庭に来なさい。」
土曜日に呼び出し…?
これはまさかでぇ
「デートじゃないわよ?」
「わかってたさ!!」
土曜日をちょっとでも楽しみに待とうと思ったっていいじゃん!!
このリアリストめ!
「そんなにあからさまに落ち込まないのっ。
早く帰るわよ!!」
「はいはーい。」
「『はい』は一回!!」
「…なんかお母さんみたい。」
私のお母さんだけじゃなくて、母親的な人はみんな言ってるイメージがある。
何?
お母さん特有の決めゼリフ?
姫は周りを見渡して誰も残っていないのを確認すると、
私にキスをした
……のではなく、扉に向かって歩き出した。




