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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。

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三日目の拍動―― 焼き切れぬ心臓のために

掲載日:2026/07/08

※こちらは、しいなここみ様主催『やきにく短編料理企画』と公式『夏のホラー2026』のの一品です。m(_ _)m※


当初|;・ω・)<おかしい……「最高のステーキわっしょい!」の予定だったのに……?


この物語には、大きな驚きも派手な怪物もありません。

ただ、小さな音が鳴り続けます。

できれば静かな場所で、お読みください。


それだけで十分です。

──それは、国家が討伐を諦めた最後の災厄だった。


その肉に宿る『頑健』の効能は瞬く間に世界へ知れ渡り、切り分けられた巨躯の九割は、絶対的な権力を持つ冒険者ギルド主導の競売へと消えていった。


『死闘の末に討ち取られた、伝説の巨竜。』


そう歴史には記されている。


だが、討伐に立ち会った(英雄たち)は誰一人として、『あの心臓が止まるところを見た』とは書き残していない。


命を賭した、わずか四名に授けられたのは、「功労賞」……四等分された『心臓』。


──(いにしえ)より伝わる『竜類解体録』第七巻・心臓の項より――


「心臓は分割後も心臓。三昼夜、絶えず火に置けば静まる。されど途中で火を絶やせば――(以後の記述は消失)」



一、義務と血脈:騎士団長アルドリック


国に忠誠を捧げ、高潔で私生を持たずに戦ってきた男。


彼の肉は当然『王家への献上』か『騎士団長である自身の延命』に使われると誰もが疑わなかった。


だがアルドリックには、幼い頃から離れず耳の奥に居座り続けている記憶があった。


妹は昔、兄に抱きついて「お兄様の心臓って、大きな音がしますね」と言ったことがある。


当時アルドリックは笑った。


「生きているからだ」


妹も笑った。


「ああ、よかった」


「わたくしが長生きしても、お兄様がいない世界だったら、意味がないもの」


そんな戯言が、彼の胸の奥で錆びずに残っていた。


誰にも告げず、アルドリックは辺境の療養院――治療法の無い胸の病で床に伏す、実の妹のもとへ肉包みを運んだ。


──。


炉にかけた瞬間、微かな脈の音が病室に満ちた。


看護に慣れた(癒やしの力を持つ)修道女でさえ、最初はそれを妹の心音だと思い込んだという。


三日三晩、アルドリックは妹の寝台の脇に膝をつき、その音を聞き続けた。


──。


──。


次第に彼は、二つの響き――肉のものと、妹のもの――が、微妙にずれていくことに気づいていく。


妹の脈が弱まるたび、肉の音だけが規則正しく、変わらぬ間隔で打ち続ける。


まるで、置き去りにする側が誰であるかを、あらかじめ決めていたかのように。


片方の音が消えた。


──三日目の夜明けまで、彼は妹の寝息を一度も聞かなかったことに、その時初めて気づいた。


あの朝、どちらが先に止まったのか。


アルドリックは、一度も口にしていない。


以来、彼は誰かの寝息を聞くことができなくなった。


ただ、彼が佩く剣の鞘には、妹の言葉を刻んだ小さな真鍮の板が、誰にも気づかれぬまま留められている。



二、知の無限、命の有限:魔術師エルゼ


「人の寿命は、世界の真理を解き明かすにはあまりにも短い」


エルゼは迷わず炉に火を入れた。


三日三晩、書斎に籠もり、羊皮紙にその様子を記録し続ける――何のことはない、彼女にとってそれは単なる観測対象、精緻な実験に過ぎなかった。


──。


だが二日目の夜、彼女は妙なことに気づく。


魔術のペン先(自動書記)が紙を打つ速さが、いつの間にか肉の刻む間隔と同じになっている。


三日目の朝、羊皮紙を見返すと、二日目まで書き留めたはずの記録が、最初から自分の(生命活動)を記録していたことに気づいた。


──。


──。


指先の脈と、肉の音と、部屋の隅で刻む古時計の音までもが、いつからか寸分の狂いもなく重なっていた。


そしてその夜半、音が一瞬遅れた気がした。


エルゼは慌てて羊皮紙へ顔を近づける。


――違う。


遅れたのは、肉ではなかった。


自分の心臓だった。


竜は変わらない。


三日間、寸分違わず同じ速さで打ち続けている。


変わっていくのは、いつも人間の側だけだった。


どれが自分の生きている証で、どれが「すでに死んだはずのもの」の残響なのか、彼女にはもう判別がつかなかった。


──食べ終えたあとも、彼女の耳には長らくその響きがこびりついていた。


数百年を経た今も、静けさに包まれた書斎で羽ペンを止めるたび、あの三日間の音がふと蘇る。


それだけが最後に残った、人間だった頃の彼女の記憶になっている。



三、不老不傷という「呪い」:盗賊シオン


竜の断末魔が山ひとつを揺らしていた。


剣も槍も通らぬ鱗の隙間、心臓の真上――暴れ狂う巨躯の脈打つ胸に、たった一人で飛び乗った男がいた。


僧侶の護りが炎を割り、魔術師が竜を地に縫い止め、騎士が鱗と肉をこじ開けた一瞬、灼熱の血飛沫に肌を焼かれながら、シオンは短剣を、一秒に満たぬ静止の刹那にだけ、正確に突き立てた。


その瞬間、竜の胸の下で、世界が一度だけ静かになった。


咆哮も、炎も、血の音も、すべてが止まり、最後に聞こえたのは、巨大な心臓が打つ、たった一度の音だった。


──それだけが、今でも耳の奥に残っている。


その男は、手渡された肉塊を、一度も炉にかけなかった。


「長く生きて、何になる。仲間が死に、時代が変わり、自分だけが取り残されるだけだ」


――それは表向きの理由だ。


本当のところ、彼は火にかけた瞬間から始まるという、その音に耐えられなかった。


竜の胸の上で聞いた、あの最後の一打が、いまだ耳の底にこびりついていたからだ。


三日三晩、その音を聞き続けた者は皆、変わると噂されている。


何かを諦めた目に。


シオンは、肉を裏ルートで売り払った。


金貨を積み上げた酒場の片隅、彼の奢りで周囲が騒ぐ最中、彼はふと耳を澄ます癖がついていることに気づく。


宴の喧騒の底に、何か規則正しい音が混ざっていないか、確かめるように。


誰かが話すのをやめた、その静けさだけは、彼を今も落ち着かなくさせる。


確かめる癖だけは、金では売れなかった。


毎年決まって同じ酒場へ足を向ける。


理由は、シオン自身も覚えていない。



四、神域への畏れ:僧侶ミリア


神の教えに従い、傷ついた仲間を癒し続けてきた聖職者。


彼女にとってその肉は、『神の秩序を乱す禁忌の果実』以外の何物にも見えなかった。


食べれば、より多くの人を救う時間が手に入る。


しかし死を遠ざけることは、神への冒涜ではないのか。


ミリアは炉に火を入れないまま、三日三晩、祈り、問い続けた。


――それでも、初めの晩から、肉は打っていた。


火にかけずとも、微かに。


彼女の掌の中で、包みごしに伝わってくる、あの規則正しい響き。


止める術を、ミリアは知らない。


焼き切らねば止まらぬのなら、焼かなければ、いつまでも続くのではないか。


三日目、彼女は肉を聖箱に厳重に封じ、教会の地下深くへ埋めることを決意する。


土をかぶせても、あの音が地の底から響いてくる気がして、ミリアは幾度も足を止めた。


一度。二度。三度。


──その夜、地下から戻った彼女の部屋の扉を、控えめに叩く音が響いた。


四度。五度。六度。


その間隔に、ミリアは覚えがあった。


三日間、耳の奥で聞き続けた、あの拍動と寸分違わず同じ速さだった。


ミリアは動けなかった。


声を出すことも、扉を開けることもできなかった。


もし扉の向こうに、誰かが立っていたら。


……いや。


誰もいなかったら。


一度。二度。三度。


規則正しい音は、夜明けまで狂うことなく続いた。


翌朝、恐怖に震えながらミリアが扉を開けると、廊下には誰もいなかった。


誰の足跡も、気配すら残っていなかった。


安堵して深く息を吐き、胸に手を当てた。


一度。


二度。


三度。


一度。


いつから、それが自分の鼓動だったのか。


ミリアには、もう分からなかった。


最後まで読んでくださり、ありがとうございました。m(_ _)m


ひとつだけ、お願いがあります。

私もやってみますから。


──胸に手を当ててみてください。


その拍動は――

本当に、あなたのものですか。





……(感想を受けての追記)

(ノಠ益ಠ)ノ彡┻━┻ <皆さまの心臓おかしいんかーい!(マテ)


かと言う自分の胸で|╹▽╹)<音を感じ肉かったデス!

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― 新着の感想 ―
 かぐつち・くまナぱ(便乗期間限定w)さん、こんにちは。 「三日目の拍動―― 焼き切れぬ心臓のために」拝読致しました。  巨竜、討伐。  心臓は4つに分割して、報酬として渡された。  騎士団長の…
ありがとうございます。おかげさまで大変なことに気づきました。 読み終わって自分の心臓に手を当ててみたら── まったく拍動がない! 手首の脈をみても、何も感じませんでした……。 私、もう、死んで…
竜の心臓やばっ! 討伐されたあとまで、人を苦しめてしまうなんて…(ToT) はい、胸に手を当ててみました。 いつも通りの鼓動な気がしましたが……去年の健康診断では規則的に狂っていると言われました、…
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