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人生は上々だ -人生、山あり谷あり、舞台あり-  作者: 志村けんじ


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帰省

 この『ソルティドッグ』活動休止の話は、所属事務所から、すぐに関係各所に周知され、特に迷惑を掛けるということもなかった。


 ただ公認ブログでも発表されたことから、見ているのがほぼファンだけということもあってか、オレたちの予想とは反してブログ内のコメント欄は荒れるに荒れた。


 コメント欄には、1000件近いコメントが寄せられ、それが飛び火して他のSNSでも賛否両論となり炎上した。


 その内容は、ファン側からは「あんなに面白かったのにもったいない」や「早く活動を再開してほしい」など、もちろん好意的なものだったが、そうでない人たちからは、「別に、もっと面白いお笑いコンビは他にも沢山いる」や「こんな名前も知らないようなお笑いコンビが、わざわざ活動休止を発表する必要ある? これって事実上の解散だろ」など否定的な内容であり、SNSとAIでその統計を取ってみると、割合も6対4となんとも言いにくい差であったのだが、オレたちふたりはあの公認ブログになった当初から、今どき珍しくそれ以前にSNSは一切していなかったので、そのことを知るよしもなかった。


 そこから数ヵ月が過ぎ、8月のお盆休み、オレは久しぶりに仙台の実家に帰省した。


 母親からは「お帰りなさい」のすぐあとに。


「あんたまだお笑い芸人なんてやってるの? もうテレビに出れるわけでもないんだから、もういい加減に辞めたら? 伯母さんたちもみんな辞めろって言ってたわよ。せっかく良い会社にも入れたんだから……ね」


 と言われた。


 こんなようなことは、たまに掛かってくる電話でも、毎回同じように言われる。


 それが心配してくれる親心から来るものだとはわかっているが。


「あぁ……。考えてる」


 と、いつも通り素っ気なく答える。


「そぉ。それならいいけど」


 オレは用意されていた客間に行くと、すでに敷かれていた布団に寝ころんで、なにをすることなくただ天井を見つめる。


 元オレの部屋だったところは、いまは大学生の弟の部屋となり、その弟の部屋だったところは、その下の高校生の妹の部屋となっている。


 せっかく久しぶりに帰省したはいいが、特になにかすることもなく、そこから3日間は只々寝て過ごすのだが、これを堕落と言わずしてなんと言おうか。したことといえば、寝ながらスマホで先輩芸人のネタを少し見たことぐらいで、さすがに自分でもこれでは身体に悪いと思った。なので。


「母さん。ちょっと車借りてもいい?」


 オレは、ちょっとドライブがてら外に出てみることにした。


 なんとなく走らせていた車は、八木山の急坂を登り、八木山動物公園駅の信号のところまで来ていたのだが、オレはこの動物園に雄と雌のちょうど同い歳の二頭のライオンの子どもがいたことを思い出す。


「あいつらも、またずいぶんと大きくなったんだろうなー。久しぶりに見てみるか」


 と思い立ち、そのままそのライオンを見に動物園に向きを変えた。


 入場ゲートを通り、キリンと象の屋外展示の前を通って猿たちの檻の前を過ぎ、ライオンの屋外展示の前に行くと、何かがおかしい……。


 そこには立派にたてがみを生やした一頭の雄ライオンしかいない。


 屋外展示のガラスには、大きくなった雌ライオンの写真が貼られ、その雌ライオンが病気にかかり亡くなってしまったと追悼文があった。


 これまで何度か来たことがあるだけで、特になにか特別な思い入れがあったわけではないが、おかしな話、なんだか親しい友人が亡くなったような感じになり、知らずに涙が頬を伝わった。


 結局、この5日間の帰省で、忸怩じくじたる思いになったとか、特になにもない。


 あまり仲の良くない弟には、「まだお笑い芸人なんてやってんのかよ」と小馬鹿にされ、年の離れた妹にはただ小遣いをせびられるだけで、特にネタになるようなこともなかった。


「早くお笑い芸人なんて辞めるのよ」


 と仙台駅まで車で送ってくれた母親には最後にまた念を押されたが、それを濁した返事で誤魔化して、オレは東京に帰りまたいつもの生活に戻っていった。



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