オーガ
俺とさっきゅんは王城の城門近くで張り込んでいた。目標は郵便配達員である。
とはいえ、王城を出入りする人たちの中で、だれが郵便配達員か分からない。
しばらく待っていると、一人の男が大きなバッグを持って王城の方に向かうのが見えた。
そしてそのバッグにはなんと〒マークが入っていた。こいつだ。
つか、〒マークって日本だけじゃね? 誰が作った世界なんだよ、ここは。
俺は、さっきゅんに指示を出した。
さっきゅんは男の前面に回り込むと。何かやった。多分魅了の魔術だ。
男は、さっきゅんと話し始めた。そして結構長く話し込んでいる。多分交渉中だ。冷静に考えると、いくら魅了されていても任務に背くなんて事はないよな。ところが、しばらくするとさっきゅんが一通の封筒を持って戻ってきた。
さっきゅんは俺に向かって敬礼した。
「さっきゅんより報告します。大公猊下よりの親書をお借りしてまいりました。明日返せばいいそうです」
「え、どうやったんだよ」
さっきゅんは胸に手を当てて目をつぶった。
「セスカさんは言いました『口八丁手八丁』」
「まじか。そんないい加減な指示でよく成功したな」
ともかく無事に任務完了だ。
俺たちが宿に帰ろうとしたとき、いきなり、あいつと出っくわした
「おまえらあああ、さがしたぞうううう!」
二メートルの大男だ。さっきゅんに難癖つけていた、あいつだ。
俺のシーフの勘が今回も逃げろと言っている。しかし、さっきゅんを残しては逃げられない。
俺はさっきゅんと大男の間に入り、ガンを飛ばしてみる。
「あんだ? このあいだは、ばかにしてくれたよな。このおれさまからはしってにげるとか」
俺はさっきゅんに、逃げるように指示する。しかし、さっきゅんは逃げようとしない。
「レオナ様が一人で危険な目にあうのに私だけ逃げられません」
「いや、俺一人ならなんとかなるが、さっきゅんをかばいながらは難しい。頼むから逃げてくれ」
「セスカさんに教えてもらった魅了の魔術なら対抗できます!」
「殴りかかってくる相手に魅了なんて無理ゲー過ぎるだろ……」
さっきゅんは俺の後ろからおどりでて、大男に魅了を放った。
「やめて! ひどいことしないで!」
大男の態度が変わる。
「ち、ちびじゃりはいいよ。許してやる。だが、おめーはだめだ」
大男のターゲットは俺だけになった。
「だめです! レオナ様にひどいことしないで!」
大男はさっきゅんを無視して俺におどりかかってくる。
魅了の魔術があっても、無条件に言うことを聞かせることはできないらしい。
だが、ターゲットが俺だけになった事で動きやすくはなった。
俺は振り返ると全力疾走し、通りの角を曲がる。大男も俺についてくる。
俺は前回同様、角を曲がってすぐに壁にのぼった。今回はツルツルの壁だが、シーフレベル千六百万の俺にのぼれない壁はない。てのひら全体を吸盤状にして壁に吸い付け、腕の力だけでのぼっていく。
五メートルほど登ったところでハイド状態に入った。俺は気配も殺気も完全に断ち、しばし待つ。
大男はすぐに通りを曲がってきた。そして、またしても俺を見失っている。
今回の俺は大男を見逃しはしなかった。
壁をけって背後から大男に襲い掛かった。
「な……も……」
大男の首に左腕を絡ませ、右腕でダガーを首に突き付けた。
「命が惜しければ、質問に答えろ。お前は何者だ」
大男は激しく抵抗している。だが、俺は腕を離すことはない。
「いえるわけねえだろう!」
俺はダガーで少しだけ首を突いた。
「言わなければ命は無い。五秒待ってやる」
男はさらに激しく抵抗する。
「ばかな。おまえまほうのぶきを……。オーガだよ、ばかやろう。さすんじゃねぇぞ。このやろう」
オーガといえば、夜な夜な人間を襲い生きたまま食らうというモンスターだ。
いや、確かそうだったと思う。自信ないけど。
さっきゅんが衛兵を連れてきた。
「おまわりさん、こいつです!」
さっきゅんナイス! と言いたいところだけど、この状態だと襲ってるのが俺で襲われてるのが大男じゃないか。
それに俺はシーフだから衛兵に顔を覚えられたくないので。
さらにまずいことに、俺が使っているダガーは盗品だ。
俺はオーガから飛び降りると、ダガーをしまい、間合いを取った。
衛兵は剣を抜き、呼び子を吹いた。
ピー!!
衛兵が仲間を呼んでいる。衛兵が増えればオーガは不利になるが、俺はもっと不利になる。
俺は衛兵の方に回り込む。
「衛兵さん、こいつオーガです!」
衛兵は落ち着いて答える。
「わかっている。こいつは指名手配犯だ」
衛兵は俺の方を見ていない。チャンスだ。顔を覚えられないうちに逃げるべきだ。
「俺たち狙われているんで、逃げてもいいですか」
衛兵はオーガに視線を向けたまま答えた。
「ここは私がくいとめる。離れていたまえ」
俺はさっきゅんの手を引くと逃げ出した。
「レオナ様。こいつはレオナ様を……」
「さっきゅん。今はちょっとそれどころじゃないから」
呼び子の音を聞いた衛兵があちこちから集まってきている。
俺はそれとは逆に、オーガから逃げた。
いや、衛兵から逃げたという方が正しいか。
俺たちはどんどん走っていく。
「レオナ様、もう安全なのではないでしょうか?」
さっきゅんは後ろを振り返りながら言っている。
「だめだ。振り向くな。俺はシーフで、さっきゅんはサキュバスだ。顔を覚えられるとまずい。それに、後で事情を聴きに来られても困る。後は衛兵に任せよう。魔法の武器しか効かないから、てこずるかもしれないが」
そこでふと気づく。
おれはオーガを傷つけていた。オーガを傷つけるには魔法の武器が必要だ。俺が魔法のダガーを使っていたことが、ばれてしまう。
衛兵はダガーを捜索するかもしれない。
いや、考えすぎだ。そんなところを細かくつついてくる奴はおるまい。
オーガというとごっつい人型モンスターというのが普通ですが、ここでは、ほぼ人間の姿ということでひとつ納得していただきたい。




