王城に潜入
俺たちは宿に戻るとセスカに書簡を渡した。
俺たちがオーガのことを話すと「それは大変だったわね」と、あまり気にしていない様子だ。
「セスカは俺たちのことが心配じゃないのかよ」
「心配してるわよ。でも、ダガーから身バレするなんて考えすぎよ。魔法の武器なんて、冒険者ならだれでも持っているものよ」
そう考えると冒険者ギルドに登録していないのは得策だったと考えられる。
衛兵が冒険者にあたりをつけたとしても、俺にはたどりつけまい。
深く考えるのはよそう。
セスカは印璽をコピーするために、封緘印に何かを塗り付けている。
「紙もインクも蝋も最高級のものを使ってるわね。偽物を作るにもお金が必要よ」
自信家のセスカが弱気なことを言う。
「少しなら稼いで来られるけど、どうする?」
「セスカファミリーの一員として、ケチな盗みなんかしちゃだめだわ。ケチが染みついちゃうわよ。私たちの盗もうとしているのはこの国なんだから」
「じゃあどうする? 宿屋も一部屋しかとってない貧乏暮らしなのに」
「私が宝飾品を売ってお金にするわよ」
セスカはトランクを開けると貴重品入れを取り出し、宝飾品をザラザラとベッドにあけた。
「でもそれは、セスカが身分を偽るときに使う商売道具なんじゃないのか?」
「背に腹はかえられないわ」
「わかった。俺が行ってくるよ」
「はあ? 大事なものなんだから、ひとになんか頼めないわよ。レオナじゃ買いたたかれそうだわ」
「じゃあ、さっきゅんが魅了を使ってから売れば高値になるんじゃないか?」
「それもそうね。さっきゅんに頼むわ」
「かしこまりです。セスカさん」
「その間、というか当面の俺のやるべきことは?」
セスカは言いにくそうにしていたが、結局言った。
「あー、んー。王城に忍び込んでみてよ」
「そんないきなり大胆な……」
「私の潜入は時間がかかるわ。その間、少しでも王家の情報が欲しいわ。たとえば、私が王家の誰につかえればいいのか分かると助かるわ。今偽造している書簡のあて先が分からないもの」
「なるほど。やってみるよ」
「そんな安請け合いしていいの?」
「多分大丈夫だろう。千六百万レベルのシーフがどのくらいすごいか、自分でも分かってきたところだし」
「じゃ、お願いするわね」
「かしこまりー、セスカさん」
「キモいわよ」
セスカさんは、なかなか厳しい。
セスカファミリーは、それぞれの仕事に動き出した。
セスカは、書簡の偽造に。さっきゅんは宝飾品を売りに。俺は王城に忍び込むために。
俺は変装すると王城の城壁を見て回った。
石造りの城壁で、上るのは簡単そうだ。しかし、さすがは王都。城壁の上にいる警備兵が周囲ににらみをきかせている。
警備兵の目を盗んで城壁を上るのは難しそうだった。
千六百万レベルのシーフならば、ハイド状態で登れば見つからない可能性もある。しかし、警備が手薄になる瞬間をねらってのぼった方がいいのは確かだ。
正午になると、どこからか鐘の音が聞こえてきて城壁の上にいる警備兵が交代しはじめた。新しい警備兵があらわれ、それぞれの警備兵が順番に交代していく。交代の際もすきらしいすきはない。
俺は鐘が聞こえる距離の酒場で時間をつぶすことにした。
おそらく、午後六時ごろには、また衛兵の交代があるだろう。しんぼう強く待っていればいずれ隙ができる。そのほんの一瞬を見逃さなければ、チャンスはやってくる。
俺は酒場でラムネ二杯でねばった。店員には嫌な顔をされているが別に構わない。どうせNPCだ。エールを飲まないのは苦そうだからだ。日本の法律とは関係ない。
午後6時ごろ、日が西に沈む前に鐘がなった。逢魔が時だ。西日がきつい。
一部の城壁は西日の影になってかなり暗くなっている。おそらく城壁の上からでは城壁はよく見えないだろう。
交代する衛兵はたいまつを持っているかもしれない。だが、西日がきつすぎてたいまつに火をつけても意味はないだろう。
衛兵たちは交代するためにお互いを見ているため、城壁を誰かが上ってくるとは思ってもみないだろう。
チャンスは今しかない。
俺は西日の影になっている城壁をハイド状態で登り始めた。この程度の城壁ならば、普通に走るくらいの速さで登ることができる。
衛兵からは城壁を上ってきている者がいるか確認するためには、意識的に見降ろさないと無理だ。さらにこの西日の影だ。おそらく俺は視界にとらえられまい。
俺は城壁を上りきると、衛兵の視線がそれた瞬間を見て城壁を乗り越えた。
そして城側の壁を素早く降りて行った。
周囲には生き物はいない。罠もない。俺は庭園の生け垣に身を隠した。潜入成功だ。
ここで深夜を待って行動を開始しよう。




