ウィッシュリング
セスカは俺の仕事ぶりに大変満足している様子だ。
「レオナが初めて役にたったわ」
ひどい事を言いながら、指輪型の焦点具をためつすがめつしながら、喜びをあらわにしている。
「セスカ、それはどのくらいの価値があるもんなんだ?」
「値札は見なかったの? この宿屋と向かいの酒場と向こう三軒くらい買い取れる価値よ」
「いや、セスカの魔術がどの程度増幅されるもんなんだ?」
「増幅はされないわ。安い焦点具だと三十パーセントくらい魔力が減衰してしまうのよ。この焦点具なら九十九パーセントの魔力を使うことが出来るわ。マジックユーザーとして二レベルアップに相当するわね」
「そりゃすごいな」
「セスカ、スゴイ、マリョク、スゴイ」
さっきゅんもつられて喜んでいる。
「ディスペルのワンドっていうのは、どうやって使うんだ?」
「そっちはマジックユーザーじゃないと使えないわ。レオナには使えないわね」
「え、そうなのかよ。俺もセスカみたいに『ちちんぷいぷい』とかやりたかったのにな」
「残念ね。ディスペルは魔法の鍵や魔法の罠を解呪するために使うわ」
「なるほど、機械式の罠や鍵はどうするんだ?」
「魔術でなんとかなるわ」
「全体的に魔術でなんとかなっちゃうんだな」
「ディスペルは、自分よりレベルの高い魔術師の魔術をディスペルできないのよ。ワンドを使えば、それを作った人のレベルでディスペルされるわ。このワンドなら三十レベルくらいの魔術をディスペルできるわね」
「なるほどね。そりゃすごいわ」
俺も魔法のダガーを眺めながら、悦に入っていた。
「あ、ダガープラス五はレアだけどあんまり価値ないわよ」
「夢のない事言うなよ。気に入ってるんだから。そういえばセスカの方はどうだったんだよ。何かつかめたか?」
「王城内にはメイドの求人はあるわ。でも、名のある貴族からの紹介状がなければ採用されることは難しいわね。逆に、紹介状があれば欠員がなくても採用の可能性があるわ」
「なるほど、次は紹介状の偽造が必要なわけか」
「そうね。筆跡はなんとでもなるけど、印璽はあった方がいいわね」
「印璽って?」
「手紙の封に、蝋をたらして家紋を入れるあれよ」
「あー、見たことあるわ。テレビで」
「そこでレオナの出番というわけよ。貴族同士でやり取りされている手紙が一通欲しいわ。そこからなんとか偽造するから」
「偽造は詐欺師の領分って事か」
「まあね」
「ウイッシュリングはどうする?」
「そう! ウイッシュリングなんてよく盗めたわね」
「あれは心臓に悪い。店員に口から出まかせで特別室に案内させたんだよ。矛盾点を突かれたら、そこでおしまいだった。店員と話さないといけない盗みなんて、もうやらないよ」
「あら、肝っ玉が小さいことですわね。相手を煙に巻くぎりぎりの攻防が面白いんじゃない。詐欺師のだいご味でしょう」
「俺、詐欺師になったつもりないし」
「セスカファミリーとしてはそこら辺にも慣れてもらわないと困るわね」
「まあいいけどね。そのウイッシュリングだけど、どのくらいの効果があるんだ?」
「『願いをかなえる』効果よ。願いって言っても、そんなに大きな願いはかなわないわ。どうかしら。一発何かに使ってテストしてみる?」
「五チャージしかないのにテストで一チャージ使っちゃうのか?」
「どんな感じに効果が出るのか、見ておいてもおかしくはないわよ」
「じゃあ、さっきゅんがりゅうちょうにしゃべれるように願ったらどうだろう」
「面白いわね。やってみましょう」
セスカはウイッシュリングの一つを右手の人差し指にはめた。そして目を閉じた。
特に何も起こらない。
「おい、セスカ、何も起こらないじゃないか」
「おかしいわね。さっきゅん、何かしゃべってみてよ」
さっきゅんが突然話し始めた。
「はい。急に言葉が分かるようになって驚いています。大切なマジックアイテムを使っていただきありがとうございます。ふつつかものですが、これからもどうかよろしくお願いいたします」
さっきゅんはぺこりと頭を下げた。
俺は拍手した。
「すごいじゃないか。音もなく願いがかなった。ちょっとした奇跡だよ」
「すごいわね」
セスカも拍手を始めた。
さっきゅんは「恐縮です」と言って俺たちに何度もお辞儀をする。
「でも、私たちのあいだで、できることはやって、どうしてもできないことだけをリングに頼みましょう」
「そうだな。あと四チャージになっちゃったからな」
「レオナにも二チャージ分わたしておくわ。盗みがばれて連行されそうになったら使ってみて」
セスカは残ったリングを俺に渡した。
「わかった。念のために持っておくよ。まぁ、俺はでかすぎる仕事をしてしまったからな。ほとぼりが冷めるまで、のんびりさせてもらうよ」
「だめよ。紹介状を作るために何かの郵便を一通盗んできてよ」
「人使いが荒いなあ。そうだ、さっきゅんに頼んでみたらどうだろう。郵便配達員に魅了をズドンと撃って、愛に盲目になったところで一通拝借するという感じで」
さっきゅんが両手を前につき出して、はげしく振って否定する。
「いえ、私にはそんな大役つとまりませんよ」
「いいえ。最低このくらいの仕事ができなければセスカファミリーの一員として認められないわね」
「そんなぁ……」
「大丈夫。俺がついて行ってやるよ」
「え、レオナ様がですか。でしたら私もがんばらないと……」
さっきゅんのほほが赤くなる。
セスカはすかさずつっこんだ。
「ちょっとさっきゅん。あなたレオナのことが好きなの?」
「はい。出会った時から、助けていただいた時から、ずっとお慕い申しております」
さっきゅんは両手をほほにあてて目を閉じて体をくねらせる。
「あーはいはい。レオナ様はモテて困っちゃいますよねー」
「なんだよセスカ。ってか次に何を言うか分かってるよ。俺がロリコンだっていうんだろ?」
「そうよ」
「いやだから、それは否定しただろ?」
「口では何とでも……」
後は、俺にとってはどうでもいい話が続いた。
そんなこんなで今日も日が暮れる。




