魔術師ギルドではちめんろっぴ
今日の俺はダブルヘッダーだ。魔術師ギルドがある魔法使いの塔に来た。ここで盗むアイテムの下見だ。必要なものは、セスカの焦点具(魔術使いの杖)と、魔術解除の魔術が封じ込められている魔法のワンドと、ウイッシュリングの三点だ。
ギルドは魔法使いの塔の一階にあり、ありとあらゆる魔法のアイテムが売られている。客も何十人といる。
俺は念のためハイドして変装キットを使った。面倒な化粧はできないが、ウイッグと付け髭で、だいぶ印象は変わるだろう。
俺は入ろうとした時に、入場門にいきなりトラップが仕掛けてあることが分かった。身元確認の魔術と万引き防止アラームの魔術がかけられていた。俺はこの罠を外すか外さないかしばらく迷った。
魔法のトラップは解除はできてもかけ直すことはできない。
外せば、盗みの下見に来た奴がいるということと、白昼堂々トラップを外す実力があることがばれてしまう。
検討の結果、万引き防止アラームを鳴らして、身元確認の方は物理的に破壊することにした。
万引き防止アラームを突然鳴らして、びっくりしたふりをして反対側の身元確認のコアとなる玉石を千枚通しで割る。
すぐに係員が飛んできたが、入場前の俺が何も万引きしていない事は明らかなのでそのまま通してくれた。
店内は明るく、様々な魔法のアイテムで満ち満ちていた。魔法のダガーもあった。ダガープラス五と書いてある。プラスがなんだか説明してほしいが、これが一番強そうなのでこれに決める。盗む品目リストにないアイテムだが、欲しいのだから仕方がない。
ソードはいろいろあってうらやましい。ミスリル銀のソードは、わりとスタンダードな品物らしい。ドラゴンスレイヤーとか書いてあるのは、きっとドラゴンを殺せるんだろう。
余分な品物を見るのはやめよう。
目標の一つ目はセスカの焦点具だ。焦点具のよしあしで魔法の精度も強度も変わってしまう。身に着けるアクセサリーとして不自然でないものであり、普通のアイテムといってごまけるものがベストだ。質素な指輪型がよさそうだ。これまた強さが分からないが、きっと一番高いものがいいものなんだろう。これもひとつ決めた。
ディスペルのワンドは意外と安い。チャージ数に比例して値段が上がっていくようだ。これは無作為に二~三本盗めばいいだろう。
ウイッシュリングは見つからない。どうも、高価な品物は特別室に置かれているらしい。そして、特別室に行くには、一見さんではだめらしい。
こういう時に詐欺師ならうまい言葉で案内させてしまうんだろう。俺にはちょっと難しい。
素直に店員さんにお願いしてみる。
「すいません、特別室に展示してあるものが欲しいのですが……」
「どなたかのご紹介がありますでしょうか」
「無いです。ですけど、お金ならあります」
「失礼ですが、あなたのバッグに入る程度のお金で買えるものはありませんが」
ここで、言いくるめを使う。
「ホールディングバッグに入れてきています」
ホールディングバッグというのは、いくらでも物を詰め込んでおける魔法のバッグの事だ。これはセスカから仕入れた知識だ。どや!
「失礼ですがホールディングバッグを見せていただけませんか?」
言いくるめ失敗、さらなるピンチを切り抜けなければならない。
俺は雑嚢の中からポーチを取り出した。
もちろんどこにでもある、普通のポーチだ。
「これですけど」
相手も食い下がる。
「失礼ですが中を見せていただけませんか」
「それはさすがに失礼だろう」
俺はポーチをしまう。
「それではご案内出来かねますが」
「無礼なやつだな。じゃあいい。うちのギルドの者にも、ここで買い物をするなと言っておくよ」
「失礼ですが、どちらかのギルドのメンバーでいらっしゃいますか?」
「たてごと師ギルドの副ギルドマスターだ」
「失礼いたしましたご案内いたします」
言いくるめ成功ですよ。スキルアップしてきたかもしれない。
店員さんは大きな階段を上って二階の部屋が特別室だという。俺が上り始めると店員さんがついてくる。このまましっかりマークされていたら、さすがに盗むのは難しいか。
店員さんは二階の部屋の鍵を開けると中へ案内してくれた。
中は一階のような豪華さはないが、骨董を並べてあるような渋い印象がある。
「店員さん。ウイッシュリングが欲しいのだが」
「こちらです」
部屋の一番奥まった場所にそれがあった。
特別なショーケースに、ウイッシュリング三チャージとウイッシュリング二チャージがある。
どちらも見た目は平凡な銅の指輪だ。
一チャージあたり、御殿がたつほどの値段がついている。
「二つしかないのですか?」
「はい、いまはこの二つしかありません」
十チャージ分は必要だったが、この際半分でも仕方がない。
店員さんは俺にぴったり張り付いていて、離れそうもない。
「すいません、少し考えてもよろしいですか」
「お待ちしております」
あくまで張り付いているつもりらしい。
「いや、そんなところに立っていられると、せかされている気がしてイライラするんですけど」
「失礼いたしました。扉のところでお待ちしておりますね」
店員が扉のところまで下がった。ついに言いくるめに成功した。
ここまで、かなりスリリングな状況だった。下見だけと言わず、今すぐ盗むしかない。
念のためハイド状態になる。特に移動するわけでもなく、自分で意識的に気配を消しただけだ。
この状態からの盗みはシーフギルドの客には気づかれなかった。しかし、こちらに意識を向けている店員さんからはどうなるのか。
俺は魔法のカギ二種類と魔法の罠三種類を外した。さらに特別製の機械式の鍵がつけられていたため、これも解除した。
店員はこちらを見ていない。
ショーケースを開けて指輪二つをふところに入れる。
店員はこちらを見ていない。
俺は店員の方に歩いていった。
店員はこちらを見ていない。
そして店員に声をかける。
「すみませんが買わない事にしました」
店員は俺が目の前にいるのに、見回した。
ハイド状態の俺は、存在を完全に消すわけではなく、存在感が限りなく薄くなるらしい。見えてはいるが、道の石ころ程度の存在感ということだ。しかし、その石が話しかけてくれば話は別だ。
店員はこちらを見た。
「も、もうよろしいのですか?」
「もういいよ。ありがとう」
俺は特別室を後にした。
今日は下見だけのつもりだったが、ウイッシュリングを盗んでしまったために警備が厳重になることも考えられる。
盗む予定だった品物は、今日全部盗んでしまおう。
一階は特別室と違って、罠とカギは一つずつのようだった。盗むこと自体は簡単だ。だが、何十人と目撃者がいる中での盗みは初めてだ。
俺は自分の千六百万レベルを信じて犯行にのぞんだ。
ハイド状態から数人が眺めているショーケースのカギと罠を外した。そして大胆にもショーケースを開けた。その瞬間、ショーケースを眺めている人たちは一斉に目線を外す。そのすきに三本ほどワンドを雑嚢につっこむ。
これはもう、運がいいどころの話ではない。運命の女神の恩寵を受けているレベルだ。
俺は調子に乗って、焦点具とダガーも盗んだ。もはや一階に置いてある品物は全部自分のものといえる。
後は立ち去るだけだ。しかし、家に帰るまでが遠足です。
出入り口には、生きたままの万引き防止アラームがある。少し迷ったが、アラームを解除しない事にはここを出ることはできない。俺はアラームを解除した。もちろん誰も見ていないし疑ってもいない。だが、魔法のアラームはかけ直すことはできない。後日、シーフによる盗難があったことはバレてしまうだろう。これは仕方のないことだ。
俺はそのまま宿に帰った。




