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英雄伝説  作者: かなたみ
二章
13/57

小さな気がかり

 リーアはすぐにクラスに溶け込んだ。明るい、というだけだとイマナとキャラが被りそうになるが、リーアには妙なカリスマ性が存在していた。

 人に好かれる、というよりは人に気にされるというのだろうか。ともかく、彼女と関わった人物は何かしらでリーアを何かと気にかけるようになっていた。

 イギリス人だからなのだろうか。それとも日本語はペラペラ話せて、逆に英語はそこまで流暢じゃないというギャップに何かを感じているのだろうか。ともかく、彼女の周りに人が絶えることはなかった。

「――おい」

「ん、ぐっ!」

 なちはリーアに群がる男の中から一人頭を掴んで引っこ抜く。塔利だった。

「ぐぇぇ! 何しやがる畠瀬!」

「お前……変わり身早すぎるんじゃないのか? 数時間前を思い出してみろ。妙に恰好を付けた格好の悪いお前がいる」

「いや、ほらさ。俺もそう思っていたんだけど、なんかなー。ブチュッされた時に電流が走って……」

 本当に誰にでもするんだな。そんな感想を心の中で漏らす。

「電流?」

「いや、なんか気になるとかじゃないんだ。けれど……なんか、引っかかるというか」

「引っかかる、か」

 なちはリーアを見やる。最初はげっそりしていたイマナも今はリーアの隣で笑顔を見せいていた。

 しかし、なちも妙にリーアの方に目が行くことに気が付いた。

「……?」

 気がかり、と言うわけでもない、ただ何かがひっかかる、そんな感じがした。



 リーアの噂は気が付けば学校中に広がっていた。

 曰く、キス魔。曰く、フランス人形。曰く、似非イギリス人。

 曰く、カリスマの塊。

 リーアはクラスの周りどころか、学校中から注目されていた。

 そして近づいた誰もが、リーアに口づけされ、誰もがリーアのことを気にかけていた。

「すごい人気になったねー。まだ初日なのに」

 放課後。現実逃避をしていたイマナは、一部の記憶を欠如した状態で復活を果たしていた。

「ミーハーなだけだろう……明日になればみんな忘れているさ」

 イマナの問いに対し、なちはそっけなく返す。しかし、なちの頭の中では違和感だけが渦を巻いていた。

(なぜだ……)

 リーアと呼ばれた少女の、顔が妙に頭から離れない。どんな表情をしているのだろうか、今どんなことをしているのだろうか。そんなことばかりを気にかけてしまう。

「畠瀬さーん!」

 まあ、イマナの反対隣にはリーアがいるのだが。

 リーアはなちの腕に抱き着く。

「畠瀬さん! 帰りましょう! なう!」

「……は?」

 似非フランス人形兼イギリス人が何かを言っている。

「私! 感じたんです!」

「……何を?」

運命(デスティニー)!」

「……はぁ?」

 意味不明。頭でこいつのことを考えることを理解するのは至難に近い……そう思った。


 



 結局、なちとイマナ、そしてリーアの三人は一緒に帰ることになった。

(なんでこうなる……)

 突然転校してきた転校生が運命を感じたと自分に付きまとう。これを電波と言わずなんと言う。

 ちなみになちの背後にはクラスメイトの数人が三人を見守っている。

 興味本位で来ているのだろう。運命で繋がった二人、などという妄言をフランス人形が叫んだのだから。

「あ、リーアちゃん! あそこのクレープ屋さんはね、すごく美味しいんだよ!」

「マジですか! 私、甘いものには目がナッシング!」

「…………」

 日傘をくるくるとまわしながら、リーアとイマナが仲睦まじい光景を繰り広げている。

(まあ、特に害は無さそうだからいいか……)

 イマナが二人になったかのような錯覚にとらわれそうになるが、それ以外はなちにとってあまり意味のない事だった。


「そんじゃこの辺で! また明日ねなーちゃん!」

「ああ」

「バーイ! イマナー!」

 下校の分かれ道。いつもの場所でイマナとなちは別れる。何も変わらない、少しイレギュラーがいるがそれ以外は何一つ変わらない。

「それにしてもイマナはだいじょぶなの? あんなに厚着してるけど」

「肌が弱いからな。あんなにはしゃいではいたが、これでも結構早く帰る方だ」

「白子症、ってやつなんだ」

「なぜそっちで知っている……」

「あ、間違えた。アルビノだったけ」

「…………お前は」

「リーアだよ!」

 明るく答えるリーアに、なちはため息を吐く。

「……リーアは、どこから来たんだ?」

「転校元のことか!」

「ああ……」

 この感覚、少し前のイマナを思い出す、となちは思った。そのまま頭を持ち上げたくなる衝動も込みで。

「最初も言ったけどイギリスだよー。アイム、ブリティッシュウーマンー」

「にしては、日本語が流暢に思えるな」

「スタディしたからー」

 相変わらず某芸人を思わせる喋り方だが、特に突っ込みを入れるつもりはなくそうか、とだけ相槌を打った。

 黄昏時。太陽と月がちょうど入れ替わるこの時、世界は橙に染まる。リーアの金髪が光の反射で光り輝いているような錯覚をする。

 なちは少し顔を下げる。

「そんじゃ、私はこっちだから」

 そう言って、なちは片手を上げて立ち去ろうとした。

「畠瀬さん」

 後ろから呼び止める声。

 ふと、一瞬だけ誰が呼び止めたのかわからなくなった。

「なんだ?」

 振り返ってなちはリーアに尋ねる。リーアは確かにそこにいた。

「私たち、友達になったよね?」

「……さあな」

 なちは肩をすくめる。

「けど、こんなのが友達だっていうのなら、なったんじゃないのか?」

「……うん!」

 リーアの顔にぱあっと笑顔が咲く。太陽を背にしているせいか、美しいとまで思ってしまう。

「それじゃあ、畠瀬さんのこと、なっちゃんって呼んでもいい?」

「……好きにしろ」

「うん、好きにします!」

「それじゃあ……また明日」

「じゃあねーなっちゃん!」

 そうして二人は、今度こそ別れる。名残惜しいとか、そんな感情は湧かない。

 ただ、らしくないとだけ、なちは心で呟いた。

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