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茨木くんと名雪さん  作者: 橘悠


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13/42

【レンズのゆがみ】

「見て見て、じゃーん。新メガネ解禁配信~!」

名雪さんが円形のフレームをくるっと回す。黒縁、つや消し。鼻パッドはクリアで主張控えめ。

配信でもないのにサムネみたいなドヤ顔を決めている。

普段はコンタクトだが、今日は急にメガネでのご登場だ。

「配信してないですし……。でも、似合ってますよ。丸メガネ、知性と回避にプラス補正が掛かります」

「でしょ。今日から私は“賢さ+2、回避率+5%、バフ持続時間30分”」

「時間短っ。バフ、切れるの早いですね」

「体力に自信がないのでね」

装備品による効果に体力が関係するのか......。呪いの装備とかで体力吸われてる?


「ていうか、先輩普段コンタクトじゃないですか。なぜ、今日はメガネを?」

「や、いつも買ってるコンタクトが入荷待ちで一週間はコンタクトなし生活を余儀なくされちゃったんだよね」

なるほど、実はこの人相当視力悪いな。よく見るとレンズも相当な分厚さだ。

「うー、大学の世界の端がちょっと歪む……」

名雪さんが眉を寄せた。日中のメガネは久々らしい。

「先輩、メガネは周辺の像が引っ張られて見えますからね。歩幅は少し小さめにした方が安全です」

「賢い……! じゃあ今日は“スニーカー歩行”。ヒールは封印」

「その判断は正しいです。ついでに、階段は手すり推奨で」


「メガネといえばさ、10月1日“メガネの日”ってあるじゃん」

「ありますね。“1001”がメガネの形に見えるから、というやつです」

「その日に合わせて、『Z◯ff』とか『J◯NS』のコラボフレーム増えるの嬉しい。日常を更新できる」

「もはやメガネは推し活のインフラですね。まさにすぐ側で守ってくれる、なくてはならない存在」


「そういえば、漫画とかでメガネはずしたら可愛い.......! みたいな演出、あれって、現実的には可愛い子はメガネしてても可愛いよね!」

「伊達メガネとか度数の低いレンズだとそうでしょうね。度数が高いと、目が小さく見えるので外したときのギャップとかあるみたいですよ」

最近の非球面レンズなどは進化してるから、昔ほどではないとは思うが。

「はい先生。じゃあさ、——」

名雪さんは立ち止まり、メガネを外して少し俯いきながら息をふっとかけ、柔らかい布で円を描くように拭いた。

そして、メガネをかけずにそのまま俺のほうにくるりを向き、顔をあげた。


「——世界、更新完了。バージョン1.0.1」


「パッチノートは“世界全体にガウスぼかしを適用しました”ですかね」

「あと“普段見慣れた先輩のギャップに気づく”は?」

「や、メガネで現れたときがギャップでしたよ。いまは普段の先輩です」

「作戦ミス!」


普段と違う姿の名雪さんでも、中身は普段と同じだ、

いつもよりすこし小さい歩幅のおかげで、駅までの時間が長く感じる。

それは楽しい時間が長く続くということで、悪くない。

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