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# 第四話「魔王再臨」

# 第四話「魔王再臨」


 扉の向こうに魔王がいた。


 現場検証の結果、被疑者は長身の男性であることが判明した。


 魔王が振り返る。


(本製品のご使用前に必ず安全確認を行ってください)


 「来たか」と、魔王が言った。


---


 玉座の間は、想像より広かった。


 石造りの高い天井、左右に並ぶ松明。中央には一段高い台があり、その上に男が立っていた。鎧は着ていない。黒い外套一枚。顔は見えないが、台の上で外套が大きく揺れていた。背は高い。やけに、高い。


 そしてゆっくりと、こちらに顔を向けた。


 目が、合った。


 ドルフが低く言った。「魔王……」


 男は答えなかった。ただ、静かに、四人を見ていた。その目には怒りも憎しみもなかった。あったのは、疲れのようなものだった。長くこの仕事をしてきた男の目だ。


 俺は光剣アルスを引き抜いた。白い光が玉座の間に満ちた。


---


【速報】魔王城最上層にて、勇者アレン・グレイフォード(17)と第七魔王が対峙—— ヴァルロス大陸の命運を賭けた最終決戦が始まった。続報を待て。


---


 俺は剣を向けた。


 五歩の距離。魔王が向き直っている。


 (ここで、決める)


 アレン・グレイフォードは剣を向けた。第七魔王は静かに剣を構えた。二人の間の距離は、五歩。残る三人が後方に展開した。



(ト書き)魔王城最上層。暗い玉座の間。第七魔王、中央に立つ。アレン、上手から登場。剣を抜く。


アレン:——終わりだ。


魔王:(静かに)また始まりか。この台詞も、何度目だろうな。


(照明、変化。)



 「また始まりか。この台詞も、何度目だろうな」


 俺は剣を握ったまま、止まった。


 「お前も、知ってるのか」


 問いかけではない。答えは求めていない。ただの確認だった。


 魔王は答えなかった。


 代わりに、魔王が一歩踏み出した。


 戦いが、続く。


---


【勇者】ゆうしゃ〔名〕 大陸に一人だけ現れる、魔王を倒す使命を持つ者。神器『光剣アルス』を授けられ、魔王城を目指す。用例:「彼は今代の勇者だ」「勇者に選ばれた者には帰る村がある」。類語: 英雄、討魔士。対義語: 魔王。参照: 魔王城、光剣アルス、聖域エルデル。


備考: 過去六代の勇者はすべて魔王を倒している。七代目については現在進行中のため記載不可。


---


 鉄と光の交わる音が、玉座の間に響いた。


 ドルフが左から突撃する。俺は正面から。セリアの詠唱が始まる。ルナは後方で回復魔法を展開する—— それは普通の戦闘の光景だった。


 男は長くこの街で生きてきた。もう何も驚かない目だった。


 「ドルフさん、左!」


 ルナの声が飛ぶ。


 魔王の動きは速かった。ドルフの一撃を受け流し、俺の突きをそれる。それでいて、こちらを倒しにこない。どこか、試しているような動きだ。


 セリアが詠唱を完成させた。炎の奔流が魔王に向かう。


 魔王は、かわさなかった。


 炎の中に立ったまま、俺を見ていた。


---


```

@建国暦_速報

【続報】勇者パーティが第七魔王と交戦中。アレン・グレイフォード、光剣アルスにて魔王と斬り結ぶ。セリア・ヴォートの炎系魔法が直撃を確認。魔王はいまだ健在。

いいね 2,847 RT 1,992


@ルナ_実況(非公式)

 いま回復魔法打ってます!! こわい!!! でもやります!!!!

いいね 8,031


@構造崩壊_読者A

 これって自分がキャラだって気づくやつじゃん? 第1話からずっとそんな感じだったけど、この話ついに全部来てる

いいね 3,104


@セリア_分析メモ(非公式)

 いまこの状況でメモをとっています。なぜとっているんだろう。これを誰かが読むから。誰かが読んでいるから、書いている。

いいね 5,219

```


---


 炎が晴れた。


 魔王は無傷だった。外套の裾が少し焦げている。それだけだ。


 「直接攻撃しかないわ」とセリアが叫ぶ。


 「わかった」と俺は答えた。


 「行くぞ坊主」とドルフ。声はいつもと同じだ。


 俺は光剣アルスを両手で構えた。光が強くなる。魔王の外套が風もないのに揺れた。


 「また、だとしても」—— 背後でルナが言った。「それでも戦う意味はあります」


 誰も返さなかった。でも、全員が聞いていた。


---


【光剣アルス 正しい使い方】


本製品(光剣アルス)をご使用いただきありがとうございます。

以下の注意事項をよくお読みのうえ、安全にご使用ください。


・魔王への刺突は垂直方向から行ってください。斜め方向からの攻撃は効果が低下します。

・本製品は一人につき一本限りの使用となります。

・正しく使用すると、光の奔流が対象に流れ込みます。持ち手には光が届きます。

・使用後、世界に平和が戻ります。その後の本製品の使い道については、ユーザーご自身の判断にお任せします。


注意: 本製品の使用直前に、使用者が何かを思い出す場合がありますが問題ありません。


---


 俺は走り出した。


 五歩の距離を、三歩で詰める。


 魔王の剣が来る。受け流す。そのまま半歩踏み込む。


 光剣アルスが輝いた。


 この光を、俺は知っている。神殿で触れた時の、胸の奥を引っ張る感覚。あの朝と同じ光だ。



【第2章 取材ノート(p.47)より】


「剣が光った。光剣アルスの名に恥じない輝きだった。これを目の前で見た者は、全員が『光そのものだ』と言う。その光が魔王に向かっていく瞬間、私は——」


(以下、欠損)


---


(ト書き)アレン、魔王に向かって踏み込む。光剣アルス、最大出力で輝く。


アレン:——っ!


魔王:(静かに目を閉じる)——そうか。


セリア:(動けない。ただ見ている)……これ、私が言うのね。


ドルフ:(剣を構えたまま、前を見て)考えるのはあとだ。


ルナ:(目を開けたまま、立っている)


(光が満ちる。)


---


 俺は剣を振り抜いた。


 アレンの一撃が魔王に届いた。


【速報】第七魔王、敗北—— 勇者アレンの光剣が直撃。ヴァルロス大陸に平和が戻る見込み。続報に注目。


 本製品のご使用は完了しました。ありがとうございました。


---


 光が、満ちた。


 玉座の間の全てが白くなった。松明が見えなくなった。魔王の輪郭が溶けていくように薄れた。


 俺は光の中に立っていた。剣を握ったまま。手が震えていた。


 「終わったか」とドルフが言った。


 「終わったわ」とセリアが言った。


 「終わりました」とルナが言った。


 終わった。


 光が静かに引いていく。床が見える。天井が見える。左右に倒れた松明。玉座の間の石が、白く染まったまま冷えていく。


 魔王は、もういなかった。


---


```

@建国暦_速報

【速報】第七魔王、敗北確認。ヴァルロス大陸に平和が戻る。勇者アレン・グレイフォード(17)とパーティ全員、無事。

いいね 104,892 RT 88,444


@構造崩壊_読者A

 でも最後、どう終わるんだろう。これ終われるの? 全部崩壊したまま終わるの? 爆発オチなんてサイテー!

いいね 7,304

```


---


(ト書き)光が引く。四人、玉座の間に立っている。魔王、すでにいない。


(長い沈黙)


(ト書き)照明、ゆっくりと暗くなる。


(ト書き)幕が降りる。


---


【勇者】ゆうしゃ〔名〕の項目は、ここで閉じる。


---


 ドルフが大剣を収めた。


 セリアがメモ帳を、閉じた。


 ルナが目を閉じて、一言だけ祈りを唱えた。


 俺は光剣アルスをゆっくりと鞘に収めた。


 男は長くこの街で生きてきた—— その文は、もう来なかった。


 雨の匂いも、しなかった。


---


 静かだった。


 玉座の間が、ただ静かだった。


 戦いが終わって、何もなくなって、四人だけが残っていた。


 俺の中にも、残っているものがあった。


 十七歳。春の朝。神殿の白い光。剣の柄に触れた瞬間の、胸の奥の引力。


 あの朝から、ここまで来た。


 これが何度目かの春だとしても俺は、


 俺はここにいる。


 俺が勇者に選ばれたのは十七歳、春の朝だった。











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