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四章 その2 魯粛の乗船

わけがわからず、苛立っているようすの魯粛だったが、やがて、ふう、と小さくため息をついて、口を開いた。

「こう言うのも妙なものだが、安心してくれ。

都督には、稲わらだの人形だのの話は伝えていない」

魯粛の告白の意味がつかめず、孔明が戸惑っていると、魯粛は待機している船頭らのほうに目をやりつつ、さらにつづける。

「あんたの作戦を聞いた船頭どもが、ほんとうに荊州から来た軍師の言うことを聞いて、大丈夫なのかと問い合わせてきたのさ。

おれはあくまで江東の人間だ。本来なら、あんたのやろうとしていることを都督に報告しなくちゃならないところだろうが」

と、魯粛はここで言葉を切り、孔明のほうを向く。

「わかるだろう。あんたに都合のよいようにしたのだぜ」


要するに、孔明のこれからしようとする作戦の詳細は、魯粛の胸の内にとどめて、周瑜には報告しなかった、というわけである。

「なにからなにまで、気を遣わせてしまったようですね」

孔明が申し訳なさそうに言うと、魯粛は憮然として言った。

「あんたを助けたかったのもあるが、おれはあんたの構想でもある、天下三分の計を守りたかったんだよ。

それに、今回の都督のやり方には、おれとしても賛成しかねるところがある。

さらに言えば、だいたいあんたを江東に連れてきたのは、おれだからな。こうして窮地に立たされているあんたを見て、黙っているのも不人情かと思ったわけだ」

「で、わざわざ見送りに来てくれた、というわけですか。ありがとうございます。

都督には、孔明は意気揚々と鳥林(うりん)に出かけたと伝えてください」


孔明と趙雲が、言葉通り、意気揚々と船に乗り込もうとするのを見て、魯粛があわてて声をかけてくる。

「待った! おれはただ見送りに来たのではない。

少しでもあんたの助けになろうとおもってきたのだ。鳥林まで、おれも同道する」

桟橋の中ほどまで進んでいた孔明は、怪訝そうに、うすくかかった霧の中にいる魯粛にたずねた。

「先ほどあなた自身が言われた通り、わたしが、あなたを人質にして、曹操に降ろうとするかもしれないということは、考えないのですか?」

孔明のいささか挑発的なことばに、魯粛は眉をしかめつつ答える。

「見てきてわかったが、あんたはそういう卑怯な真似ができるやつじゃない。

そっちの子龍どのにしても同じだ。そこは疑っていないよ。

だが水兵たちは怯えているぜ。あんたはまだここじゃあ、よそ者で、水兵たちにしてみれば、何を考えているのかわからんやつだ。

なにかの拍子に問題が起これば、すぐに連中は、あんたの所為(せい)だといいたてて、下手をすれば水上で反乱を起こすかもしれない。

そうなったとき、悪いがあんたと、子龍どのだけでは、対処のしようがないはずだ」

「なるほど、たしかに。そのために、あなたがわたしたちの代わりに水兵らをまとめてくださるというわけですね」

「そのとおり。水上での戦にかけては、すくなくともあんたより、おれのほうが経験があるし、こいつらとも顔見知りで、いくらか信頼がある。どうだ」

悪い話ではないだろう、と魯粛は言外にうながしてくる。

たしかに筋は通っている。

「わかりました、では、同道をお願いいたしましょう」


「別の船に乗り込んでもらったほうが、都合がよいのではないか」

趙雲が言うのを、孔明は首を横に振って応える。

「いや、旗艦さえしっかりしていれば大丈夫だ。これほど調練された水兵たちならば、そうそう行動を乱すことはなかろう。そうでしょう、子敬どの」

「今宵の大将はあんただ。あんたに従おう」

そう言って、魯粛もまた、孔明と同じ船に乗り込んだ。


つづく

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