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序章 黒鴉の爪痕 その12 二次会はじまる

「子龍どのにも、今宵の宴に参加しないかと声をかけたのですが、断られてしまいました。

そう言う理由だったのですか」

「いや、単に行神亭(こうじんてい)の料理が、特別にうまいというだけだろうよ。

子龍は独り身だから、にぎやかな酒家でのんびり食事をとるのが楽しいのかもしれぬ」

と、これは劉備が添えた。

「聞きそびれておりましたが、子龍どのは、どこに寝泊まりされているのですか」

「ああ、言っていなかったかな。

子龍は城内の兵舎のそばの小部屋を自分の部屋にして、そこで寝泊まりしているよ」

「ひとりで」

「もちろん」

劉備がうなずくと、張飛が唸った。

「もちろん、なんて言っていないで、兄者が蘇果(そか)と子龍を取り持ってやればいいじゃないか。

あいつの目当ては、まちがいなく蘇果だって」

「本人が一言もそうだと言っていないのに、軽率に決めつけてはならぬ。第一、蘇果にはすでにいい人がいるだろう」

孫直(そんちょく)だろ? あいつ、男のくせに厨房に出入りしちゃあ、蘇果にちょっかいを出しているそうじゃないか。

あの優男より、子龍のほうが男ぶりがいいのになあ」

張飛はそう言って、芝居がかった仕草で首を横に振る。


孫直とは、たしか孫乾(そんけん)の年の離れた弟、あのへらへらした感じの青年だったな、と孔明は思い出していた。

孫直も、兄に遠慮してか、欠席をつづけていて、孔明のところに顔を見せないひとりである。


「孫直は、確かにつかみどころのないやつだが、根は真面目だぞ」

劉備が添えると、張飛はふくれっ面をみせる。

「そうだろうかねえ、おれはああいうやつは、どうも好きになれん。

商((いん))の大宰相だったっていう伊尹(いいん)がもともと料理人だったっていうのは知っているが、それとは孫直はちがう。

あいつは、料理人でもなけりゃ、厨房を手伝うでもなし、女を追っかけまわして、つまみ食いをしているだけだからな」

一同はおどろいた。

孫直が厨房に出入りしているということにではなく、張飛が、かの伊尹が料理人だったという事実を知っていたことに。

孔明もまた目をまん丸にしていると、張飛が気づいて吼えた。

「なんだよ、おれが伊尹のことを知っているのがおかしいのかっ。

おれだってそっちの水……」

水野郎、と言いかけたらしい。

「……臥龍先生のように、暇をみつけて勉強をしているのだぜ」

「あー、はいはい、おまえはえらい、えらい」

「兄者! 心がこもってねえ!」

泣き出す張飛をなだめる劉備と関羽。

その三人に、どう割り込むべきか悩む孔明。

そうしているうち、四者ともに酒が進み、まず関羽がうつらうつらとし始め、つづいて張飛が寝込み、さらには劉備が酒瓶を抱いたまま、むにゃむにゃと夢の中に入っていった。

うわばみの孔明だけが、その場に残された。


外に、三兄弟の世話をすべく侍女たちが残っているようだったので、彼女らに世話を任せ、つづいて、警護をしていた者のひとりを呼び止め、趙雲が城に帰っているかたずねた。

「子龍さまでしたら、毎日かならず、閉門の前に戻られているようですが」

「左様か、ならば、子龍の寝泊まりしている部屋に案内してくれぬか」

案内してもらう前に、孔明は酒瓶をひとつ拝借するのを忘れない。


すでに寝入っている者も多い城内は静まり返っていて、案内をしてくれる者と、孔明の衣擦れの音だけがひびく。

たどり着いたのは、たしかに劉備の言うとおり、『兵舎のすぐそば』の、小部屋だった。

小部屋の両どなりは倉庫であるらしく、人の気配はない。

ずいぶん寂しい……いや、静かなところに住んでいるなと孔明はおどろきつつ、趙雲の小部屋の入口に立つ。

案内してくれた者を返し、入口の扉を叩いた。


「子龍どの、すこしお話しませぬか」

声をかけると、すぐに趙雲が顔を出した。

酒をあまり飲んできていないようで、顔はさほど赤くない。

驚いた顔をしているかれに、孔明は満面の笑みを浮かべ、片手に持った酒瓶を掲げて見せた。

「どうです、一杯やりませぬか」

「悪くないが……わが君と、雲長どのと益徳はどうした」

「酔いつぶれて眠っておいでです」

「軍師は酒に強いようだな」

「そのとおり。中に入っても?」

返事の代わりに、趙雲は扉をひらき、手で中に入るように示してきた。


つづく

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